第2章 冷たい深淵からの襲撃者

第14話 怪獣殺しのクラスに転入生

 古来から続く怪獣災害は、2030年代になっても終わる事はなかった。


 まさに人類の歴史は怪獣との付き合いと言っても過言ではない。

 人類は怪獣によって脅かされつつも、今日まで対抗し続けたのだ。


 翌日、普段通りに登校する僕。


 1年C組に入ると……これは意外。

 今回は僕の席は占領されていないようだ。

 

 当の五十嵐君は扉近くにいて、取り巻きと談笑しながらしきりに廊下を見ている。

 先生を待っている? いや、彼の性格からそんなはずが……。


「早く来ないかなぁ~」


「楽しみだよな! ってか、こういう時に限って時間が遅く感じるんだよなぁ」


 それに教室全体が妙だ。

 

 まるで誰かを待っているような雰囲気。

 今か今かとウズウズしている気持ちが蔓延していた。


 ともかく僕の席は空いているので、すぐに座って『地の底』の続きを読む事にした。

 

「おはよ~。ねぇ、この騒ぎ何?」


「実はこのクラスに転入生が来るって! まだどっちなのか分からないんだけど!」


「えーマジー!? イケメンだったらいいなぁ!」


 近くの女子達からそんな話し声がしてくる。


 転入生が来るのか。それならばこの騒ぎように納得がいく。

 もっとも僕としては関係ない事だろうし、その転入生とはあまり接点は持たないだろう。


「ん……うわっ、大都がこっち見てる」


「何見てんのよ」

 

「あっ、ごめん」


 しまった。話を聞く為とはいえ、見すぎてしまった。

 すぐに謝ってから本に目線を落とす。

 

「ほんと、大都って華がないよねぇ」


「そだねー。転入生と入れ替えしてほしいわぁ」


 うん、いつも通りだ。


 なんか思ってた学園生活とはかけ離れてしまったけど、これはこれで目立たなくなるから怪我の功名だ。

 ただまぁ、目を合わした途端に陰口するのはどうかと思う。


 ――ジー……。


 ……なんだこの視線? 僕を明らかに見えているような。


 本から顔を上げると……なるほど森塚凛もりづかりんさんか。


 彼女がこちらを何故かじっと睨み付けていたのだ。

 しかも僕の視線に気づくなり、バッとそむける。


 シニヨンにまとめた髪が特徴的な彼女は、このクラスの男子の人気者だ。

 容姿は優れていながら一人でいるのを好むという、孤高の花と呼ぶべき子だ。


 そんな彼女が僕を睨んでいたなんて、一体何かしたのかな?

 ……いや、彼女もまた他の女子みたく軽蔑しているのかもしれない。それならば気にする事もないか。


「おーし。皆、机に戻れぇ」

 

 チャイムが鳴ったと同時に、先生が入ってきた。

 生徒一同が席に戻ったところで、ホームルームが始まる。


「大鬼山に現れた怪獣ケツァルコアトルな、昨日の内に特生対に掃討されたらしい。ただ大鬼山の余震の方はまだあるだろうから、気を抜かないように」


「やっと倒されたかぁ。安心したぜ」


「さすが特生対だな」


 周りの生徒から安心の声が聞こえてくる。

 うん、ちゃんと情報統制はなされているな。

 

 何で特生対の攻撃が効かない怪獣が死後解体できるのかというと、実は僕が開けた風穴を利用して中から切り刻んでいるのだ。

 いかに強固な外殻を持っている怪獣でも、中はそれなりに危ういという訳だ。


「それでもう聞いているとは思うが、このクラスに転入生がやってくる。皆、仲良くするんだぞ」


「先生~。男ですか、女ですか?」


「女子だ」


「うっしゃ! ラッキー!」


 先生の返答を聞いた途端、五十嵐君が嬉しそうにガッツポーズをとった。


 だからあんなに廊下を眺めていたのか。

 なお先生が来る前にチャイムが鳴ったので、確認はとれなかったはず。


「さてと、入りなさい」


「はい」

 

 ドアが開くとその転入生が入ってきた。


 ポニーテールにまとめた長い髪と豹のような目尻の鋭い瞳。

 人を寄せ付けない雰囲気……ん?


「今日から、このクラスの生徒になる雨宮飛鳥だ」


「よろしくお願いします」


「「おおおおおおおお!!」」


「へぇ、まるで女優みたい」


「うん、綺麗だねー」


 男子から歓喜の声。

 女子からも感心するような声が聞こえてくる。


 ただ僕だけが転入生を見て、呆気にとられた。

 まさか雨宮さんが自分のクラスに来るなんて……そういう話すら聞いていないよ。


「雨宮さんの机は後ろの方に用意してある。そこに座りなさい」


「はい」 

 

 机に向かう最中、生徒の羨望せんぼうの眼差しが雨宮さんに向けられていた。


 対し彼女はどこ吹く風といった様子で進み、自分の机を座る。


 その際、視線が僕に向くのが分かった。

 僕もまた無言の視線を返すしかない。




「なぁ、雨宮さんってどっから来たの!?」


「趣味とかは!?」


 1時限目の授業が終わった後、雨宮さんの周りに生徒が集まった。

 男子7の女子3の割合。まぁ、何でこんな具合になったのかは分からなくもない。


 雨宮さんは絵麻や未央奈さんにも劣らない美人で、ありきたりな言い方をするのなら『クールビューティー』な感じ。


 だから未央奈さんに襲われないかといらぬ心配をしてしまうという。

 まぁ、彼女なら大丈夫かな……多分。


「埼玉から来まして……趣味は流行の音楽を聴く事ですね」


「へぇ! カッコイイなぁ!」


 どっちも本当かは分からないんだけどね。

 あとで本人に聞いてみようかな。


「俺は五十嵐琢磨! 今サッカー部に所属しててさ! 卒業したら特生対に入る予定なんだ!」


「そうそう。確か怪獣の額に銃を向けて……えっと何だっけ?」


「『悪いな、お前ら怪獣の居場所なんかねぇんだわ』だよ。とにかく体力には自信があるし、池上が特生対のお偉いさんの息子だから、その縁で入ろうかなって!」


「そうは言うけど、特生対の試験は厳しいからね。俺の親父がそうだからって入れるとは限らないよ……あっ、俺は池上茂。何か困った事があったらすぐに言ってね」


 五十嵐君の横には池上君もいて、ニコリと自己紹介をする。


 それだけで、周りの女子の目が恋をするようなものに変わってゆく。

 さすが人気とカリスマを同時に併せ持つ人。


 ただそんな池上君を前にしても、雨宮さんの冷静な表情が崩れる事はなかった。


「ありがとうございます。ただ自分で何とかするので」


「本当? 大丈夫?」


「ええ。こういうのは1人で調べた方が良いと言われてきたので」


 さすが特生対諜報班所属だけあって、そういうのは徹底しているらしい。


 そもそも学校には自身の事をどう説明しているのだろうか。

 もしかしたら未央奈さん辺りが手回ししているかもしれないが、色々と気になってしまう。


 と、またもやさっきみたく僕をチラ見する雨宮さん。


 何かのサインだろうか。

 と思っていた矢先、彼女が五十嵐君達に見えないようスマホを取り出し、素早くタップしていった。


「雨宮さん、どうしたの……ってああ、大都見てたのか。アイツ良いところなしの陰キャだから気にしなくていいよ」


「そうですか」


「でさぁ、今の特生対って絶好調だなぁって思うんだよ。ついさっきケツァルコアトルを倒したって言うし、俺も華麗に怪獣を倒したいっていうか! それが入隊を決意した理由なんだよ!」


「……なるほど……ですね」


 ――ピロリン。


 僕のスマホに着信音が鳴り出す。

 確認してみると、ラインにメッセージが1つ。


《雨宮さん:放課後、あなたに話があります。学校から離れたところで落ち合いましょう》


 ……彼女、スマホ見ないで文章打ったのか? マジですごいな。

 ご丁寧に落ち合う場所の地図も添え付けているし、どんだけ几帳面なんだ……。


 まぁ、大方この状況の説明に違いない。

 僕は《分かった》と、メッセージを雨宮さんへと送った。



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 ここまでお読みいただき、ありがとうございます! 第2章開始です。

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