第33話 怪獣殺しのクラスメイトがいない

 未央奈さんのシフトは随時変更するけど、今回は運よく土日休みだった。

 なのでこれ幸いと、僕達は未央奈さんを勉強に付き合わせる事にした。


 絵麻については昨日のぼせたのだから大丈夫かなと思っていたけど、いざ日にちが経ったら元気になったので杞憂きゆうだったようだ。

 

 未央奈さんは頭がいいし、なおかつ教えるのも上手い。

 僕達にとっては家庭教師みたいな感じなので、かなり勉強の流れがよくなった。


 そうして月曜日の朝。


「うーん、やっぱり絵麻ちゃんのご飯美味しいわぁ」


「それは嬉しいけど……口元に食べカス付いているよ」


「あら、はしたないわね」


 僕達は食卓を挟んで朝ごはんを食べた。


 今回はカリッと焼けた食パンにベーコンエッグ、野菜サラダ。

 相変わらず絵麻の作った料理は美味しくて、今日の活力になれそうだ。


 一方未央奈さんはというと、まだ眠そうにウトウトしているわ、髪がボサボサしているわのだらしないスタイルをしていた。

 

 朝になるといつもこう。

 いつものパリッとしたスタイルから想像もつかないので、奇妙に覚えてしまう。


「ふぅ、ごちそうさま。お皿は洗っておくね」


「あっ、ありがとう」


「どうも……っと、ラインが来た。水道工事の為に地面を掘っていたところ、眠っている地底怪獣の体表が出てきたと……」


 皿洗いをしている時、未央奈さんがスマホを取り出していた。

 諜報班はああして、怪獣出現の報告をラインで回しているとか。


「場所はどこです?」


「大宮のある街。ソナーから察するに体長は60メートル。さすがにそのまま移動したら揺れでバレるから、元々小さい怪獣が眠った際に大きくなったのかもね。今、防衛班が駆け付けて住民の避難にあたっているわ」


「そうですか。なんか最近怪獣の数が多くなったなぁ」


「それだけ我々の都市開発が進んでいるって証拠。怪獣の縄張りと接触するのも時間の問題なのよ」


 つまり人間の生活は、怪獣との戦いとほぼ同義という事になる。

 ある科学者が言うに、数世紀先はこの戦いに終わりがないらしい。


 それから僕達も完食して、諸々の準備をした。

 もちろん未央奈さんも着替えとメイクを済ませていく。

 

 するとどうだろう。

 さっきまでのどこか隙が多かった姿から想像できない、クールで優秀そうな仕事フォームへと早変わりだ。


「お待たせ。さっ、そろそろ出かけるわよ」


「……未央奈さんって、本当にONOFFオンオフのギャップがすごいね」


「何を言うの絵麻ちゃん。あなたも大人になれば自然とこうなるわよ」


「大人になれば……私も休みの時にあんなだらしない姿になるんだ……」


「はいそこ、さりげなく私をディスるのやめなさい」


 だらしない絵麻か……あまり想像できないなぁ。


 なんて考えているのはよしといて、僕は絵麻達と共に玄関へと向かった。

 先に未央奈さんが出ようとすると、彼女が急に振り向いてきて、


「じゃあ一樹君、例の件について何か分かったら連絡するから」


「分かりました」


「先に行ってくるね。2人とも、登校には気を付けるのよ」


 扉を開けて先に出る未央奈さん。

 

「何の話、兄さん?」


「東京の外れに新興宗教がいるらしくてさ。もしかしたら怪獣を匿っているんじゃないかって、諜報班が調査しているんだ」


「ああ、友達から聞いた事あるかも。何か女性だけを信者にするとかで」


「変な宗教だよね。女性だけ集めて何の得があるんだか」


「ふうん……女性か」


 ふと、絵麻が含みのある言い方をする。


「どうしたんだ?」


「ううん、何でもない。それよりも早く行こ」


 ただすぐに首を振って先に行こうとする。

 あの時、絵麻は何を考えていたんだろう……。

 


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 あれから数時間経って、僕は教室の中にいた。


 夏休みが近付いている事もあって、ここしばらくは昼前に帰れる短縮授業となっている。

 次に始まる数学で、今回の授業は終わりだ。


「今日も森塚さん、休みなんて……」


「ほんとどうしたんだろう……」


 ただ問題が発生中。

 僕の近くの男子生徒が話している通り、森塚さんがまた欠席しているのだ。


 担任の先生も原因が分からないらしく、この授業の間にも家に連絡しようとはしているらしい。


 何より森塚さんは真面目な生徒だ。

 無断で欠席するなんてありえないので、先生も困っているようだ。


「どう思う、五十嵐?」


「もしかして噂で聞いた新興宗教かもな……。先輩から聞いたんだけど、借金とか後ろめたい理由がある女性を入信させるって……」


「森塚さんに後ろめたい理由なんてあったか?」


「そりゃあ、俺には分から……」


「よぉし、席につけぇ」


 そこに数学教師……を兼任している担任の先生がやってきて、生徒達が一斉に席に戻った。


「では授業を始める……とその前に、皆に伝えたい事がある」


 教壇に立った先生がそう言うと、皆の視線が彼に集まったような気がした。


「森塚さんが欠席している理由が分かった。実は木曜日の夕方、姉に呼び出されてその家に向かったらしいんだが、そこから行方不明になったらしい。今さっき森塚さんの保護者の方から連絡があった」


「えっ、どういう事ですか先生?」


 五十嵐君が聞くと、先生が眉をひそめた。


「あまり分からないが、昨日連絡なかったのは保護者の方が動転してそれどころじゃなかったからだそうだ。一応警察に届けを出しているんだが、まぁ何事もない事を祈りたい」


 予想も付かない言葉に、クラス内がざわめく。


 一体どうしたんだろうか、森塚さん。

 もしかして事件に巻き込まれたりしたのか?


 なんて思っていたらスマホが揺れ出す。

 礼の如くラインのようだ。


《未央奈さん:一樹君、飛鳥ちゃん。今から送る資料をちゃんと読みなさい》


《未央奈さん:『恵みの会』に潜入した同期がまとめ上げた信者のリストよ》


 メッセージと共に、そのリストの画像が表示された。


 信者の名前がズラリと並んでいて、さらに後ろには経歴などが記されている。

 もちろん分からない人もいたのか、『不明』とも書いてあった。

 

 僕が1つ1つを見ていくと、ある名前が目に留まる。



 

・森塚すず OL勤め。恋人が『恵みの会』の構成員兼神官だという証言をしていた。

 

・森塚凛 白神高等学校の生徒。森塚鈴の妹。




 そういうこと……。

 森塚さんは本当に事件に巻き込まれていたんだ。


《未央奈さん:確認できたと思うけど、あなた達のクラスメイトか知り合いが『恵みの会』にいる。それともう1つ……このリストを最後に、同期の定期報告が途絶えたわ》


 未央奈さんのメッセージを見て、僕は確信した。

 やっぱりその新興宗教はクロらしい。

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