第34話 怪獣殺しの作戦会議
『恵みの会』がクロだと分かった後、未央奈さんから僕の家でリモートしたいと言ってきた。
奴らについて詳しく話がしたいと。
僕の出番なんてあるのだろうか……と思いつつも、大人しく従う事にした。
何より森塚さんがいるので無関係とも言えないしね。
《一樹:雨宮さん、僕の家分からないでしょ? 前みたく合流してから案内するよ》
《雨宮さん:分かりました》
今日の授業は数学をもって終了となった。
僕達は前のように、時間差を付けてから下校する事になる。
雨宮さんがいなくなったのを確認してから、僕も教室から出ようとした。
「ああ、くそっ! 何で住所教えてくれねぇんだよ!?」
と、五十嵐君が目の前の階段から降りてくるなり、苛立ちげに叫んだ。
「『いくら森塚の友達でも、家の住所も番号も教えられない』とか、あの先公マジムカつく……!」
「そうカッカすんなって……先公が言ったように警察に任せば……」
「俺は特生対の防衛班を目指しているんだ! 将来のヒーローなんだよ! 何かしてやれば、きっと森塚さんも振り向いてくれるって思ったのに……ああもうどうすればいいんだよ!!」
そのまま大幅な歩き方をしながら、取り巻きと一緒に外に出てしまった。
五十嵐君なりに森塚さんを心配しているようだが、さすがに先生も事件に巻き込みたくなくて情報を隠したんだろう。
というか森塚さんの友達なら電話番号とか知っているはずだけど……まぁ、僕が考える余地もないか。
「ねぇ、大都」
下駄箱から靴を取り出していると、何故か意外な人物がやってきた。
偽ラブレターをよこした清水さんだ。
「確か……清水さん? どうしたの?」
「ちょっと来て」
「えっ」
今急いでいるんだけど……。
そんな心の声は届かず、僕の手を引っ張る清水さん。
そして人のいない廊下の端っこに着くと、彼女がじっと僕を見つめてきた。
「えっと何? 僕急いでいるんだけど……」
「……大都、もしかして土曜日にアパレル行ってた? 『ユニクロム』っていうところの」
――内心ドキリとしてしまった。
それは以前、僕達と池上君達が出会ったアパレルショップの名前だ。
まさかバレるとは……。
「人違いじゃないかな? そろそろ行きたいけどいい?」
「いや、よーく見ると面影感じる。それに眼鏡で隠れているけど、割と悪くない顔してるじゃん。もったいないよ本当!」
「あの……清水さん……」
「ねぇ、前の嘘告白の事は謝るからさ、私と付き合わない? 大都ってマジで池上君よりも……」
「話聞いている? 僕は急いでいるって言っているんだ」
「…………」
僕の一言で清水さんがびくりと震えた。
やっと黙ってくれたよ。
『恵みの会』についてのリモートをしなければいけないというのに、何でよく知らない女子の話を聞かなければならないのやら。
しかも付き合ってほしい?
こんな対怪獣能力しか取り柄のない自分と付き合って、一体何の得があるんだろう。
「じゃあ、僕はそろそろ行くから。ごめんね」
と言いながら、清水さんの横を通りすぎようとした。
だけどそうはいかないとばかりに、清水さんが食い下がってくる。
「何なのあんた!? そんな冷たく対応しちゃってさ! 私と付き合えば陰キャじゃならなくなるんだよ!? リア充の仲間入りだよ!?」
面倒くさいな……そんなにヒステリックに叫ばなくても。
そう思っていると、奥の物陰からそっと見ている人物がいた。
雨宮さんだ。
先に行ったのはいいけど僕が来なくて、それで不思議に思って探していたらこの場面に遭遇したといった感じだな。
僕は動こうとする雨宮さんに対し、静かに手を振った。
こういうのは自分1人で解決すべきだ。
「僕は目立ちたくないんだよ。そもそもそんな陽キャみたく
「はぁ? じゃあ友達いないって事じゃん。寂しすぎ」
「いなくもないけどさ。相手がどう思っているかは分からないけど」
僕の脳裏に浮かぶ雨宮さん、未央奈さん、少し違うけど妹の絵麻。
そして……森塚さん。
森塚さんは僕を友達と思っているのか分からないし、僕も友達と呼べる人なのか分からない。
でも単なる知り合いじゃないというのは、何となく分かる。
その彼女がおそらく命の危機に見舞われている。
潜り込んだ諜報班を殺すようなカルト宗教の手によって。
「その人に用事があるかもしれないんだ。君には悪いんだけど、これ以上話す事なんてないよ」
「話す事ないって……ちょ、ちょっと話がまだ……!」
「…………」
「……!?」
僕の袖を掴んできた清水さんが、まるで小鹿のように震えながら離れてしまった。
まずい、今僕が睨んでいるからだ。
前に雨宮さんに目が怖いとか言われたし。
僕は石のように固まる彼女から背を向け、昇降口へと向かった。
もちろん雨宮さんとは合流する。
「……もしかして、嘘告白をした清水さんですか?」
「知っているの?」
「一応調べました。ただ止められたとはいえ何も出来なかった……申し訳ありません」
「君のせいじゃないよ。第一、逆に不自然に工作とかしたら余計怪しまるし、ああいうのは全く気にしていないから」
「メンタル強いですね」
「ぶっちゃけ、ああいう扱われ方されると僕は
「……そうですか」
僕は人間でもあり怪獣でもありと、悪く言えば半端な存在だ。
それが自分にとってコンプレックスのようなものになっている。
さすがにマゾじゃないから馬鹿にされるのは好ましくないけど、でも同時に自分はクラスによくいる生徒……要は普通の人間なんだと思ってくる。
目立たない為にと伊達眼鏡をかけているのは、「自分は半端な存在じゃない」という意識の表れなのかもしれない。
それよりもまさかの事態で、出発時間より5分遅れてしまった。
予定時間より余裕を持たせて正解だ。
僕達は急いで自分の家へと直行する。
帰ってみると既に絵麻が居間にいて、リモートする為のノーパソを立ち上げていた。
「お帰り兄さん。雨宮さんもお疲れ様です」
「ええ、お邪魔します」
「ちょうどよかった、そろそろリモート始めるから。えっと……どうするんだっけこれ?」
「ああ、これをこうするんだよ」
リモートのやり方に困っていたようなので、絵麻のマウスを持つ手を握りながら操作した。
「これでよしっと……ってどうしたの?」
「……な、何でもない! ほらっ、始まるよ……!」
いや、目を見開いたまま固まっていたような……。
あれだったかな……手汗とかが気になったとか。
『あーあー、聞こえる3人とも?』
「ええ、感度良好。問題ないですよ」
『よしOK。今集めた情報を言うからちゃんと聞いて』
画面に未央奈さんが映ったようなので、僕達は一斉に向き直した。
画面の中の未央奈さんが、酷く険しい表情を浮かべている。
『まず「恵みの会」について。諜報班の報告によれば1週間に1回、信者を神の元に連れて恵みを与えるらしいわ。恵みを与えた信者は外へと解放されるとか言われているけど、それは教祖による嘘っぱちで実際は帰されていないわ』
「その神ってもしかして……」
『これを聞けば分かるわ。私達が付けているイヤリングに残された録音メッセージよ』
諜報班にはもれなく、発信機とマイクを内蔵したイヤリングが付けられている。
そのメッセージが再生されると、微かなノイズと共に複数の声が混じってきた。
『くっ、離して……!!』
『あれだけいたぶったのに、まだ動けるのですか。しかしご安心を、すぐに神の元へと送り出しますので』
多分、女性の声が諜報班の人。
男性は間違いなく『恵みの会』の関係者。
もしかしたら未央奈さんが言っていた教祖かもしれない。
『しかし情報が漏れる前に気付いたとはいえ、我々に探りを入れる輩が出てくるとは……何たる失態! これでは神に対して申し訳が立たない……!!』
木造の階段でもあるのか、声と共にギシギシと音が鳴る。
その音が止むと、教祖が高らかに叫んだ。
『さぁ、神よ! この輩は信者のフリをして、我々の情報を流そうとしていました! この悪しき存在に裁きの鉄槌を!!』
――……ギギギギ……。
教祖の声の他に、明らかに異質な音が聞こえてきた。
間違いなくノイズじゃないし、まるで虫の鳴き声みたいだ。
さらに大きな物体が這いずるような音も発してきて……、
『こ、これは……ヒッ……!!』
――ザー……。
最後は大きなノイズが聞こえるだけだった。
その後、未央奈さんが目を伏せる。
『ひそかに調査していたんだけど、少しミスを犯してしまったね。きっと彼女は……』
これは言われなくても、僕達全員分かっていた。
雨宮さんに至っては、
「冥福を祈ります……」
『でも悔やんでいる暇はないわ。奴らは間違いなく怪獣を匿っている……神の正体は怪獣で間違いない』
あの奇妙な声は動物のそれではないからね。
『私のお抱えの裏情報屋によれば、地元警察署の高官が教祖の信者でね。適当な人を冤罪にしてもみ消していたの。多分、警察に連絡しても「その件は調査済みです」って取り合わないはずよ』
「もしかしてそれ、前にニュースで流れた死体遺棄事件?」
「それ、私も見た事があります。あれには違和感がありましたね」
どうやら僕と同じように、雨宮さんもおかしいと感じたようだ。
『ええ、調書にサイン取らせるよう
隠蔽に暴行に拷問……なんてゲスなやり方だ。
その情報屋さんナイスだよ。
『この情報は警視庁に流したから、高官が逮捕されるのも時間の問題なんだけどね。さて、ここからは一樹君の出番。警視庁から事件を明るみにしないでほしいって言われたから、今回はあなたで極秘に処理していくわ』
「なるほど、だからこのリモートを開いた訳ですね」
僕の立ち位置における特殊性ゆえ、(あくまで怪獣が絡む)極秘の任務を就くのに向いているらしい。
一応、カルトと衝突するのはこれで初めてだ。
「高官が怪獣を匿うカルトとグルだなんて知られたら……ってやつもあるのかな」
『そもそも防衛班が今朝の地底怪獣の件を処理しているからね。問題は「恵みの会」が男性を信者にしないってところなんだけど、まぁそのまま強行突破してもいいと思うよ?』
「じゃあそんな感じで……」
「未央奈さん。私にもその作戦、参加させてくれませんか?」
「……!」
返事しようとした時、何と絵麻が名乗り出た。
しかも普段使わない敬語……本気だというのか。
「絵麻……」
「女性を信者にしているんでしょう? 私がいれば、いろいろ相手にとって都合がいいと思うの」
『確かに……女性を信者にする奴らからすれば適任かもしれないけど、本当に大丈夫なの?』
「うん。兄さんや未央奈さんが私に平穏な暮らしをさせたいのは分かっている。でも私にもお爺さんの力があるのなら、兄さん達の役に立ちたい」
そう言って、絵麻が僕を見据えてきた。
「兄さん……わがままなお願いでごめん。でもどうか参加させて……」
真っすぐで濁りもなく、それでいて覚悟を決めた目。
絵麻を戦いに出したくないという僕の意志に対して、まるで真っ向から対峙するような感じだ。
そんな時に駄目だと答えるのは、絵麻の意志を踏みにじるようなものだ。
「……分かった。でも危なくなったら言うんだよ」
僕はそんな妹の覚悟を、無下にする事が出来なかった。
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いよいよ満を
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