第3章 異形を祀る狂信者達

第27話 ??? 視点

 ギシッ……ギシッ……。


 暗い廊下を男の集団が歩いていた。


 先頭に立っている男性は、狩衣かりぎぬを思わせるような服装を身にまとっている。

 その後ろについている数人は柔道服に似た白い服装で、全員もれなく火のついた燭台を持っていた。


 狩衣の男性がある扉の前に止まり、静かにノックしてから入室する。


 部屋には連れと同じ服装をした女性がいて、狩衣の男性へと正座をしていた。


「お待ちしておりました教祖様。いよいよ私も……」


「ええ、あなたにも『恵み』の時期が来ました。これであなたは羽ばたく事が出来ます」


「ありがたきお言葉……私は今、幸せにあります……」


 女性は男性達と共に部屋を出て、廊下を歩き始めた。

 無言のまま奥へ奥へと進んでいく。


 やがて彼らが着いたのは、何もない空き部屋。


 ただ床には大きな穴が開いていて、地下へと続くように階段が設置されている。

 奥は暗くて何も見えない。


「ここから先は真っ暗です。足元に注意して下さい」


「はい……」


 女性の返事を聞いてから、男性達は階段を降りる。


 真っ暗な闇の中、男性達の軋むような足音が響いたり、燭台の火が揺れたりした。


 女性がそわそわと不安そうに見回している。

 男性は彼女へと振り返って、笑みを浮かべた。


「心配ないですよ。崩落の心配はありませんし、何より神が住まう場所なのですから」


「そうです……よね。すいません……」


「いいえ……っと、着きました。ここがそうです」


 階段を降りた先には、巨大な掘削機械で掘り起こしたかのような洞窟があった。


 洞窟の周囲にはお供え物らしきものが置かれている。

 バック、アクセサリー、指輪、金属のブレスレット。


 奇妙な事に、置かれているのはほとんど女性物だ。


「では今、あなたが大切に持っている物をあのように供えて下さい」


「大切な物?」


「はい。それであなたの汚れが浄化され、神によって救われるのです」


 そう言われた女性は少し考えた後、首のネックレスを外して洞窟に収めた。

 

「さぁ、神よ! この女性の過去、汚れ、闇を払うのです!! どうか彼女に恵みがあらん事を!!」


「お願いします! 今まで多額の借金で苦しんできました! どうか私を救ってください!!」


 男性が叫んだ後、白い服の男性達が一斉にこうべを垂らす。

 女性も洞窟の前に立って、両手を合わせていた。


 ――ズウウンン……。


 洞窟の奥から地鳴りに似た音が響く。

 それによって、洞窟の天井から土が少しこぼれた。


「……教祖様?」


「大丈夫です。そのままじっとして下さい」


 男性がそう言ってから、女性が洞窟へと向き直した時。


 糸のようなものが伸びて、女性の身体に巻き付いた。


「えっ?」


 そこから一瞬にして、女性は洞窟の中へと消える。


 静寂が増す中、男性は静かに口角を上げていた。


「神よ、たんと味わって下さい……そうしてもっともっと輝いて下さいまし……」



 ―――――――――――――――――――――――――――――――――



 ここまでお読みいただき、ありがとうございます! 第3章開始です。

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