第10話 怪獣殺しの移動
特生対東京本部。
怪獣から東京を守る、現代の戦士の本拠地だ。
僕達を乗せた車は、その本部の端にあるヘリ格納庫へと向かっていった。
隊員と接触を避ける僕なのだが、さすがにヘリなしでは現場まで急行できない。
それにヘリの操縦士くらいなら別に会っても構わない。
「ご苦労様です。準備が整い次第、すぐに現場に急行します」
操縦士には丁寧に言われた挙げ句、敬礼されてしまった。
そんな偉い身分じゃないんだけどなぁ。
ヘリが上空を飛んでいる間、僕は絵麻に連絡をとった。
今回はラインではなく通話。
大怪獣掃討の前は、こうやって連絡するのが僕のポリシーだ。
「……という訳なんだ。だからごめん、少し遅くなるかも」
『そっか……大怪獣が現れたらしょうがないよね』
スマホから絵麻の悲しい声が聞こえてくる。
きっと料理作って待っていただろうに……だから大怪獣は出てほしくないんだ。
「いつもみたく未央奈さんがそちらに向かっているから。……本当にごめん、必ず埋め合わせはするから」
『別に約束した訳じゃないでしょ。でも無事に……無事に戻ってきてね』
「うん……ありがとう絵麻。それじゃあ」
通話を切る。
未央奈さんが付いているとは言え、寂しい想いをさせてしまったな……。
近い日にでも、絵麻が好きなシュークリーム買いに行こう。
「あっ、ごめん雨宮さん。もう大丈夫だよ」
「ええ……あの、自分が言うのもなんですが、かなり妹想いなんですね」
「そうかな? 兄妹なら当然の事と思うんだけど」
「しかし最近は……っと、作戦の途中ですね。失礼しました」
雨宮さん、妙な事を言うなぁ……。
兄が妹を守る。世の中そうなっているはずなんだけど。
「神木さんがおっしゃったように、怪獣のコードネームはケツァルコアトル。大鬼山周辺の伝承に『
雨宮さんが紙の資料を渡してくれる。
まず諜報班が撮った写真には、火山の頂上で翼を広げる怪獣の姿があった。
そのすぐ隣に、墨で書かれた妖怪らしき絵もある。
文章を読む限りだと、この絵が描かれたのは室町後期辺り。さらに妖怪の特徴が写真の怪獣とほとんど一致していた。
「性質は凶暴で、大鬼山を観測していた諜報班を殺害したとの報告が入っています。もちろん防衛班が出動したのですが、奴の青い外殻には傷1つ付ける事が出来ませんでした」
雨宮さんがタブレットを用意してから、ある動画を再生した。
『こちら防衛班!! こちら防衛班!! ケツァルコアトルと交戦中!! しかし損傷見当たらず!!』
防衛班の1人に取り付けられた小型カメラだろうか。
どうも軍用ヘリに乗っているらしく、大鬼山を旋回するような感じになっていた。
山の頂上にはあのケツァルコアトルが陣取っている。
防衛班はライフルによる攻撃を仕掛けていた。
しかし放たれた無数のエネルギー弾は、奴の外殻に次々と弾き返されてしまっていた。
――ギュオオオオオオオオアアアア!!
ケツァルコアトルは周りを飛ぶ防衛班に対し、相当イラついてる様子だ。
奴がもう1機のヘリに顔を向けた後、口を開く。
瞬間に口から赤い熱線が放たれ、ヘリを爆散させてしまった。
さらに映像を流してくれているヘリにも顔を向けて……。
『いかん!! 退避! 退――』
ケツァルコアトルの喉が光った直後、映像が黒く染まった。
何が起こったのかは言うまでもない。
「これはまた面倒そうな怪獣だね」
「おっしゃる通りと思います。今現在、奴は卵を産んでいますので」
「卵?」
「先ほどの映像を戻しますので、よく見て下さい」
雨宮さんが動画を巻き戻した後、さっきの戦闘がまた映し出された。
「ケツァルコアトルの足元のところですけど」
防衛班を蹂躙する奴の足元を凝視する。
なるほど、そういう事か。
足元にはまるで岩のようなごつく丸い物体が転がっている。それが20個以上ある。
「科学班の推論ですが、ケツァルコアトルは火山の中で成長を遂げた後、外に出て繁殖を始める生態を持っているらしいです。しかも単独で産んでいるので、単為生殖で間違いないかと」
単為生殖とは、簡単に言えばつがいを必要とせず自力で子供を生む事。
それを聞いたら、そんなご都合あるかと誰もが思うだろう。
しかし怪獣は生物学的な常識が通用しない存在。
単為生殖をしても不思議じゃないのだ。
「もしこのヒナが広範囲に飛び回ってしまえば、付近の人里への被害は避けられません。人口の多い東京も例外ではないでしょう」
「東京ねぇ……」
ほら、だから言ったじゃないか、五十嵐君、池上君。
東京から遠いんだとか特生対が退治してくれるんだとか言ってたけど、なんやかんやで怪獣は来るもんなんだから。
「それで、僕はどう動けばいい?」
「実はヒナが下山して、麓を歩き回っていたのです。そこを防衛班によって掃討されたのですが……」
次に映し出されたのは怪獣の死体写真だ。
鳥とトカゲを足したような顔つきと大きな翼。
確かに特徴がケツァルコアトルに酷似している。
ただ親が青い外殻を纏っているのに対し、こちらは茶色の体表をしていた。
もしかしたら、あの青い外殻は成長して得たものなのかも。
「数体確認している事から、ヒナは孵った後に獲物を探す習性がある。なので防衛班が孵化したヒナを引き付けておきますので、あなたはその間にケツァルコアトルを叩いて下さい」
「了解」
プランは至極簡単。本丸に突入してその首を取るだけ。
ケツァルコアトルにとっては生きる上で大切な事をしているだろうが、悲しくもそれが人間にとっての不利益になっている。
怪獣と人間の戦いはまさしく生存競争だ。
敗者は淘汰され、生態系のニッチを奪われるだけ。
「雨宮さん」
「はい?」
「何というか、まだ入って間もないのに様になっているね。お父さんの教えが上手かったのかな?」
いつしか僕はそんな事を口にしていた。
ただこれはあまりにも無粋では? と思っている自分もいる。
もし彼女がポカンしたら「聞かなかった事にして」とか言おう。
「……父は仕事熱心な方でした。私の母が亡くなってからも、父は怪獣捜索に明け暮れていました」
ただ意外な言葉が、雨宮さんの口から出てきた。
「父と遊べなくて不満を抱いていた事もありましたが、次第に父は日本にとって大事な仕事をしているんだ……って分かってきて。なので怪獣によって殺されたと聞いた時はショックを受けました」
「もしかして怪獣に対して
「そんな臭い事はしません。ただ私は、父が果たせたなかった事を代わりにしたいだけです」
「そっか。尊敬しているんだね、お父さんの事」
冷静で何考えているのか分からなかった雨宮さんだが、ここでようやく掴めた気がした。
彼女のそういうところは嫌いじゃない。
「私はまだまだペーペーですが、出来る限りあなたのアシストに回っていきたいと考えています。こんな自分ですが、どうかよろしくお願いします」
「こちらこそ。改めてこれからもよろしく」
この人なら信頼できそうだ。
そう思っていると、何故かこちらを一点に見つめてくる雨宮さん。
「どうしたの?」
「いえ……大都さんはいつも眼鏡をしているのですか?」
「外に出る時は大抵そうだね。そうした方が目立たないし」
「……もったいないですね」
「えっ? それどういう……」
――オオオオオオンンン……。
突然、地獄から来たような禍々しい声が響いてきた。
僕は窓から外を眺めてみる。
「あれがケツァルコアトルか」
森林限界の環境に囲まれた大山と、その上で唸り声を上げる大きな怪鳥。
資料に載っていたケツァルコアトルそのものだ。
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怪獣のコードネームが「○○ラ」とかありふれた名前ではなく幻獣由来なのは、その方が読者に怪獣の姿を想像させやすいと判断したからなのです。
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