第38話 怪獣殺しに拾われた命
この後、諜報班が屋敷に突入して『恵みの会』構成員を確保した。
もちろん諜報班は警察じゃないので、そのまま署へと直送だ。
あとこんな話があったそうな。
「俺は見たんだ!! 超能力を操るガキの姿を!! 何で信じてくれねぇんだ!!」
取り調べの最中、警察に対して構成員がそう証言していたのだ。
一応、ワイバーンについては足跡が残っているので「人間の街に迷い込んだ小型怪獣がいたのでは」と警察側は推測している。
ただ超能力の少年の話は一切信じる事はなく、証言した男を妄想が激しいだけの人だと片付けた。
警察上層部ですら僕の存在を知らないので当然の事。
仮にスマホで撮影や拡散とかしても、諜報班があの手この手で削除してくれる。
こんな感じで「怪獣を倒せる少年なんてありえない」と思われているからこそ、僕の事が広まる事がないんだと思う。
妄想が酷いと扱われた男には同情するけど、僕としてはある意味でありがたい事だ。
「それでギュウキの事なんですが、構成員がその経緯を語ってくれました」
恵みの会の末路を教えてくれた雨宮さんが、さらに付け加えてくれた。
「教祖は数年前まで会社の社員でしたが、何らかの理由で懲戒解雇されたそうです。そんな彼が樹海で自殺を図ろうとしたところ、人間サイズの幼体だったギュウキに出会った。その時にギュウキが教祖を手頃な配下にしようとして、フェロモンガスをかけたのでしょう」
「もしかしたらそのギュウキ、以前に現れた同種の子供だったりしたのかな?」
「ありえなくもないかと。親が人間に殺されたと知って、教祖を隠れ蓑にしたと言えば矛盾ありませんからね。そうして操られた教祖は警察署の高官や近場の企業社長をスポンサーとして味方に付け、『恵みの会』を結成させた。ギュウキはトラックで運搬させた後、大都さんが見たように地下に潜った訳です」
そう考えると、いかにギュウキが狡猾な奴だったのかよく分かる。
破壊衝動のままに街を壊す怪獣の中には、こうした人間顔負けの高い知性を持って暗躍するタイプも存在する。
全く侮れないよ、怪獣ってのは。
「それで信者達は無事なんだね?」
「はい。洗脳特有の副作用で抜け殻になった方もいましたが、もちろん精神治療で回復させていく予定です。今は科学班の元、怪獣による身体的悪影響がないか検査をしています」
「ちょうど森塚さんと同じ感じか」
僕達は特生対研究所にいて、その医務室の前で待っていた。
さてここからが問題。
森塚さんに僕の正体がバレてしまった件だ。
あの時、ちゃんとワイバーンは戦いに巻き込まないよう、森塚さんを洞窟の外に運んでいた。
そのまま外まで逃げてくれると思っていたら、何と彼女は不思議に思って洞窟の中へと向かってしまったのだ。
その際に彼女は素顔を晒してしまった僕と、僕達によって倒されるギュウキを確認したという。
つまり僕達の力を知ってしまったという事だ。
こういうケースは初めてなので、どうすればいいのか悩んでしまう。
特生対上層部も、まさか彼女を無条件で解放するとは思えないし……困ったよ。
「森塚さんの件については、神木さんが上層部と掛け合っています。あとはどうするかは……」
「ごめん雨宮さん、ヘマしちゃって」
「いえ、大都さんのせいではありません。こればっかりは不可抗力でしょう」
「うん、雨宮さんの言う通りだよ」
雨宮さんや絵麻が庇ってくれる。
彼女達の言葉には少しだけ救われた気分だ。
まだ頭を抱えそうだけど。
「2人、恩に着るよ。特に絵麻、今回の作戦に手助けしてくれてありがとうな」
「う、うん……私、頑張ったよね?」
「ああ、もちろんだよ」
「そっか……嬉しいなぁ……」
僕がそう言うと、絵麻がうつむきながらも微笑んでくれた。
――ガチャッ。
ちょうどその時、医務室の扉から森塚さんが出てくる。
僕達全員の視線が彼女へと向いた。
「森塚さん、身体の方はどうだった?」
「毒の類が検出されなかったから大丈夫だって。あの、お姉ちゃんは……」
「別の部屋で安静させているよ。場所教えるから後で行ってみて」
「そっか。よかった……」
僕の言葉に、ホッと胸をなでおろす森塚さん。
そこから彼女が雨宮さんや絵麻をチラ見する。
「まさか雨宮さんもこういう事に関わっていたなんて……」
「ええ、まぁ」
「ちょっと意外。それと……その子が大都君の妹さんだよね? あたしは森塚凛、大都君のクラスメイトだよ」
「初めまして、大都絵麻です。……それで森塚さん、私達の事怖くなりました?」
「えっ、怖く?」
「ええ、身一つで怪獣を倒せるんですよ。普通の人なら怯えるんですが」
そう口にする絵麻の目は、どこか森塚さんを試すような感じがあった。
対して森塚さんは、
「いや、あんまり」
「あんまり……意外ですね?」
「いやなんというか、前々から大都君って他の男子と違うなぁって思ってたし。それに……ちょっとアレなんだけど、怪獣を倒せそうなオーラを放っているというか」
「オー……ラ」
絵麻が呆れているような唖然ともしているような表情を見せた。
僕、そんなオーラ出てたんだ……。
「神木さんが前に似たような事言っていたな……」
「前に?」
「そういう話があったって事です。それよりも森塚さん、あなたはこの特生対において知られてはいけない秘密を知ってしまった。分かっているとは思いますが、これから先普通の生活は出来ないと思って下さい」
雨宮さんもまた、厳しい態度をもって森塚さんに接した。
これについて、森塚さんは少なからずショックを受けるだろうと思った。
こういう状況はまだ高校生である彼女には重すぎる。
「うん、分かっているよ」
ただ、その話を聞いた森塚さんはあまりにもあっさりしていた。
「森塚さん、本当に分かっているんですか? 私の言った事」
「だから分かっているって。どうせバラしたりしたら命がないって感じでしょ。でもあたし、大都君達の助けがなかったら、今頃連中にレイプされたり怪獣に喰われたりしてた。この命は大都君に拾われたんだよ」
「…………」
森塚さんの達観とした返答には、雨宮さんはおろか僕達も圧倒された。
高校生が持っている死生観とはとても思えない……。
「僕が拾っただなんてそんな……」
「嘘じゃないよ! 大都君には何度も救われたんだし……大都君はあたしのヒーローだよ!」
森塚さんがぐいっと近付いて、僕の手を握ってきて。
……手? いやいや何で森塚さんが僕の手を?
僕、握られるほどの事をした?
「…………」
あと何でだろう、絵麻がすごく睨んでいる……。
雨宮さんは前と同じように冷や汗かいているみたいだけど、森塚さんは全く気付いていないっぽい。
これは言った方がいいかな……?
「あら、私が行っている間に進展でもした?」
「未央奈さん」
するとそこに未央奈さんがやって来た。
森塚さんが彼女に気付いた途端、バッと僕の手を離した。
同時に絵麻の眼光が消えたような気もする。
「初めまして森塚凛ちゃん。私は特生対諜報班の神木未央奈よ」
「あっ、どうも……。諜報班が来たって事は、あたしについて何かあるんですね」
「そんなところ。今さっきあなたについての処遇が決定したから、それを伝えようと思ってね。覚悟はいいかしら?」
「はい……大丈夫です」
森塚さんなりに覚悟を決めたようだ。
未央奈さんは真剣な表情をした後、彼女の前に立った。
「凛ちゃん……これからどうするかはあなた自身が決めなさい」
「えっ?」
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