第39話 怪獣殺しの世話
「あたし自身が決めろってどういう……?」
意外な言葉に僕達が怪訝に思う中、森塚さんが尋ねていた。
「上層部のジジイ共は発信機を付けろだー家に監視カメラを付けろだーって言ってたんだけど、諜報班の飛鳥ちゃんはともかく年頃のあなたにそんな事させたくなかったのよ。なので、監視は私や部下がある程度やるという事で手打ちにさせたわ」
「よくそんなんで通りましたね」
「……その事なんだけど、一樹君ごめんなさい。説得しても連中納得しなかったから、最終的にあなたの名前を使ったわ。『クラスメイトをそういう扱いして、彼はどう思うか』って」
雨宮さんが言った後、未央奈さんが申し訳なさそうに僕に告げた。
なるほど、そういう事か。
「別にいいですよ。その場にいたら同じ事を思っていただろうし」
「ほんとにごめん。で、ここからなんだけど、凛ちゃんが望むのなら普通の生活は出来る。ただ最低でも3年ほどは私達の監視が回ってくるから、多少の苦痛は覚悟してもらうわ」
「ですよね……」
「でも抜け道がある。あなたが特生対側になって何か仕事するのなら、監視を緩めるつもりよ」
意気消沈していた森塚さんだったけど、その言葉に顔を上げた。
「例えば……そうね。特生対の食堂に勤務したり、洗濯物を洗ったり、あるいは諜報班に入る為に勉強するのもいい。とりあえず私達の近くさえいればいいの。普通の生活をしたいか特生対側に就くか、あなたがしたい事をここで決めなさい」
「あたしがしたい事……」
それなら森塚さんでも出来る仕事がありそうだ。
特生対本部の食堂にカフェを設置する予定だって聞いたし、そこの従業員になれば……、
「じゃあ、大都君の身の回りの世話をさせて下さい!」
「「えっ?」」
僕の……身の回りの世話?
僕達全員がハモってしまったところ、何故か首をぶんぶん振る森塚さん。
「あっいや! 別にそういう意味じゃなくて! 例えばタオルを用意したり、弁当とかスポーツドリンクを用意したりとか! あたし、結構料理が出来る方なんです!」
「……えっと、そんなでいいの? 今さっき言った仕事なら、給料とかもらえるけど」
「お金は結構です! あたし、大都君の為なら何だってやれます!」
「お金より一樹君?」
「え、ええ……!」
……給料いらないって……。
森塚さんって、こんなにも物好きな人だったのかな。
「そうねぇ、一樹君はどう?」
「えっ? ……えーと、森塚さんがやりたいのなら別にいいけど」
「よっし!」
「よし? まぁ、とりあえず凛ちゃんにはスポーツドリンクと弁当とかの用意を……」
「あーごめん、弁当は私にやらせてくれる?」
未央奈さんが言い切ろうとした時、不意に絵麻がそう口にした。
振り向いてみた途端、僕は内心ギョッとする。
たまに目のハイライトが消える絵麻だが、今回は怪獣のような鋭い目つきをしていたのだ。
森塚さんも雨宮さんも、絵麻を見るなりビクリと震えている。
「えっと、絵麻ちゃん? 目がすごいヤバ……」
「やらせてくれる?」
「あっ、うん……じゃあ凛ちゃん、弁当の他になんか出来る?」
「……お菓子とかデザート……作れます」
「そう……じゃあこうしましょう。お弁当は絵麻ちゃん、お菓子とかのおやつは凛ちゃん。これでいいかしら、絵麻ちゃん?」
そう聞かれた絵麻が無言でうなずく。
怪獣の如き目つきはそのままで。
「よくよく考えれば、美味しいおやつもメンタルケアになれるんだからうってつけかもね。凛ちゃん、とびきり美味しいおやつを用意してね」
「は、はい! 頑張ります!!」
こうして森塚さんの今後が決まったという。
それから森塚さんが絵麻を見て怯んだものの、何故かキッと睨み返した。
例の目つきをしながらも汗をかく絵麻。
「……雨宮さん、これどういう事?」
「ご自身で考えて下さい」
僕はこの事態に対して雨宮さんに尋ねたものの、にべもなく返されてしまった。
そう言われても……。
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