第51話 怪獣殺しへの依頼
整った白髪と深いしわが特徴的なこの男性。
彼が今の米軍を束ねるウィリス国防長官であり、僕の知り合いでもある方だ。
「ご無沙汰しております、国防長官」
「名前呼びでもいいと言ったがね……そちらのお嬢さん方は君の友達かな?」
国防長官が雨宮さん達に振り向くと、まず最初に雨宮さんがグラサンを外しつつ敬礼した。
「と、特生対諜報班の雨宮飛鳥と申します! この度はご招待していただき誠にありがと……」
「おお! おじ様って日本の言葉喋れるんですね! 異国の人なのにすごいです!」
「ヒメさん!!!」
相変わらずマイペースなヒメに雨宮さんが叱責したところ、ハハッと国防長官が笑った。
「気にしなくていいさ。君の名前は?」
「申し遅れました! わたくしは一樹様にお仕えするトヨタマヒメと申します!」
「ふむ……変わった名前だ。それにどこか浮世離れしている……」
「実はヒメ、人間に変身できる怪獣なんですよ」
僕はここでヒメの種明かしをした。
当然と言うべきか、雨宮さんが何故明かしたと言わんばかりに食ってかかった。
「お、大都さん! 何を急に!?」
「バレないようするなんて、この方の前では無理だよ。ですよね国防長官?」
「うむ。人間の姿に変化する怪獣か……やはり日本にもいるんだね」
「……す、過ぎた言葉ですが、割とあっさりとしていますね……」
「ん? まぁ、そういう個体がいるのを知っているからね」
僕が雨宮さんに言った通りだ。
国防長官は柔軟な対応力を持っていて、それもあって米軍の間では評判もいい。
僕がわざわざ明かしたのも、こう答えるのを見越していたからだ。
「君が怪獣だったとしても歓迎するよ。大都君の友達なら信じられるからね」
「おお、何ともお優しい方! 一樹様、良いおじ様と友人になりましたね!」
「ヒメ、この方はおじ様じゃなくて国防長官ね。それとあまり粗相のないように」
「はっ、申し訳ありません!」
「ハハハ、別におじ様でもいいよ。それよりも立っているのもなんだし、そちらに座りなさい。話もそろそろしたいしね」
ウィリス国防長官が勧めてくれたソファーに、僕達は一斉に座った。
この際、雨宮さんはぎこちなく、ヒメは遠慮なくドカッと座っている。
お互いの違いがよく分かるよ。
「さて、私はそろそろ仕事場に戻らないといけないので簡潔に述べたい。結論から言えば、アメリカ郊外の怪獣達が暴れ回っているのだ」
「怪獣達が?」
アメリカは非常に広大なので、怪獣が現れても人里のない郊外ならば放置される事もある。
もちろん米軍も監視はしている。
ただ怪獣はその郊外を縄張りとして動かない事が多い為、お互いに不干渉を貫いているのだ。
「郊外を縄張りとしていた怪獣達が、急に気が立っているようでね。わざわざ遠くにある縄張り外の田舎を襲撃したり、他の怪獣と争っていたりしている。ちょうどその映像もあるから見てほしい」
国防長官がタブレットを取り出し、映像を再生させる。
映し出されたのは、どこかの森林地帯。
そこには2体の異なる姿をした怪獣達が、巨体を生かした激しい戦いを繰り広げていたのだ。
――ガアアアア!!
――ギュウアアアア!?
鱗を生やした恐鳥類のような怪獣が、トサカの生えた恐竜型怪獣の喉元を喰らい付いている。
恐竜型怪獣は必死に暴れ、遂には恐鳥類型怪獣をなぎ倒す。
それでも後者は立ち上がって、また激しいド突き合いを続けた。
続いて映像が切り替わり、田舎らしき町が映し出される。
その田舎を蹂躙する蛇のような怪獣に対し、米軍が銃器を持って応戦している。
またたく間に、黒煙と爆炎がその田舎を包み込んでしまった。
「この怪獣達の異常行動から、私はある結論を導き出した。数世紀前にも起きたとされる『スタンピード』の再来ではないかという事に」
「スタンピード……聞いた事があります」
何でも北米植民地時代の事、アメリカ内の怪獣達が異常暴走するという記録が残っているらしい。
それにより数えきれない死者が続出し、植民が遅れてしまう原因にもなったとか。
そういった怪獣の行動に、大型動物の群れが暴走するスタンピードの名前が与えられた。
原因については諸説あり、環境の影響、怪獣の餌が減った事による飢餓、あるいは怪獣にしか感じ取れない周波数とか。
いずれにしても、コイツらが人口密集地に入ったら尋常じゃない被害が生むのは間違いない。
「スタンピードは、アメリカにおける怪獣大災害の内の1つだ。またアメリカが窮地に立たされる時が来たらしい」
国防長官の言う通り、アメリカではスタンピードの他にも壮絶な怪獣大災害が存在する。
引き起こした怪獣は既に死んで過去のものになっているけど、スタンピードの方は健在のようだ。
「それで僕を呼んだのは」
「察しの通り。今は米軍が警戒や掃討に急いでいるが、もちろん抜けもある。君はその抜けた場所に埋まってほしい」
「なるほどですね。その依頼、お受けいたします」
僕は即答をした。
すると雨宮さんがこちらへとまた向く。
「大丈夫なんですか、大都さん……? いくらあなたでも多数の怪獣を相手するのは……」
「別に大した事じゃないよ。前にこっちに来た時、郊外にいる怪獣達を間引きした事あったし」
「……もしかして前に、アメリカに来たというのはそういう?」
「うん」
「その複数の怪獣を短時間で?」
「う、うん」
「……すみません。今のはなかった事にして下さい」
「……? 別に大丈夫だけど……」
前にアメリカに行ったのは、多すぎてしまった怪獣達を減らすという今の状況に似たものだった。
もちろんその時にはスタンピードは起こってないので、ちまちま怪獣を減らすといった感じだ。
「わたくしも一樹様のお手伝いをいたします! わたくしの手にかかれば奴らなど!」
「という訳で、ヒメにも手伝わせて大丈夫でしょうか?」
「ああ、彼女が望むのならば。ではよろしく頼む……君達に神のご加護があらん事を」
彼は信心深く、胸に十字架を刻む。
国防長官が頼まれたのなら、パッパとやらないとね。
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