第45話 怪獣殺しの付き人
池の中に入ってみると、僕は驚きを隠せなかった。
なんとこの池、思っていたよりもかなり深い。
人間4人を縦に並べたくらいの感じで、まるで超巨大な壺に入ったかのような錯覚に陥る。
それに青々としていたのは水面だっただけのようで、中はまるで澄んだように綺麗だ。
この底に怪獣が眠っているという訳ね……。
お爺さんが言うには、僕の持つエネルギーを分け与えれば目覚めるとの事。
≪龍神の劫火≫の威力を最低限に調整すれば出来るけど、本当にそれで目覚めるのやら。
「まぁ、当たって砕けろとも言うか」
僕は右手を掲げ、自分のエネルギーを放った。
エネルギーは障壁を貫通して、池底に浸透する。
そこからじっと待っていると……なんと池底が震え出しながら崩落したのだ。
池底が崩落すると、奈落とも言うべき暗い底が見えてくる。
これはまた、海洋恐怖症の人が見たら失神しそうな雰囲気と見た目だ。
障壁で浮いているので沈む心配はなく、興味津々に奈落の底を眺めていると、何か大きな物体が這い上がってきた。
それが僕の目の前に対峙する。
「……これが池の怪獣?」
薄いピンク色の鱗をした、魚と龍の見た目を併せ持った奴。
頭部に花びらのようなヒレが付いているのが特徴的だ。
例えるなら華やかなリヴァイアサンといったところか。
ソイツがチロチロと蛇のような舌を出し入れしながら、緑色の目で僕を見つめてくる。
警戒しているだろうか。
もし凶暴な奴だったら、殺さない程度にこらしめておきたい。戦闘準備は万全だ。
『この見た目、さっきの力! 間違いない、お館様がおっしゃっていた一樹様なのですね!?』
「……えっ……?」
この怪獣……喋った?
いや、喋る怪獣はお爺さんがいるけど、それ以外で見たのは初めてというか。
それに『お館様』というのはお爺さんの呼び名でもある。
彼の関係者なのだろか。
『あっ、失礼いたしました! わたくし、お館様に仕えてましたトヨタマヒメと申します! この名前はお館様から頂いたものでして……あっ、ヒメとでも言って下さいね!』
「う、うん……挨拶どうも。というか何で僕の名前を……」
『それはもちろん、仮死状態になっている時にお館様の声を聞いたからです! 「いずれ我が後継者たる少年がそちらに向かう。どうか、かの者と共に歩んでほしい」と! なので眠りながら今か今かと待ち続けました!』
「なるほど……となると、君は僕達の味方という事でいいのかな?」
『はい! 全身全霊で尽くしますので、どうかよろしくお願いいたします!』
女性的な見た目に違わず、口調や声質も女の子のそれのようだ。
とにかく彼女(?)に敵意がない事に、少しばかり安心をした。
しかしここから問題だ。
「後継者と共に歩んでほしいとは言うけど、今のご時世、怪獣が出回るのは容易じゃないんだ。管理とかそういうのが面倒で……」
『ああ、その辺についてなら心配には及びません』
「えっ?」
意外な即答に思わずキョトンとしていると、何とヒメが纏う鱗が四散した。
尻尾から顔にかけて剥がれていき、鱗が池の中に舞う。
すると、ヒメの中から小さい影が出てきた。
「……えっ?」
「これならいかがでしょう!? どこからどう見ても、人間界で活動できる姿ですよね!?」
セミロングの髪をして、巫女服のようなものを着て、そして絵麻と同年代に見える可憐な顔つきと容姿。
僕の目がおかしくなければ、あの龍のような怪獣が人間……それも女の子に変身したのだ。
……嘘でしょ?
「…………」
「あれ、どうかしました?」
「いや……ヒメでいいかな? ヒメって人間に変身できるんだ……」
「そりゃあ、お館様の付き人ですから! お館様から何も言われなかったのですか?」
「全然……」
確かにお爺さんみたいに、人間に変身できる怪獣は伝承の中にいたとはされている。
こういう仕事をしていくうえで、いずれそういう個体と出会う事は覚悟していた。
ただ、まさかこんなところでそうなるなんて思わず、マジで呆気に取られてしまう。
それに思い出した。
彼女が名乗った『
まさに今の彼女に相応しい名前。
お爺さんはその由来から、彼女にトヨタマヒメの名を与えた。
という事にすれば矛盾はしない。
(実際にその通りだな)
(お爺さん、考えているところにいきなり入らないでほしいな)
いきなり脳内で話しかけられたので、僕はツッコミを入れてしまった。
全くこの人は……。
「お館様! この通りトヨタマヒメ、ただいま復活しました!!」
(うむ、元気で何よりだヒメよ。先に伝えたように、我が身体はとうに朽ちてしまった。だからこそ我が後継者たる大都一樹に付き添い、人間に害する輩を退けてほしい。それがお前に対する我が望みだ)
「……本当にお館様は天寿を全うしたのですね。ヒメ、悲しい限りです……」
今さりげなくしているけど、ヒメにもお爺さんの声が聞こえているらしい。
そんな彼女が悲しそうにして、目元にそっと袖を触れさせる。
泣いているのだろうか。
そもそも水の中で平然と喋っている辺り、さすがは怪獣というべきか。
(案ずるな。確かに身体はなくなったとはいえ、この通り意思は健在だ。いつまでもお前を見守っているぞ)
「……お館様ぁ……」
ヒメの憂いに満ちた表情からして、いかにお爺さんが慕われたのかがよく分かる。
「……分かりました! 確かにお館様のご遺志、しかと受け取りました! 一樹様、改めてよろしくお願いいたします!」
「うん……じゃあそろそろ上がろうか。それと池の前に3人ほど女の子いるんだけど、その背の高い子の前にはお館様の名前を出さないでもらいたいな」
「ああ、秘密かなんかしているんですね? それなら大丈夫なんですが」
「ありがとう」
森塚さんにお爺さんの事を語るのは、まだまだ先になりそうだ。
僕達は浮上して、絵麻達の前に到着する。
「兄さんどうだっ…………誰ッ!!?」
「い、池の中から女の子!!? 妖怪!!?」
「むぅ、失敬な!! 妖怪なんかと一緒にしないで下さい!!」
ヒメの姿を目にした途端、絵麻と森塚さんが恐ろしいものを見たような表情をする。
……こうなるかもなぁっと思っていたら、本当になってしまったようだ。
「……大都さん、一体何があったんです?」
「……いや、うん……」
さて、どう説明しようか……。
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