第47話 怪獣殺しへの大事な話
ムカデ怪獣を殲滅した後、僕達は未央奈さんに言われた通り、諜報班の車で特生対研究所へと向かった。
そこで未央奈さんと合流し、ヒメ(ちゃんと人間体)をある部屋へと案内させた。
「さぁ、入って」
「わぁ! まるで神の国に来たみたいです!」
特生対研究所内の来客用部屋で、白が基調の近未来的なデザインをしている。
浦島太郎状態のヒメは、それはもう有頂天にキョロキョロ見回していた。
「何ですかこれ!? 全部白い! もしや噂に聞いた異国の装飾でしょうか!?」
「ジェネレーションギャップといった感じね。とりあえず話をしたいから、そこに座ってくれる?」
「あーはいはい、了解です! うわっ、この座布団柔らかいですね!」
ソファーにドカッと座るヒメ。
その向かいのソファーに未央奈さんが座って、お互い対面した感じになる。
それで僕と雨宮さんは立ったまま様子見。
「さて飛鳥ちゃん、先ほどの報告を」
「はい。トヨタマヒメさんと大都さんが現場に現れた『ワーム』と交戦し、これを撃破しました。ワームには強酸性の毒液を内包していましたので、しばらくその周辺の森林に悪影響を与えるかと」
「となると一時封鎖も視野に入れた方がいいわね。ヒメちゃん、ワームから部下を守ってくれてありがとう。諜報班を代表して礼を言わせてもらうわ」
未央奈さんが頭を下げると、手をぶんぶん振るヒメ。
「いえいえ、とんでもないです! 常にお館様から『力ある者は弱き者を守るべし』と教えられたものですから! こんなの当然です!」
「そんな謙遜しなくていいのに。それでどうしてあの森の中で眠っていたのかしら? 訳を聞かせてくれる?」
「森にですか? えっと、いつの時代なのか忘れましたが、実はお館様から言われたんです。もう自分は長くないって」
「長くない……」
「ええ、お館様はご自身の死期を悟っていたんだと思います。それでわたくしにこう言ったのです。『いずれ我が肉体は朽ち果てるが、魂は現世に留まる。そして後世において、我が後継者たる存在が現れるだろう。その者が現れるまで、お前は神の山で身を隠していてほしい』」
「それで比良坂山に眠っていた訳ね」
「はい」
なるほど、そういう経緯があったのか。
すると雨宮さんが前に出て、
「後継者というのは、お館様の力を持った人間の事ですよね。その時代にはいなかったのですか?」
「あー、お館様の子孫ですよね? もうその時代には血も力も薄れてしまいまして、ご自身がお館様の子孫という事を忘れてしまったのですよ」
「そうなるとお館様、大都さんのような人が出てくるのを予知していたんでしょうかね?」
「どうなんだろう」
なんて僕は言ったものの、お爺さんの事だ。
本当に予知していたとしてもおかしくはない。
なにせ彼は遥か長い年月を生きてきた。
生まれたのは紀元前かもしれないし、はたまた原始時代かもしれない。
それほど長く生きていれば、未来の事なんてある程度分かってくるはずだ。
「その後継者ってどうなんだろうと思ってたのですが、まさかこんな美形の方が現れるなんて! 目元に妙な器具をつけていても分かります!!」
美形だなんて……そんな顔がいいのかな、僕。
「よかったわねヒメちゃん。それよりもあなたは長く眠っていたせいで、まだこの時代の事を知らない。しかもあなたは怪獣だから、その辺の理解も……」
「そこは分かってますよ。わたくしのような存在は常に恐れられてましたから」
「その割には平気な顔しているわね」
「まぁ……正直言えば悲しいなぁと思ってますが、でも人外の類いはそういうものだと理解してますので。むしろ一樹様やあなた様みたく、わたくしの事を優しくして下さる方がいて嬉しいです」
そうほっこり笑うヒメ。
きっと以前から、人間からいい目で見られなかったのかもしれない。
「未央奈よ」
「えっ?」
「私は神木未央奈。一樹君の隣にいるのが雨宮飛鳥ちゃんで、部屋の外にいるのが一樹君の妹の絵麻ちゃんと友達の森塚凛ちゃん。名前忘れたら、また私に聞いてね」
「……はい、未央奈様!」
「とまぁ、あなたはしばらくこの部屋で暮らしつつ、外の文化などを知ってもらう事にするわ。それまで行動をある程度制限しちゃうんだけど」
「かしこまりました! ただ一樹様に身の危険がありましたら、即急行しちゃうと思いますね。一樹様に手を出す輩は許しませんので」
「そんな頻繁に怪獣と遭遇しないから、大丈夫だと思うよ」
僕はそうヒメに言い聞かせた。
そんなに怪獣と出会ったら、さすがにウンザリする。
「私は研究所を離れる事あるけど、ちょくちょくあなたの様子を見ていくわ。何か欲しいものはある?」
「特にないですねー。強いて言うなら眠たいんでお昼寝していいですか? わたくし、お昼寝が好きでして」
「もちろんいいけど」
「分かりました! ではおやすみなさーい!」
ベッドにガバっと倒れた後、ヒメがスゥースゥーと寝息を立てた。
早すぎる……。
「なんというか……色んな意味で怪獣らしくないですね」
寝てしまったヒメを見て、雨宮さんが呆れるように呟いた。
「一応背中に発信機付けたけど、この性格だと心配ないかもね。ほんと、怪獣という種族ってのは面白いわ」
「面白いかはともかく、人間の常識を超えてしまってますね。大都さんがバハムートと念話できるって聞いた時も、そんなアホなとか思いましたし」
「あなたにとっては驚きの連続よね。さてお昼寝の邪魔しちゃいけないし、そろそろ出るわよ」
未央奈さんが先に部屋を出て、僕達もその後に続いた。
扉のすぐ近くにベンチがあって、そこに絵麻と森塚さんが座っている。
ただお疲れだろうか。
どちらもウトウトと夢の中一歩手前になっていた。
「2人とも、終わったよ」
「ハッ……! ごめん兄さん……森塚さん、森塚さん!」
「ふわっ? あっ、ヨダレ……はしたないなぁ」
森塚さんがほんのちょっぴり出ていたヨダレを拭った。
それはそうと、僕にはまだ用事が残っている。
「未央奈さん、確か大事な話があるとか言ってましたけど」
「ええ、そうなのよ。まさかこんな時に舞い込むとは思ってなかったけどねぇ」
「そこまで言うとは、かなり面倒ですかね?」
僕が問いただすと、コクリとうなずく未央奈さん。
「一樹君、夏休みに入ったらアメリカに行ってもらえるかしら」
「……はい?」
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