第28話 怪獣殺しへの手紙

 7月上旬になった頃。


 僕は夕飯を食べた後、ソファーに腰かけながらテレビを眺めていた。


 まずはニュース。

 どうやら北海道に黒い怪獣が出現したようだ。


 狼と馬を混ぜ合わせたような姿で、頭頂部には2本角を生やしている。

 なので2本角を持ったユニコーンの亜種『バイコーン』と呼称されているらしい。


『札幌市に出現した怪獣バイコーンは市街地で暴れ回った後、駆け付けた特生対によって掃討されました。現地には破壊の爪跡が残っており……』


 火の手と黒煙が蔓延する札幌市。

 その中でバイコーンの死骸が横たわっていた。


 バイコーンは目を見開きながら舌を垂らしていて、まさに不気味極まりない。

 しかも身体中に帯びた傷が実に痛々しい。


 そこから別のニュースが報じられた。


『東京練馬区に住む無職の川内遼太かわうちりょうた容疑者が、女性の遺体を山奥に遺棄したとして現行犯逮捕されました。川内容疑者はこれまでも数人の女性を攫い……』


『離せ!! 俺はやっていないんだ!! 本当なんだ!!』


 よくある殺人事件だ。


 ただ妙なのは警察に連行されている最中、容疑者の人が酷く暴れている事だ。

 そういう犯人もいなくもないけど……何か気になる。


「兄さん、ちょっといい?」


「ん、どうした?」


 食器洗いを終えた絵麻がやってきて、僕の隣に座った。

 エプロンを提げた姿が何とも愛らしい。


「今度の土曜日、未央奈さんが私の服選びに付き合ってくれるって。だから一緒に行こ」


「そうなんだ。場所は?」


「隣街。なんか新しいアパレルショップが出来たとか」


「アパレルショップね……」


 そういうのって、クラスメイトに会う確率が高そうなんだよね。

 僕は何言われたっていいけど、逆に絵麻達に余計なやっかみを生み出しかねない。


 その時は本気で怒りそうだし、あまりそういうのはしたくないな。


「もしかしてクラスメイトの事考えてた?」


「えっ、何で分かったの?」


「未央奈さんから聞いたから。……というかあまり思い出したくない。その人達にも会いたくもないし」


 未央奈さん、ベラベラ話しすぎだって。

 僕が怒るよりも先に、絵麻が例の顔をしそうだな……。


「ちょっとその事に関して、未央奈さんと話するよ。それまで待っててくれるか?」


「うん、分かった。でも絶対に行こうね」


 若干の苛立ちを見せながらも、絵麻はすぐに微笑んでくれた。

 こりゃあ、何とか対策していかないと。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 

「こちらが以前受けた身体検査の控えです。ご確認ください」


「ああ、ありがと」


 翌日の学校。


 僕と雨宮さんはこの間みたく、屋上の扉付近で仕事の話をしていた。


 今回は以前、特生対研究所で受けた健康診断やら身体検査やらの結果資料をもらいに来たのだ。

 うん、相変わらず問題なし。健康的な絵麻の料理のおかげだな。


 その結果資料は他人にバレないよう、教科書の中に挟み込む。

 これで安心の……はず。


「ところで雨宮さん。今週の土曜日に絵麻と未央奈さんと出かける予定なんだけど、よかったら雨宮さんもどうかな?」


「ああ、すいません。その日は諜報班の仕事がありますので」


「そっか。ごめんね気付かなくて」


「いえ。それにしても仲がいいのですね、絵麻さんと神木さんって」


 そう雨宮さんがさりげなく言った。


「まぁね。ただ最初は絵麻の奴、未央奈さんを警戒していたんだ」


「やはりですか?」


「うん。親に捨てられた僕達の元に、諜報班所属だった未央奈さんのお父さんが来てね。その縁で未央奈さんにも会ったんだけど、そりゃあもう僕の足にしがみついたまま睨んでたよ」


「それは無理もないですね」


「間違いなく人間不信になってたんだと思う。けど、未央奈さんはそんな絵麻を妹のように優しくしてくれてさ。次第に絵麻も未央奈さんに懐いていって……まるで本当の姉妹に見えるよ」


 まぁ、2人の仲が良すぎてアブノーマルな方向に行っちゃうけど……それは言わない事にしよう。

 さすがにそれは雨宮さんが混乱する。


「失礼ですが、神木さんがあなた方をその……兵器として見ている可能性は……」


「最初そう思ったんだけどね、未央奈さんも彼女のお父さんもそういう目をしなかったんだ。しかも上層部から僕らの行動制限を命じられた時には、クビ覚悟で反発してさ。そこから未央奈さんを信じるようになったんだ」


「そうなんですか……」


「今でもよく一緒に暮らそうって言われているけど、さすがにそこまではお世話になれなくて。親が逃げる時に置いてくれたマンションで暮らしているって訳」


 と、ここで僕は時計を確認する。

 そろそろチャイムが鳴ってしまう頃だ。


「とりあえず教室に戻ろうか」


「ええ、いつも通り別々にやって来た風にしておきます」


 クラスにおいて、僕と雨宮さんはあまり話していないイメージになっている(らしい)。

 なので一緒に歩いていたら不自然なので、距離を置いて帰る事にしていた。


 教室に戻ったと同時に、スマホをいじっていた森塚さんと目が合った。

 すぐに頬を赤らめてそっぽを向いたけど……何だろう急に?


 ただそう考えている間にも、チャイムが鳴り出す。

 僕は急いで机に座った。


「……?」


 机の中の教科書を取り出そうとした時、手に何かが当たる。

 おもむろに取り出してみると、それは一通の手紙だった。


 中を見てみると、


『お話があります。放課後、体育館裏に来てもらいませんか? 清水由良しみずゆら


 ……誰?


 僕、こんな知らない人と話す事なんてあったっけ?

 そもそも何で手紙が僕の机に?


 それに放課後は早く帰って絵麻を安心させたいし、さっきもらった検査結果をパソコンにまとめたいし。

 でもまぁ、そのまま黙って帰るのも失礼だから、ちょっとだけ顔出してみるか。


 なんて思った僕は、この後に後悔する事となった。

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