第21話 怪獣殺しのスルー
あれから5日経って6月に突入した。
僕は今まで通り、教室で授業を受けている。
内容は歴史。それも怪獣に関するもの。
人類の歴史において怪獣は切っても切れない存在なので、こうしたように奴らに関する説明があったりするのだ。
「この鎌倉時代に記された『平家物語』。この書物に出てくる『
妖怪=怪獣というのは、特生対と協力している一環で知った。
同じように海外の伝承にある魔物や悪魔も……なんて話もある。
そもそも怪獣というのは、人類が超常存在を認識していた古き時代の名残的存在だ。
どういう事かというと、古い時代の人類は超常存在を「実在するもの」として認識していた。
なので神と呼ぶしかない絶対者も、日常的に存在できた。
神話や伝承はそういった存在を認識しながら書き残したものなのだ。
しかし次第に、人類は科学を発展して「そのようなものなど実在しない」という結論に達してしまった。
それにより超常存在は次第に淘汰され消滅してしまった訳だが、その中で生き残ったのが『怪獣』だ。
怪獣は現代に生きる超常存在なのだ。
これは未だ一部の人間が「超常存在は実在する」と認識しているから、怪獣はその認識に縛られているとされている。
その人達すら消えてしまったら、怪獣もまた存在しなくなるだろうと科学班は推測している。
ただまぁ、こういうのを学校で習うのはまだまだ先なので、口に出してしまったら先生やクラスメイトから「なんだこいつ」とか思われてしまう。
確か高校3年で習うものだって未央奈さんも言っていたしね。
僕は慎ましく学校生活を送りたいのだ。
例え知っていても口には出すまい。
――カツン……カツン。
それはそうと、さっきから消しカスの玉が頭に当てられている。
どうも投げているのは、五十嵐君の取り巻きのようだ。
取り巻きが僕に消しカス玉を当てるたび、それはもうニヤニヤ笑っている。
「おい、可哀そうだろぉ……ハハッ」
近くにいた五十嵐君も止めようとはしない。
まぁ、こんなものなんて僕からすれば安いものだ。
痛くも痒くもないどころか、認識していないと「消しカスを当てられている」という事すら気付けないので、自分にとってはどうでもいい事。
そもそもこういうの楽しんでいる五十嵐君達って、割と変わり者というかなんというか。
――ジー……。
ただ森塚さん……また僕の事を見ているよ。
消しカスはどうでもいいとして、彼女の視線って妙に気になるんだよね。
なんか僕しちゃったかな……。
――キーコーン、カーコーン。
チャイムが鳴り出して授業終了。
次は移動教室なので、生徒達がぞろぞろと廊下へと出ていく。
しかも場所が遠いし担当の先生が着席に厳しいので、生徒達は早々と急いでいた。
「雨宮さん、最近音楽聴いていたりしているけど何がお気に入り? 俺も聴こうかなって思ってさ」
「……『マイフレンド』ですが?」
「ああ、それ知ってる! いやぁ、あれって……って雨宮さん、行くの早くない?」
「話している間にも時間すぎますし、早く行きたいので」
「そっか。じゃあ歩きながら……」
雨宮さんは、五十嵐君と共に教室から出て行った。
今の彼女、何か冷淡だったような。
五十嵐君も彼女と一緒にというより、後を付いて行くような感じだった。
しかしまぁ、彼女にもそんな気分あるか。
それに時間すぎるとか言っていたけど、慌てない慌てない。
僕は自分のペースで歩き出そうとしたところ、森塚さんが近付いてきた。
「大都君、早くしないと遅れるよ?」
……もしかしてさっきの睨みと関係している?
「ああごめん、そろそろ出ようと思って」
「マイペースなんだね」
若干呆れたように言う森塚さん。
そこから彼女も教室を出るかなと思っていたら、何故か僕をジッと見ていた。
ちょっと気になるな……。
「どうしたの、森塚さん?」
「いや、大都君って何であんなに強かったの?」
「ああ……知り合いに叩きこまれてね。護身術みたいなものだよ」
実際、戦闘技術は未央奈さんから教わったものだから嘘でもない。
彼女、ああみえて強いから。
「そうなんだ。でも何でそんな強いのに……ああされて何とも思わないの?」
「ああされて?」
「五十嵐達の消しカスだよ。この間の大都君なら、あれくらい黙らせると思うんだけど……」
あの事か。
もしかしてさっきから見ていたのは、そういう事だったのかな。
「気にしていないよ、ああいうのは」
「それはないでしょ。あたしだったらキレているし……第一、大都君がそうなる理由なんてないよ」
「理由か……なくはないな」
「えっ?」
「あまり五十嵐君や池上君のように目立ちたくないからね。こうしているのも自分の意志なんだよ」
力を振りかざしたら、平穏な学校生活どころじゃないのだから。
前にナンパから森塚さんを助けた件だって、あれで精いっぱい力を隠していたものだ。
僕がヘマしたら絵麻にも迷惑がかかってしまう。アイツの為にも平穏な生活を望みたいのだ。
「……変わっているとか言われた事ない?」
「ん? あるようなないような」
「そう……もしかして眼鏡かけているの、それが理由とか?」
そう言って、森塚さんが僕の眼鏡に手をかけた。
「森塚さん?」
「取っちゃってもいい? すぐに返すから」
「別にいいけど……そんな面白いもんじゃないよ」
前置きはしたものの、森塚さんはすぐに眼鏡を取ってしまった。
「…………」
ほらっ、黙っちゃった。だから面白くないって言ったのに。
よほど期待外れだっただろうな。
「あ、ありがとう……返す」
「何でありがとうなの?」
「な、何でもないよ! ほら、早く行こうよ遅れちゃう!」
「う、うん……」
何、今の反応……森塚さんどうしたんだろう?
少し不思議に思っていると、ポケットのスマホが急に震え出す。
相手先は……未央奈さんか。これはそういう事になるな。
「ごめん電話だ。……はい」
『一樹君、つい10分前、東京湾の海底油田が襲われたという通報があったわ。間違いなく大怪獣よ』
「……そうですか。分かりました」
「えっ、どうしたの?」
「ごめん、僕これから早退しなきゃならないんだ。また明日ね」
「また早退? 確か5月もそうだったような……ってちょっと大都君!」
僕は教科書をカバンに詰め込んだ後、担任先生に伝えようと教室を出た。
ただそんな僕の前に、五十嵐君と取り巻き達が立ち塞がった。
「おい大都。お前、森塚さんと一体何の話……えっ?」
「「えっ?」」
「ごめん、今から早退するから。それじゃあ」
僕は五十嵐君達の間を潜り抜けて、先へと進んだ。
本当にごめん五十嵐君、遅れは一大事を生むんだ。
「大都の奴……どうやって潜り抜けた?」
「なんかスルリとした感じだったな……忍者というか」
「いやそんな事よりも! 大都スルーすんじゃねぇ! 話がまだ……」
「話なら明日に聞くから。じゃあ」
なんか五十嵐君怒りっぽいぞ。一体どうしたんだろうか。
もちろんそんな事を考えている暇はなく、早々と階段を上がった。
「……クソッタレ!!」
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