第41話 怪獣殺しの昼食

「やっと着いたぁ」


「言っちゃなんだけど、ここで大丈夫なの森塚さん?」


「うん、ここ滅多に誰も来ないって言ったの大都君じゃん」


 まぁ、そうなんだけど……。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 実は昼休み、僕がいつも通り弁当を食べようとしたところ、森塚さんからラインが届いたのだ。

 

《森塚さん:今日お菓子作ってきたから、お昼ごはん一緒に食べよ。どこにする?》


 まさか昼食を一緒にするなんて思わなかったから、読んだ時は目が点になったものだ。


《一樹:いいの、僕と一緒で?》


《森塚さん:うん。それにお菓子が美味しいかどうか聞くのも、あたしの仕事なんだし》


 そこまで言うなら……そう僕が折れた形になる。

 ちなみに雨宮さんとかを巻き込んだグループラインじゃないから、雨宮さんには届いていなかったのだ。


《一樹:場所っていうと、滅多に誰も来ない屋上付近とかかな。雨宮さんはどうする?》


《森塚さん:ああ……ごめん。出来れば2人で》


 ……何故2人なのかさっぱりだった。


 ただ僕が困惑している間にも森塚さんが目配せしながら行ってしまうわ、雨宮さんは音楽聴きながらサンドイッチを食べているわで、もう仕方ないと行く事になった。


 ちなみに廊下を歩いている途中、昨日会った清水さんと友達が歩いているのが見えた。

 その清水さんが僕を見つけた途端、若干怯えた表情を浮かべていた。


「あれっ、どうしたの由良?」


「う、ううん……今さっき大都を見たら『ああ、こんな奴いたなぁ』ってさ」


「ああ今の。もう相手するのつまんないし放っておこうよ」


「……そう……だね」


 会話からして、もうあちらから突っかかってこないだろう。

 これからも話す事ないんだと安堵したものだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 そうして屋上付近に着いて、今に至る。


 ちなみにこれは余談。 

 森塚さんの欠席理由を先生は一応知っているけど、クラスには「姉の家に行くフリをして家出した」と伝えていた。

 

 何故そうなったかというと、事情を説明した未央奈さんの口添えがあったから。

 もし本当の事を言ってしまったらクラスにある事ない事言われて、森塚さんが居づらくなるのは目に見えている。


 それを反論せず協力してくれた先生には本当感謝しかない。

 

「穴場って感じだね。それに案外汚くもないし、いい感じじゃん」


 森塚さんは屋上前に来るのが初めてらしく、興味津々に眺めていた。

 僕はここでさっきの疑問を問いかけてみる。


「ところで森塚さん、何でグループラインでやらなかったの? 絶対にした方がいいって訳じゃないけど」


「えっ? ああ……絵麻ちゃんに見られたらマズかったから……ってそんな事はいいからさ! 早く食べよ!」


「そ、そう……」


 僕達はそこに座って、お互いの弁当箱を広げ始めた。


「五十嵐の奴、『俺達と一緒に食おう!』ってしつこかったなぁ。何が悲しくてあんたと食べなきゃなんないのって話」


「そこまで言わなくても……五十嵐君は好意で誘ったっぽいし」


「あたし、アイツの事が好きじゃないんだけどね。というか態度に出しているのに声をかけてくるし、多分あたしが相手してない事に全く気付いていないんだよ」


「そうかなぁ……」


 それはさすがに考えすぎのような気もする。

 いくら五十嵐君でも、そこまで鈍感じゃないとは思うけど。


 ともかく弁当のふたを開けてみれば、おにぎりやら唐揚げやら美味しそうなのが盛りだくさんだ。

 

 しかも今回はウサギ型のリンゴ付き。

 絵麻の奴、リンゴ切るの上手くなったな。


「それって絵麻ちゃんが作ったの?」


「全部手作り。このリンゴなんか上手いと思うんだけど、どう?」


「確かに……こりゃあ負けていられないかも」


 別に勝負しなくてもいいような……。

 それから森塚さんが思い出したように花柄の巾着袋を取り出し、中のものを僕に見せた。


「これ、家で作ったチョコチップクッキーなんだけど……よかったら食べてみて」


 透明な袋に包まれたクッキーだった。

 見た目からして売り物と全く変わらないし、結構美味そうだ。


「じゃあご飯を食べた後にでも」


「いや、1個だけでいいから今食べて」


「えっ、何で?」


「いや……すぐに感想を聞きたいから」


 ゴニョゴニョとしていたがちゃんと聞こえた。


 確かに未央奈さんからおやつを提供しろと言われたから、その味を確かめるのも僕の務めだ。

「じゃあ1個だけ」とお言葉に甘えて、そのクッキーをかじった。


 ……美味い。


 サクサクで、中のチョコチップも甘い。

 これはイケるな。


「どう?」


 喋るとクッキーの粉が吹き飛ぶので、指でOKサインを作った。

 ふーっと息を吐く森塚さん。


「よかったぁ……じゃあ合格って事?」


「……んぐ、そういう事になるね。結構美味しいよ」


「~~~~」

 

 森塚さんが口元を手で隠して、そっぽ向いてしまった。

 ……さっきからどうしたんだろう。


「家族以外で褒められたの初めて……」


「そ、そう……」


「じゃ、じゃあ、次はゼリー作ってくるよ。絵麻ちゃんに負けないくらい頑張るからさ、よかったらこれからも食べてほしいなぁ……なんて」


「……分かった。楽しみにしているから」


「うん、ありがとう……」


 そう僕が返すと、ぎこちなく微笑む森塚さん。

 そのゼリーが終わったら、次はどんなデザートが来るんだろうか。


「さて、ご飯食べようか」


「あっ、動画付けていい? 見ながら食べる主義だけど」


「いいよ」


 要はテレビ見ながらご飯を食べる感じなので、別に拒否する意味はなかった。

 自分も家ではそうしているし。


「……大都君、特生対が大宮の怪獣を倒すやつあるみたいだよ。見てみる?」


「大宮……確か眠っていた地底怪獣だよね」


 そういえば地底怪獣が目覚めてしまったので掃討したとか、そんな話を小耳に挟んでいた。

 かの動画は特生対公式が出しているもので、投稿して1日も経たたない内に100万再生数を獲得している。


 いざ再生すると、1本角の地底怪獣が咆哮を上げながら建物を破壊していった。

 降り注ぐ瓦礫の中を突き進む、特生対の防衛班。


『撃つぞぉ!!』


 あっ、榊原さんだ。

 しかもその手には、模擬戦時に使った巨大新型ミスリルが握られている。


 仲間が援護射撃している中、榊原さんが新型ミスリルを地底怪獣へと照準。

 気付いた怪獣が彼に向かうも、その前に青白いエネルギー弾を放った。


 轟音と共にエネルギー弾が怪獣の腹部を貫き、上空へと舞い上がる。


 ――グオオオオオオン……!!

 

 結果、腹部には人間サイズの風穴が開き、地底怪獣は血反吐を吐きがら倒れ伏した。


掃討完了クリア!! 動画をご覧になっている皆、この通り怪獣をやっつける事が出来た。だからもう安心してほしい』


 動画が特生対のPRも兼ねているからか、榊原さんが視聴者を意識した台詞せりふを口にした。


『実は俺、心から尊敬している人がいてな。名前は出せないんだけど、いつかその人に負けないような隊員を目指しているんだ』


 それって僕の事かな……いや、他の人かもしれないけど。

 

 前にも思ったけど、僕は尊敬される立場じゃない。

 むしろ僕としては、こうして市民の為に活躍する榊原さんや防衛班にリスペクトを感じている。


『地底怪獣も怪獣を匿ったカルトも倒す事が出来たが、もちろん戦いはまだまだ続くはずだ。それでも俺達は立ちあがるよ、特生対の名にかけて!!』


 森塚さんの事情は伏せられたものの、『恵みの会』の事はもちろん報じられている。

 冤罪で捕まった人もなんとか解放されたみたいので、一件落着といったところだ。


 ……まぁ、肝心のカルトと警察の癒着が伏せられている辺り、かなり闇っぷりが見え隠れしている。


「いやいや、『恵みの会』を壊滅させたの大都君達だから。何でこの人、自分の手柄のように言ってんの」


 榊原さんのコメントを聞いた森塚さんが、若干頬を膨らませていた。


「それでいいんだよ。こうして僕の事隠してくれてるんだ」


「えっ?」


「高校生や中学生がカルト倒したのと、特生対がカルト倒したの、世間はどっちを信じるだろうね。それに僕はなるべく平穏に生きたいから、むしろ特生対の手柄にされた方が嬉しいんだ」


「……なるほどね。何で慎ましく生きているんだろうって思ってたんだけど、今なら分かる気がする。……ごめんね、この人に怒っちゃって」


「いいよ。だから森塚さんには悪いけど、そういう事に協力してくれないかな?」


「うん、もちろん。大都君を困らせるような事は絶対にしない」


 森塚さんのその言葉に、僕は彼女を信じようと決意した。

 彼女ならきっと……いや、絶対に上手くやってくれる。


「でもなんで、大都君にあんな力があるんだろうね」


「それは機密情報だから言えないよ。未央奈さんの許可がないと」


「そうだよねぇ。もしかしたらご先祖様に怪獣がいて、その力を使ってたりとか。って、そりゃあないか」


「…………」


「ん、どうしたの大都君?」


「い、いや……」


 森塚さん、それパーフェクトだよ……。

 呆然とする僕に対し、彼女がハッとするような顔をした。


「えっ、えっと……これ以上は詮索しないからね? そういうの機密なんでしょ……だから聞かなかった事にして……」


「う、うん……」


 人間に変身できる怪獣がかなり希少で、かつ人間との間に子を成そうと思っている個体なんて一握りだから、いわゆる『怪獣と人間の混血児』の伝承なんて全くと言っていいほど存在しない。

 特生対も僕や絵麻を通じて初めて知ったらしい。


 だから単に勘で言っただけだと思うけど、何でピタリと当てられたんだ? 

 もしかして案外鋭いのか、彼女?


 そんな彼女の恐ろしさを身を知った僕は、この後雨宮さんに「昼休みどこ行ってたんですか?」と聞かれてしまった。

 森塚さんに(何故か)口止めされたので、言うに言えなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る