第30話 怪獣殺しのお出かけ

 森塚さんの事はあれから進展がなかったので、何があったのかは分からない。

 ただお母さんと2人暮らししているので、どちらも電話に出れないくらいの病気にかかっているというのが先生の推測だ。


 少し心配だった僕だけど、まぁ明日の土日を挟めば来るのかもしれない。

 そう思っている内に土曜日になって、僕達は未央奈さんと約束したお出かけをする事になった。

 

「さてと、着いたわよ」


 僕は絵麻と未央奈さんと一緒に、目的のアパレルショップへと到着した。


 何でもつい最近開店したものらしく、学生の間でも人気を誇っているんだとか。

 なるほど出来たてだけあって、なかなかに綺麗な印象だ。


「何だかすごそうだね」


「うん」


 感心する絵麻に軽く返事した。

 と同時にある事に気付く。


「なぁ……あの2人すごいな」


「ああ、美人すぎる……」


 絵麻達へと刺さる視線の数が多い事多い事。


 未央奈さんは言わずもがな。

 メイクも服装も大人っぽく仕上げて、見る者を魅了させてしまうレベルだ。


 絵麻も服装をおめかしして、さらに未央奈さんによって軽くメイクを施されている。

 最初に見せられた時は『可愛い』から『綺麗』になったって驚いたものだ。


「私、変かな……大丈夫兄さん?」


「全然。むしろ似合っているから心配ないよ」


「フフッ、嬉しいな……」

 

 嬉しそうに笑う絵麻。

 うん、やっぱり可愛いなお前は。


 それはいいとして、僕はクラスメイトに会わないか少し不安だった。


 もちろん出掛ける前に、未央奈さんにはその事を伝えてはいる。

 そうしたら未央奈さんから「ある事をすれば大丈夫」と言われた。

 

 その「ある事」をちゃんとしてきたけど、本当に上手くいくのかな?


「一樹君、まだクラスメイトの事気になるの?」


「いや、まぁ……」


「今のあなたなら大丈夫じゃない? ほらっ、中に入るわよ」


 本当かな? ただ未央奈さんが言うのなら……。


 中に入ってみると、アパレルショップ特有の小奇麗な印象が出迎えてくれた。

 服装もなかなか豊富だし、お客さんも僕達みたいな高校生辺りが中心だ。


「ねぇねぇ、あの人……」


「えっ、嘘、ヤバいじゃん……」


 何か女子の声が聞こえてきた。

 今の僕に言ったのかもしれないけど、変なところあったりしたのかな。


 未央奈さんの言っていた「ある事」とは眼鏡を外す事だ。

 あれがないと落ち着かないのだが……。


「絵麻、本当に眼鏡外して大丈夫だったの?」


「いや、大丈夫というか……むしろクラスメイトに会っても心配ないと思うよ」


「……そっか?」


 呆れるように絵麻がそう言ってきた。

 クラスメイトに会っても心配ないか……一応信じてはみるか。

 

 僕達はまっすぐ女性服の売り場へと向かう。

 そこに着いた途端、絵麻も未央奈さんも目の色を変えて服を吟味していった。


「絵麻ちゃんはスラリとしているからさ、ピッチリした感じがいいかもね」


「いやそこまでいいよ。こういうセーターとかは?」


「うーん、ちょっとねぇ。せっかくだからオフショル挑戦してみたら?」


「えー、肩出しなんて恥ずかしいよ……」


「大丈夫だって、何回か着ていれば慣れるわよ。それにお兄ちゃんにも新しい服装見せたいでしょ?」


「むぅ……未央奈さんのいじわる。じゃあ着替えてくるね」


 オフショルトップスを取り出した後、絵麻が試着室の中に潜り込んだ。

 

「妹の晴れ姿が楽しみね、お兄ちゃん」


「いやいや、普通晴れ姿って言わないでしょう」


「大人の階段に登った記念……って言えばいいかしら?」


「何ですかそれ」


 ユーモアに思わずクスリとしてしまった。


 さて、絵麻が着替えている間に男物でも見ておこうか。

 そう思っていた途端、僕の横をあるグループが通りすぎようとしていた。

 

「池上君、買い物付き合ってくれてありがと! おかげでいい服買えちゃった!」


「それはよかった。じゃあこの後どうする?」


「うーんとね、ゲーセンがいいな!」


 あれは……池上君。

 それに彼の横にいるのは、昨日揉めてしまった清水さんと友達さんだ。

 

 しばらく清水さん達と話していた池上君が、不意に僕と目が合った。


「ん? …………大都?」


「…………」


 これはもしやバレた? 


 少し僕はフリーズして、清水さん達もボォーとこちらを見ていた。

 ただかすかに頬が赤くなったような気が……?


「い、いやいや池上君、この人が大都な訳ないじゃん! ていうか大都と比べるなんて失礼だよ!」


「そう……かな?」


「そうだよ! ねぇ由良!」


「…………」


「由良? あんたもしかして……」


「……えっ、あっ、そうよね! まさか大都が……こんなところに来る訳ないしね!」


 こんなところって……。

 いくら僕でも、月に何回はアパレルに寄るよ。


「いやぁ、お騒がしてすいません! ほらっ、早くゲーセンに行こ!」


「うん……すいません、クラスメイトに似ていたもので。忘れて下さい」


「……いえ」


 池上君が謝ってから店を出て行った。


 ヒヤっとしちゃったけど、本当に僕だって分からないなんて。

 そんなに眼鏡有り無しとでは別人レベルなのか?


「今の一樹君のクラスメイトでしょ? 私の言った通りじゃない」


 未央奈さんが僕の肩を叩いた。


「まさかバレないなんて思わなかったですよ」


「これからも外出時には眼鏡外せば? それにあの子、池上君だっけ? 確か特生対上層部の息子さんだとか」


「よく知ってますね」


「飛鳥ちゃんから聞いたからね。でも彼の父親……」


「ん?」


「いえ、何でもないわ。というかあの女子の言動、絵麻ちゃんが聞いていたら般若化不可避ね」


 何故に般若化不可避なんだ。

 それよりも眼鏡なしだとバレないのか。今後はそうしておこうかな。


「未央奈さん、終わったぁ」


「おっと、じゃあ見せてくれる?」


「うん」


 恐る恐るといった感じでカーテンが開けられ、絵麻が姿を現した。


 ……おお。


 オフショルトップスに着替えた絵麻。まるで女優みたいだ。

 つい最近まで小学生だったのに、こんなにも綺麗になって……。


「ど、どうかな?」


「わぁ、可愛い~。一樹君どう?」


「似合っている似合っている。可愛いよ絵麻」


「……ありがと」


 それはもう、絵麻が恥ずかしそうにモジモジしていた。

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