第15話 怪獣殺しの無自覚

 放課後。


「なぁ雨宮さん! 俺達とマック寄らない!?」


 帰宅の準備をしていた雨宮さんに、五十嵐君やその取り巻きがやって来た。

 彼なりのお誘いだ。


「いえ、これから家に帰らないといけなくて。すみません」


「そうなんだ。もしかして勉強だったりする?」


「まぁ、そんなところで」


「そっかぁ。君って結構熱心なんだなぁ、何だか俺とは大違いだわ」


 そう微笑む五十嵐君。

 こうしてみると爽やかスポーツマンって感じなんだけどなぁ。


「では私はこれで……」


「おお、気を付けてな。よし、俺達もそろそろ行くか」


 雨宮さんと五十嵐君達が教室を出ていく。

 少し時間を置いたところで、僕もそそくさに教室を後にした。


 学校を出た後、指定された場所へと向かうと雨宮さんの姿があった。


 ちなみに耳にイヤホンを付けて、軽く身体をリズムよく動かしている。 

 さっき言っていた流行の音楽が趣味というのは本当だったらしい。


「ごめん、待った雨宮さん?」


「いえ大丈夫です。とりあえず話しながら歩きましょう」


「うん。というか帰り道こっちで大丈夫なの?」


「私はこのままこちらの駅に乗って、本部に行きますので」


「あっ、そうなんだ」


 合流したところで、僕達は帰路へとついた。

 周りには誰もいない。小声で話すくらいなら問題はないだろう。


「まさか君が僕のクラスに転入するなんてね……未央奈さんの差し金?」


「神木さんには、あなたに付いて様子を見張ってくれと言われましたからね。ただあくまで監視役なので、相談と作戦連携程度の事しか出来ないですが」


「問題ないよ。そこまでしてほしいとも思ってないから」


 特生対側は自分が高校卒業できるようフォローするけど、クラス全体の事はノータッチを貫いているのだ。


「学校側には私の正体は明かしていないので問題ありませんし、もし仕事があれば早退という事ですぐに帰りますので」


「大変じゃない? 仕事と学校の両立なんて」


「それあなたが言えます? いくら諜報班と言ってもまだ学生なので、そういうのを怠る訳にはいかないんですよ。神木さんにも釘刺されていますし」


 確かに未央奈さん、その辺うるさそうだ。


「それでケツァルコアトルの解剖結果ですが、あの青い外殻は黒曜石に似た成分をしていた事が判明しています。何でもマグマと体表からにじみ出た体液を混ぜ合わせて形成されているとか」


「へぇ、そうなんだ」


「怪獣の体液が原因なのか、どの金属よりも硬いという報告もあります。なので以前のサラマンダーの鱗と同様、『ミスリル』に加工する予定となっています」


 ミスリル。

 それは特生対防衛班が使っている火器の総称だ。


 怪獣の鱗やら甲殻やらを銃身や弾丸に加工し、さらに青白く光る『特殊エネルギー』を付加させる。

 これにより怪獣へのダメージを実現させているそうだ。


 それとあくまで仮説という前振りの元、雨宮さんがケツァルコアトルの生態を語ってくれた。


 まず親のケツァルコアトル……要は僕が倒したような奴が火山から出た後、多数のヒナを生む。

 ケツァルコアトルにはヒナを育てるという習性はなく、ヒナは自力で獲物を探さなくてはならない。

 さらに親よりも非力なので、生き残れるのはほんの一握り。


 生き残ったヒナが十分に成長した後、巣でもある大鬼山に戻る。

 親はその際寿命死するか、ヒナに喰われるかなんなりで死亡。


 そしてヒナはマグマなどを取り込んで青い外殻を作りながら成長し、親になったらまた卵を産む。

 その繰り返しをする怪獣ではないかという事だ。


「鬼火鳥様のモデルになった個体がいた時代には、怪獣が多くいましたからね。成長できなかったヒナはソイツらに喰われたりしたのでしょう。あるいは大都さんが戦った個体が兄弟を共食いした……という可能性もなくはない」


「それならケツァルコアトルの行動に合点がいくね。ところでこっちから質問していいかな?」


「何です?」


「僕のクラスどう? 居心地悪いとかある?」


「今のところはないですね。ただあなたを見ていると複雑な気分になります」


 複雑な気分? 

 一体どうしてなんだろう?


「何か僕、変な事をした?」


「あなたがじゃないですよ。いくら地味に扮しているからといって、クラスの生徒に酷い仕打ち受けているじゃないですか。昼休み後の移動教室の時なんか、何もしていないのに男子に舌打ちされていましたし」


「ああ、あれね」


 確かに移動教室に向かおうとした時、僕の近くにいた男子から「チッ」とか言われた気がする。

 ちなみに、五十嵐君とは別派閥の陽キャグループの1人だ。


「それに神木さんが言ってましたけど、特生対もある程度のフォローをしようとしたら、あなた自身が突っぱねたそうですね。それで私に白羽の矢が立ちまして」


「なるほど、全くお節介焼きだな特生対も」


 今さっき特生対側がノータッチを貫いていると言ったけど、あれはどちらかというと「僕がノータッチさせるよう言い聞かせた」が正しい。


 フォローをしようとした特生対側に対し、僕は別に気にしていないからと蹴ったのだ。

 それはもう過保護のようなものだし、そういうのはごめんだったから。


 雨宮さんを派遣させたのも、フォローできないならせめて……といった感じだろう。


「まぁ、何か困った事がありましたら言って下さい。私は一応あなたのメンタルチェックを任されていますので」


「うん、分かった」


 そう返事した時、雨宮さんが僕の顔をじっと見てきた。


「大都さん、やはり眼鏡外した方がいいですよ。その方が印象がだいぶ変わります」


「いや、眼鏡をかけると目立たなくなるって聞いたから無理だよ。それに外しても大して面白くもないし」


「……本気で言ってます?」


「本気って……自分の事は分かっているから本気も何もないよ」


「……そう……ですか……」


 哀れな目をしてくる雨宮さん。

 むぅ……彼女の意図がよく分からない。


「ところで五十嵐君が特生対に入りたがっていたね。君から見てどう思う?」


「駄目ですね」


「えっ?」


「そのままの意味です。……っと、とりあえず私はここで曲がりますね。それと神木さんからの伝言ですが、次の日曜日に『特生対研究所』に来て欲しいとの事です」


「そ、そう……」


「それではケツァルコアトルの資料は後ほどお送りますので。お疲れ様です」


 僕と雨宮さんは別れ、再び歩き出した。


 駄目というのは果たしてどういう意味だろうか。

 もしかして雨宮さんから見て、五十嵐君は不合格という事?


 それよりも彼女と一緒に学校生活か……。

 まぁ何とかなるだろう。彼女、クラスにある程度馴染んでいるみたいだしね。


「……だから……て」


 と、前方に人だかりが集まっているのが見えた。

 3人の男性と1人の女の子……ここからだと顔が分からないが、服装は間違いなく白神高校のものだ。


「なぁ、いいだろ? 別に……じゃないんだから」


 これはナンパだろうか? それも悪質なケース。

 気が付くと僕は、まっすぐそちらへと向かっていった。

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