第48話 怪獣殺しに面倒事
「大都君、ここら辺で大丈夫だよ。ありがとうね」
特生対研究所を後にした僕達は、まず森塚さんを自宅付近まで帰らせた。
「うん。ただごめんね、買い物に付き合わせちゃって」
「いやそんな、あたしもちょうど買いに行きたかったから。おかげで手間省けちゃった」
先ほど絵麻と森塚さんと一緒に、スーパーで買い物をしていた。
米とかそういう重いものは、僕が持っている形になっている。
「じゃあ大都君、また明日。えっと……絵麻ちゃんもまた」
「ええ、また今度」
森塚さんが絵麻と向かい合った途端、2人のオーラが変わった気がした。
一緒にうたた寝していたと思ったら、今度はこうなるなんて……仲がいいのやらそうじゃないのやら。
とにかく森塚さんが離れたので、僕達も歩を進めた。
「絵麻、袋重くない?」
「大丈夫。にしてもヒメさんに会ったと思ったら、今度はアメリカに行けだなんて、ビックリだよ」
「まぁね」
それは特生対研究所内にいた頃。
未央奈さんから、突然そんな話をされたのだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「アメリカですか……」
未央奈さんのアメリカに行ってほしいという話に、僕はそう漏らした。
「国防長官直々のご指名よ。内容については、アメリカに着いたら話すとも言ってたわ」
「また行かないといけないか……」
実はこういった形でアメリカに行くのは、数年前にもあった。
その時には怪獣退治を任されたものだ。
「お、大都君って国防長官と知り合いなの!?」
「まぁ、うん。ちょっと怪獣関連で」
「怪獣関連で知り合いになるとかあるんだ……アメリカ全土を襲うヤバい怪獣を殺ったりとか?」
「そんな大それた仕事じゃないよ」
一般人が国防長官と知り合いになるなんてないから、そう思うの無理ないか。
それと確かに怪獣関連で行っていたんだけど、そこまで大々的ではなかったな。
「前に行った時は私が通訳していたけど、今回は飛鳥ちゃんがやる事になるわ。父から英語教わったみたいだし」
「本当なの、雨宮さん?」
「ええ何とか。ただ……軍事用語レベルはかなり難しかった記憶しかないです」
「そうなんだ」
何というか、時折雨宮さんも人間なんだなぁと感じる面もある。
そこが彼女の魅力だろうけど。
「それで絵麻ちゃんと凛ちゃんは残念だけど、私と一緒に日本に残ってもらうね」
「えっ、何で? 前は一緒に付いて行ったのに」
「ごめんなさい、どちらも身体検査の予定が入っちゃったの。怪獣と関わるからどうしてもね」
「そっか……」
絵麻が目に見えて落胆をした。
森塚さんも「えー……」とこぼしている。
怪獣には、人体に悪影響を及ぼす細菌を保有する奴も少なくない。
なので僕はもちろん、僕の近くにいる絵麻や森塚さんも早期発見に繋げるべく検査する必要があるのだ。
「絵麻、お前を残して行く事になってごめんな。留守番できるかい?」
僕は落ち込んでいる絵麻の頭に、ポンと手を置いた。
絵麻は頬を赤くしながらも、
「……うん、呼び出しかかったならしょうがないよね。出来れば早く帰って来てほしいな……」
「もちろん。なるべく仕事は早く終わらすよ」
僕が答えると、嬉しそうに口元を緩ませる絵麻。
それから森塚さんへと振り向くも、何故か彼女がジト目をしていた。
「どうしたの、森塚さん……?」
「いや……絵麻ちゃんの頭よく触る?」
「う、うん……」
「そっか……まぁ、あたしもちゃんと待ってるから」
こっちはまだ落ち込んでいるみたいだな……。
でもまぁ、これで2人は大丈夫だろう。
それでふとヒメの存在を思い出す。
僕がいない間に、彼女をどうするのかが気掛かりだ。
「未央奈さん、ヒメについては」
「一応日本で待機なんだけど、彼女が納得するかどうかなのよね。第一、彼女ってアメリカの事知っているのかしら?」
「そこは彼女が眠った時、いつの時代だったのかによりますね」
時代によっては、アメリカという名前が伝わっていない事もある。
彼女からピンと来ないと言ってきても、実にありえる話だ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
といった話があったという訳だ。
行く日は夏休みが入って3日後。
明日に終業式があるとはいえ、いくら何でも早い気がする。
「終業式終わってすぐって大変だね……」
「それはしょうがないよ、軍のお偉い方にお呼びがかかったんだし。まぁ何とかなるよ」
もしこの間に大怪獣が現れたら日程は延長されるし、アメリカの出張時に現れてもすぐ帰る予定だ。
もっとも出張時に、そんな都合よく面倒事はやってこないと思うけど。
そうして翌日となって、終業式が始まろうとしていた。
その時間までにまだまだ空きがあるので、僕は教室の机で小説を読んでいた。
周りの皆は夏休み中に海に行こうとか祭りに行こうとか、それはもう後々に来るイベントに期待を膨らませている。
僕もアメリカの件が落ち着いたら、絵麻達と一緒に遊びに行きたいものだ。
「あっ、五十嵐君!」
そう考えていた時、教室に五十嵐君が入ってきた。
雨宮さんと口論して早退した彼に、少なからず驚きの声が出てくる。
「五十嵐君、
「ああまぁ、そんな大した事じゃないよ。ちょっと疲れててさ」
「体育の時に雨宮さんと言い合ってたっぽいけど、それと関係ある?」
「ああ……あれは雨宮さんは悪くないわ。何でもない」
ギャルにそう答えた後、自分の机に座る五十嵐君。
……だったけど、何故か僕に振り向いてギロッと睨みだす。
僕がジロジロ見ていたのが気になったのかな。
彼には悪いので、すぐに『大怪獣惑星』へと目を落とした。
この小説は、軍人の主人公達が植物怪獣に支配された惑星へと転移され、生き残りをかけた戦いをするというSFストーリーだ。
うん、これは良いものだな。
第2巻では機械怪獣が変貌した巨大ダンジョンを攻略するとか聞いたし、面白そうだからそれも買っておこう。
それから終業式が始まって、校長先生の長く眠たい話を聞く事に。
終わった後、僕達はすぐ帰宅を始めた。
「じゃあ雨宮さん。私、行ってくるから」
「ええ、お気を付けて」
昇降口において、森塚さんが雨宮さんに言ってから出て行った。
実は森塚さん、未央奈さんとヒメに会うよう指示されている。
怪獣関連とは全く無関係なので、彼女に任しても問題ないはずだ。
そして雨宮さんは特生対本部に行って、アメリカ行きの処理を済ますとか。
つまり僕は久しぶりに1人で帰るのだ。
さて、僕は下駄箱から靴を取り出しながら予定を整理する。
まずは服とかの荷物の確認。
それから出発当日にどう動くのか、雨宮さんとリモートで相談。
ふぅ、タスクが結構あるけど、まぁ何とかなるかな。
「……一体何ですか、五十嵐さん? 急いでいるんですが」
「ちょっと話すだけだよ。早く来て」
ただ昇降口を出ると、思いもよらない展開があった。
何故か雨宮さんが、五十嵐君達に強引に連れていかれているのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます