第50話 怪獣殺しの渡米

「一樹様。そんな卑怯な外道、放っておいていいのでは?」


「そういう訳にはいかないよ。とにかく君は研究所に早く帰る事、いいね?」


「なるほど、きっと何かお考えなのですね! トヨタマヒメ、ただいま『けんきゅうじょ』に戻ります!」


 ヒメをひとまず研究所まで送り返した。

 何でも彼女、建物の屋上に跳び移りながら移動していたらしい。


 五十嵐君達の方は、いつでも起きられるよう壁に寄りかからせる。

 絡まれたからといって、さすがに倒れたまま野ざらしには出来なかったからだ。


 あとは放っておいても大丈夫だろうという事で、そのまま帰宅した。

 目を覚ますまで待っていられないし、ヒメの事を絶対に聞かれるだろうし。


 夏休みが明けるまでは彼らと会う事もないから、その間ヒメの事なんて忘れたりなんて。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 そしていよいよ、その日がやって来た。


「いやぁ、空を飛んでいるなんて素晴らしいですね! この時代の人間の妖術、すごすぎます!」


「ヒメ、声は静かにね」


「はい、申し訳ありません」


 ただいま雨宮さんとヒメと一緒に、アメリカ行きの飛行機に乗っているところだ。


 案の定、ヒメは空を飛ぶ鉄の鳥(彼女談)にジェネレーションギャップを喰らっている。

 言動のおかしさに、日本人の何人かが怪訝に見つめているけど、まさかこの女の子が怪獣だとは思うまい。


 それと彼女の姿は、今時の洋服スタイルになっている。

 普段の巫女スタイルは自分の意思で消せるらしいので、そこに森塚さんがコーディネートしてくれた服を着ている訳。


 終業式後に森塚さんがヒメに会いに行ったのは、アパレルへと一緒に向かう為だったのだ。


『ほう、これが一樹様の時代の服! スゥースゥーしますね!』


 未央奈さんが言うには、そう感心しながらスカートをめくろうとしたので、森塚さんが必死に止めたんだとか。


「それにしても、よく神木さんがGOサイン出しましたね」


「うん、僕も意外だって思ってるよ。一応、僕のスマホにヒメの発信機機能は付けたけどさ」


 隣の雨宮さんは、グラサンにレディースーツとパリッとした仕事着を着こなせていた。

 完全に高校生に見えないのがご愛嬌。


 ヒメをアメリカに連れて行く。

 この件を未央奈さんに伝えたところ、案外すんなり通してくれた。


 ヒメは怪獣でありながら人間性豊かなので、法に背く事はしない。

 さらにヒメの戦闘能力がまだ未知数なので、雨宮さんを通じてそのデータを収集できるし、何より僕のボディガードとしてはかなりうってつけ。


 ……というのが未央奈さんの談だ。


「そもそも私が五十嵐さんに絡まれたのが発端ですよね……今でも情けないです」


「気にしないでよ、雨宮さん。別に君のせいじゃないし」


「そうは言いますが……まさか五十嵐さんがそこまでアレだったとは」


 アレって言い方もどうかと……。


 ヒメの脱走の原因について報告したところ、「本当に相変わらずねー」と未央奈さんが肩透かしな反応を見せていた。


 それで原因を作った雨宮さんには厳重注意。

 絵麻と森塚さんには言わないと約束してくれた。


 僕としてはありがたい。

 まさかこんな事でヒメが学校に来たなんて思われたくもないし、絵麻達にも迷惑をかけたくないのだ。


 ちなみに飛行機に乗る前、絵麻と森塚さんから、


『ヒメさんいいなぁ……私も行きたかった……』


『ヒメちゃんがうらやましい……』


 と残念そうな顔をされたのが、僕にとっての罪悪感となっていた。

 2人にはお土産の約束をしたものの、今でも引け目を感じてしまう。


「出来れば絵麻達を連れて行きたかったな……」


「そこは仕方ありません。検査があってもなくても相手が国防長官である以上、少人数で行った方がいいでしょう」


「まぁ、そうなんだけど」


「私としては、ヒメさんが一番気掛かりなのですが。まさか怪獣だなんて明かす事は出来ないと思いますし」


 言われてみれば、ヒメは僕達が確認した中で初めて『人間に変身した怪獣』だ。

 初見の人は驚くに違いない。

 

「うん、そこは何とか僕が話すよ」


「……出来るんですか? 国防長官ですよ?」


「と思うでしょ? 実はそうでもない」


「?」


「着けば分かるさ」


 僕の返答に首を傾げる雨宮さん。


 その間、飛行機がゆっくり降下していくのを感じた。

 そろそろ空港に着陸しようとするところだ。


 バージニア州アーリントンにある『ナチュラル空港』

 空港に降り立った途端、ヒメが目をキラキラと輝かせていた。


「まさかわたくしがあのアメリカに着いたなんて! しかもアメリカってこうなっているのですね! 感激です!!」


「まさか君がアメリカの事、知ってたなんてね」


「ええ、ちょうどわたくしが眠る前に黒船が来航しましたからね! あの時は『黒い船だぁ!』『異国の船が来たぞぉ!』って大騒ぎでした!」


「なんか君の証言、歴史の先生に聞かせてみたい感じがしてきた」


 この発言から察するに、多分ヒメは江戸時代末期に眠ったのだろう。

 ちょっとだけ良い情報が得られたよ。


 空港を出ると、スーツを着た男性が『Welcome Kazuki Ooto』という画用紙を持って立っていた。

 

 そこから彼の車に乗って移動。

 数分かけて高層ビルを駆け抜けて、やがて豪華な屋敷へとたどり着いた。


「『中で国防長官がお待ちしております』と言っています。……何でペンタゴンとかじゃなくてここに?」


「ペンタゴンに僕が入って怪しまれるのを防ぐ為だよ。この方に『案内してくれませんか』と言ってくれる?」


 雨宮さんに通じてコミュニケーションをとった後、僕達は屋敷の中へと案内された。

 

 中を開けると、大勢の女性メイドがお辞儀するエントランスが待ち受ける。

 これには雨宮さんもヒメも「おお……」「すごーい!」と感激するような声を出していた。


 僕達は2階に上がって応接室に到着。

 中には1人の壮年男性が窓を見つめていたけど、入ってきた僕達へと振り返ってきた。

 

「やぁ、久しぶりだね。≪怪獣殺し≫……いや大都一樹君」


 現国防長官――ウィリス・オルセンさんだ。



 ―――――――――――――――――――――――――――――――――



 バージニア州アーリントンにあるのは『ロナルド・レーガン・ワシントン・ナショナル空港』ですが、さすがにそのままはいけないので『ナチュラル空港』にしました。

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