第40話 五十嵐琢磨 視点
「ああ、クソ……イライラする……」
五十嵐琢磨は教室の机に座るなり、小さく
森塚凛と連絡が取れないと聞いてから1日経ったのだが、未だに彼女の連絡先を教えてくれなかった教師に苛立ちを隠せていなかった。
さらに今日に凛が来る保証もないので、そういった心配も積もってしまう。
「まぁ、そうイラつくなよ五十嵐」
「そうだよ。もしかしたら今日、森塚さんが来るかもしんないじゃん」
「かもだろ。もし来なかったらどうしてくれるんだって話だわ。あー……先公が住所とか教えてくれれば、そのまま先輩の力を借りて何とかなったかもしんないのに……」
琢磨は特生対防衛班になる事を望んでいる。
なので上手く凛を助ける事が出来たら、防衛班の夢に一歩近づくと信じて疑わなかった。
それに琢磨にとって凛は「彼女にしたい子ナンバーワン」だ。
これを機に彼女の好感度がアップしないかと考えていたが、そういうのも計画失敗でオジャンだ。
「クソ、俺は将来防衛班にならなきゃいけないのに……何でこんな……」
なお琢磨は気付いていない。
彼のような性格に難ある人物など、防衛班になれない事を。
その証拠に、クラスメイトの一樹が静かに教室に入ってきた時、彼が無自覚に口走る。
「この怒りを大都にぶつけてみようかな。アイツ、いつも涼しい顔してムカつくんだよ」
「そういえば最近、森塚さんが大都と話すのよく見るな」
「確かに。たまに森塚さん、大都を見ていたりとか」
「はぁ? そりゃあ、森塚さんも大都にムカついて文句言っていたりとかしてるんだろ。見てるのは睨んでいるだけだよ」
「「なるほど」」
大都一樹という存在はクラス内で見下されている。
そう琢磨自身は思っている。
凛が一樹にたまに近付いている事は薄々気付いているが、そこに同情や好意は全くないと判断していた。
「あっ! 森塚さん!」
と、女子の声が聞こえてきた。
このクラスの委員長のものだ。
琢磨がバッとドアを見てみれば、そこに委員長と話し合っている凛の姿があった。
「連絡つかないって心配してたんだよ! 本当にどうしたの!?」
「いやごめん。実は前にお母さんと喧嘩してて、それでお姉ちゃんの家に行くフリして家出したんだ。ちゃんと先生には言っておいたから」
「そうなんだ。でも委員長として本当に心配したよぉ。何事もなくて本当によかったぁ」
「うん、ごめんね」
欠席理由が割と深刻ではなかった事に、琢磨は内心拍子抜けしてしまった。
ただし凛がこうして帰ってきて、心底安心が出る。
琢磨は真っすぐ彼女の元へと向かった。
「森塚さん、連絡来なかったからすごい心配してたよ! 無事でよかった!」
「あっ、うん……どうも」
「いやぁ、君がいなくなってから俺ちょっと不安だったんだ。もし何かあったらすぐに言ってくれないか、相談に乗るからさ」
「うん分かった」
素っ気なく返した後、凛が机へと座る。
それから彼女が見ていない隙に、琢磨は唇を嚙みしめた。
(何でいつもあんなに素っ気ないんだよ……! ほぼ毎日声かけているのに、どこがダメっていうんだ……!?)
恋というのは高難易度なものだと理解はしている。
しかし凛の様子が変わらない事に、何とも言えない歯がゆさを感じていた。
何がいけないのか、琢磨には全く分からない。
何故なら自分はクラスを賑やかすサッカー部のエースで、将来の防衛班のホープなのだから。
(ああもう、いっそ高校中退して防衛班に入りてぇ!! そうすれば森塚さんが向いてくれるかもしれないのに!!)
凛が自分を歯牙にもかけていないという可能性なんて、彼の中にはなかった。
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