第36話 怪獣殺しのカチコミ

「あれがそうなんだね」


 未央奈さんとのリモートを終わらせた後、僕達は『恵みの会』本拠地へと到着した。


 敷地の広い屋敷といった感じの見た目で、目の前には木造の門、周りには白く高い囲いが広がっている。

 この手にありがちな見張りや監視カメラはないようだ。


「街から離れているので、騒ぎになってもあまり広まらないでしょう。信者は私達が責任もって保護しますので」


 僕達は建物の陰から本拠地を窺っている。


 雨宮さんの他にも諜報班数人が待機していて、解放された信者を保護する任務に就いている。

 信者は洗脳で思考力を奪われているらしいので、そのまま放置するのは危険なのだ。


「もし森塚さんに会っちゃったらどうする?」


「その時には心配になって駆け付けたとかで誤魔化しますよ。それで大都さん、これを」


 そう言って渡されたのはインカムとマイクだ。


「記録を取りますので、これで報告を随時行って下さい。もちろん私と連絡も出来ますので」


「了解。じゃあ行こうか絵麻」


「うん」


 インカムを耳に、マイクを胸元に装着。

 準備が整ったところで本拠地に向かうと、雨宮さんから待てが入った。


「絵麻さん」


「はい?」


「私より幼いのに作戦に参加した。私があなたの立場だったら素直に出来たかどうか……本当に偉いです」


「そりゃあ、兄さんの役に立ちたいから。偉いとかなんて興味ないですよ」


 まだ絵麻を参加させた引け目が少しあった。


 でもその様子を見てると、本当にたくましくなったと思う。

 兄として誇らしく感じる。

 

「分かりました。どうかお気を付けて、絵麻さん」


「ええ、ありがとうございます」


 絵麻の奴、雨宮さんと仲良くなってくれたな。

 良い事だ。


 改めて僕達は、本拠地の前へと足を運ぶ。

 そのインターホンを押す前に、僕は絵麻へと向いた。


「この中に僕のクラスメイトがいるんだ。協力してくれるか、絵麻?」


「うん、もちろん。……お爺さん、あなたの力を初めて行使する事になります。どうか私を見守って下さい」


 絵麻は特生対研究所に眠るバハムートお爺さんへと、言葉をつづった。

 そうすると、僕達の元に彼の返事が来る。


(お前がしようとしているのは力を通して把握していた。決して気を抜くではないぞ、絵麻よ)


「はい……」


 これで準備は整ったな。


 僕はインターホンに指を押し当てた。

 しばらくして門が開いて、2人の男が出迎えてくる。すると……、


「た、助けて下さいッ……!! 私達……親に借金のカタとして売られそうになって……! それで逃げた後、『恵みの会』に行けば救われるって聞いて来ました……!」


「おや、そうなのですか。ではその隣は……」


「は、はい、お兄ちゃんです……! どうか……どうかお兄ちゃんも入信させてくれないでしょうか……!?」


 絵麻の演技力エグいなぁ。


 目薬なしで涙を出すわ、震えた声を出すわ、いかにもな表情を出すわ。

 演劇部でも活躍できるんじゃないかな?


「僕からもお願いします……僕達には帰る家がないんです……」


 とまぁ感心している暇はなく、僕も出来る限りの演技力で欺いた。

 これが見事、2人の男を騙す事に成功した。


「妹さんの方は歓迎いたします。ただお兄さんは男の入信を許可していないので難しいのですが、そこは教祖と掛け合ってもらいましょう」


「お、お願いします……!」


「ではお二方、こちらです」


 僕達は中へと案内される。

 庭には信者はいない様子。皆、屋敷に入っているみたいだ。


「辛かったでしょう。苦しかったでしょう。しかしあなた方は必ず報われます。どうかその身を神に委ねるのです」


 そう言って、男の1人が絵麻の肩を触る。

 その時だった。


「汚い手で触んないでよ、クズが」


「えっ? ……ぶっ!!?」


 絵麻が男の顎へと蹴りを入れた。

 足がバレエみたく思いっきり開いているけど、今回はズボンなので無問題。


 ふらついたところで腹にまた蹴り。

 男は完全にノックアウトして、近くの池へと落ちていった。


「なっ!? こいつ!!」


 もう1人の男が絵麻を殴ろうとするも、それをひらりと回避。

 直後、絵麻が奴の顔へと回し蹴りして、一瞬にして意識を散らした。


「いつもながらキレッキレだね」


「兄さんの教えがあったからこそだよ」


 実は絵麻には護身術を学ばせた事がある。


 そのおかげかナンパ集団を一気に全滅させたという、名誉な記録が存在したり。


「よし、そろそろやろうか」


 僕は提げていたリュックからバイクヘルメットを取り出し、自身と絵麻に被せた。

 そこから草むらに隠れ、模擬戦の時に使用した戦闘服を私服の上から羽織る。


 もちろん正体がバレないようにしているのだ。

 戦闘服も体格をなるべく出さないようにする為。


 ……重ね着しているから蒸れるけど、我慢我慢。


「あっつ。じゃあ私から……≪龍神の眷属≫」


 絵麻が唱えると、周りに赤いエネルギーが集まる。

 それが徐々に形を変え、3体のワイバーンへと変わっていった。


 今回は以前の小型サイズじゃなく、成人男性とほぼ同サイズとなっている。

 さらに知らない人が見たらビビってしまうくらい、凶暴な顔立ちをしていた。


「行って! 信者の人達には絶対に傷つけないでね!」


 ――ギュオオオオオオオンン!!


 3体のワイバーンが屋敷へと突撃。

 障子や柱をお構いなしに叩き割って、その中にいた男性達を驚かせた。


「な、何だこいつらは!? ぐああ!?」


 さらに頭突きを喰らわす。

 もちろん戦意を削る為なので、殺してはいない。


 ワイバーン達が屋敷の中を思う存分暴れ回っていく。


 やがて信者と思しき女の人達が屋敷から出て、蜘蛛の子を散らすように逃げ惑った。


「たったいま信者が屋敷から出ている。保護をお願い」


『了解です』


 僕達は彼女達の様子を見ながら、雨宮さんに報告した。


 いきなり化け物が現れて、屋敷の中を暴れ回っている。

 いくら思考を奪われている信者だろうと、そんな異常事態が起こったらそりゃあ逃げ惑う。


 ただその中に森塚さんの姿がない。

 まさかもう神の生贄に……いや、そんな事はないと思いたい。


「中に入ろう」


 僕達は屋敷の中へと突入する。


 さっきワイバーンの体当たりを喰らった男達は悶えていたものの、僕達を見るなり敵意を露わにする。


「な、何者だ、貴様ら!?」


「この化け物と何か関係が……この魔性の者めが!!」


「≪龍神の力場≫」


 ――ドオン!!


「グワッ!!?」


「グウエエ!!?」


 数人が畳へと思いっきり叩き付けられて、そのままうつぶせ状態に。


 これは僕が、彼らに重力系の技を仕掛けているからだ。


≪龍神の劫火≫や≪龍神の眷属≫といった技は、かつてお爺さんが使っていた能力を再現したもの。

 この≪龍神の力場≫もそうで、お爺さんが空を飛ぶのに使っていた重力制御能力を、攻撃へと転じたのだ。


 自分にもかけて空を飛ぶなんて芸当もやろうと思えばやれるけど、この方1回もやった事がない。


 うつぶせのまま気絶した男達をまたいで先に進むと、ちょうど1体のワイバーンが障子を突き破っていた。

 

「なっ!? うおおお!?」


 そこにいた若い男を突き飛ばしつつ、壁に叩き付けた。


 その和室を覗いてみると……やっと見つけた。

 男達に取り押さえられた森塚さんの姿があった。


「な、何だコイツ!! 小娘、来い!!」


「えっ!? いや離し……グッ!?」


 ただ見た目からして偉そうな男が、森塚さんを殴ってから奥に連れて行った。

 これはマズい。彼女を人質にするつもりだ。


「教祖、どちらへ!?」


「いや待て!! おい、そこにいるのは……」


「≪龍神の力場≫」


「グアアアアア!!?」


 男達を残らず畳に叩き付けた。

 這い上がってこないよう、畳を突き破って下部まで落とす。


 よく見ると男達の他に、気絶している女の人がいる。


 顔立ちに森塚さんの面影があった。

 となると、報告に載っていた森塚さんのお姉さんかもしれない。


「女性が1人倒れているので救助をお願い。それと教祖らしき男が信者を連れて逃走。追跡を開始する」


 僕達は急いで奴の後を追う。


 その際、転がっていた黒い箱から毛虫やらムカデやらが出ているのを見てしまった。


 気持ち悪いので、最小サイズの≪龍神の劫火≫で焼き殺す。

 対象だけを焼き尽くす仕様なので、床とかに燃え移る心配はなかった。

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