第11話 鬼火鳥様を狩る怪獣殺し

 きっと昔の人、ああいう姿に恐怖抱いていただろうなぁ。


 山頂に鎮座するケツァルコアトルを見て、僕は鬼火鳥様の絵画を思い出す。


 昔の人は得たいの知れない怪獣を妖怪と例え、畏怖の念を抱いていた。

 つまり伝承に伝わる妖怪や怪異の何体かは、怪獣が正体という事もある。


 諜報班が伝承を調べるのはこういったケースがあるからで、現に鬼火鳥様を事前に察知する事も出来た。

 さらに卵を産む事やヒナの生態を調べ尽くしてくれて……本当に諜報班の方々は優秀だ。


「ヒナが下山を始めたようです」


「うん」


 そのケツァルコアトルの足元から、ぞろぞろと数体の生物が出てくる。

 写真に載っていたヒナだ。

 

 ヒナ達が獲物を求めて翼を羽ばたかせている。

 産まれたばかりなのにもう飛べるとは、確かにこのままだと人里に向かってもおかしくないな。


 ――グギャアア!!


 するとどこからかエネルギー弾が放たれ、ヒナの1体を撃ち落とした。

 弾が来た方向を向いてみると、上空へと飛翔する信号弾とその下に集まる防衛班隊員の姿があった。


「あれが富山支部の特生対防衛班……」


 毅然きぜんとした態度でライフルを構える防衛班……まさに死線を潜り抜けた戦士って感じだ。


 仲間が撃たれた事と放たれた信号弾に気付き、ヒナ達が防衛班へと進路を変える。


 防衛班は臆する事なくヒナの大群に向かい、次々と銃撃を始める。

 青白く光る弾丸はヒナの2~3体を撃ち落としたが、残りがそのまま防衛班に激突。


 怒号入り混じった喧騒が、このヘリの中でも響き渡った。


「雨宮さん、どこに降りる予定?」


「えっ? 大鬼山の麓辺りですが……」


「出来ればケツァルコアトルの近くまで行ってくれる? なるべく手短にカタを付けたい」


 防衛班が頑張っている以上、早めに仕事をしなければね。

 それにさっさと終わらせて絵麻のところに帰りたい。


「しかし……」


「分かってる、近付いたら撃ち落とされるんだろ? 何とかするから大丈夫だよ」


 僕は安心させるように少しばかり微笑んだ。


 雨宮さんは悩んだ顔をしていたが、すぐに操縦士に指示を与えた。

 次第に窓に映る大鬼山とケツァルコアトルが近くなってくる。


 ――グルウウッルウ……。


 ケツァルコアトルの顔がこちらに向いてくる。

 僕はドアを開けて奴と相対した。


「大都さん!?」


 ――ギュオオオオオオオオオオオンン!!


 奴の口から熱線が放たれた。

 

 さすがの雨宮さんも恐怖で顔を引きつっていた。

 熱線が向かってきたらこうもなるか。


「だから大丈夫だって」


 僕は右手を掲げた。

 瞬時に赤く透明な障壁を形成させ、ヘリを包み込んだところで熱線を跳ね返す。


 反射した熱線は、ケツァルコアトルの翼に当たって穴を開けた。


 ――ギュアアアアア!!?


「……怪獣の熱線を跳ね返した?」


「じゃあ行ってきます」


「えっ? ……ちょっ、この高さから!?」


 僕はヘリから飛び降りた。

 ヘリを降ろすのは時間かかるし、その間に間違いなく襲われるからね。


 雨宮さんが何か叫んでいたのを聞こえていたが、もうその時には山肌に着地していた。

 これでようやく心置きなく戦える。


「さてと……」


 ケツァルコアトルが大きな翼をはためかせてきた。


 もちろん向かっている先は僕。

 さらに僕めがけてしきりに熱線を放ってくる。


 しかしそんなのしても無駄。


 僕の前に障壁を発生させ、熱線のことごとくを防いでいく。

 障壁によって曲がった熱線は、山肌へと当たって爆発を起こした。


 ――グウウウウ!!?


「驚いている顔だね。そりゃあ驚くか、大して武装もしていない人間が熱線を弾くなんてさ」


 武器を持っていない普通の人間が、怪獣と対等に戦っている。

 そりゃあ驚くよ。


 ケツァルコアトルは焦燥感のある鳴き声を出しながら足を向けてきた。

 踏み潰される直前に横に移動し、がら空きになった腹に手を向けた。


「≪龍神の劫火ごうか≫」


 僕の手から、そういう名を持つ赤いエネルギー波が放たれる。

 巨大な矢じりのような形状になった直後、ケツァルコアトルの腹を貫通した。


 巨大な風穴を開けられたケツァルコアトルは事切れ、僕の方に倒れてくる。

 潰される前にすかさず後ろへと下がった。


 ――ズウウウウウンン……。


 ケツァルコアトルは目を見開いたまま動かなくなる。

 僕が顔を蹴っても無反応。完全に絶命したみたいだ。


「こちら一樹、現時刻をもってケツァルコアトルを掃討完了クリア。僕の回収をお願いします」


『……了解……しました。今しばらくお待ちください……』


 あらかじめ持たされたインカムで状況報告すると、雨宮さんの唖然とした声が聞こえてくる。


 僕はヘリが来るまで待機しようとしたところ、ケツァルコアトルを乗り越えるように複数の影が迫ってきた。


 ――ギイイイイ!!


 ヒナ達だ。数は10体ほど。

 防衛班に向かっていた群れとは別行動をとっていたか。


 貪欲によだれをまき散らし、僕を喰おうと口を開けている。


 僕は腕に≪龍神の劫火≫のエネルギーを込め、思いっきり振りかぶった。

 劫火は三日月の形状になって飛び、一気に奴らの首を跳ね飛ばす。


 僕の足元に転がるヒナ達の死骸。

 頭も時間おいてボトボト落ちてきた。

 

 これはしばらくチキンが食べられないな……どうしてもコイツらを想像してしまうよ。

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