第12話 怪獣殺しの仕事終わり

 こうしてケツァルコアトルは死亡し、怪獣災害は最小限に抑えられた。

 ヒナも防衛班の手によって全滅したという。


 仕事を終えた僕と雨宮さんはヘリに乗り、特生対本部へと戻った。


「今日もお疲れ様、一樹君! これでまた日本社会が救われたわ」


 ヘリから降りた僕達を出迎えてくれたのは、未央奈さんだった。

 彼女が僕に近付いて、胸に飛び込むように抱き付いてきた。


「あの……僕子供じゃないんでそういうのは」


「おっと、ごめんなさい。でもまだウブねぇ」


 すぐに引き離すと、妖艶に微笑む未央奈さん。


 未央奈さんは本当に美人なのに、仕事のせいか彼氏を作らない様子だ。 

 そろそろいい年頃だから、彼氏を作ってもバチは当たらないと思うが。


「そういうのは好きな人にしてあげた方がいいですよ」


「えっ? もうしているじゃない?」


「……? どういう事です?」


「……いや何でもない」


 珍しく拗ねた顔をしてしまう。


 僕はあくまで弟みたいな存在だし、まさかそんな事はないと思うけど。

 それとも家族として『好き』という意味か? それなら納得だ。


「それで飛鳥ちゃん、ケツァルコアトルは?」


「親もヒナも掃討完了しました。親は怪獣解体業者が解体しますが、その欠片かけらはすぐ科学班に回されます。あと目撃者も今回見つからなかったのでご安心を」


 世の中には、怪獣にかなり近付いて実況するユーツーバーだっているからね。

 いくら場所が火山といっても侮れない。


「ご苦労。それでどうだった、一樹君の活躍は?」


「……正直今でも夢だったのではと思っています。いきなり大都さんがありえない高さから飛び降りて、そのまま大怪獣を倒して……父が言っていた通りですよ」


「やっぱりみんなそう思うよね。ああいうのなんて言うだっけ……チート? うんチートよチート」


 チートって……そこまで言うほどかな。


「それで一樹君の方はどう? 飛鳥ちゃんの仕事ぶり」


「問題はなかったですよ。本当に仕事に打ち込んでいるなぁってのが伝わってきましたし」


「だそうよ。よかったじゃない、飛鳥ちゃん」


「……ええ、光栄です」


 嬉しそうに微笑む雨宮さん。

 よかった。未央奈さんは割りとそういうところに厳しいから、認められたのは相当な事だ。


「さて一樹君、家まで送るわ。飛鳥ちゃんは残って報告書をまとめておいてね」


「分かりました」


 言われた通り、雨宮さんは特生対本部の中へと入っていった。


 僕と未央奈さんは車に乗って、我が家へと帰宅。


 さりげなしに窓から外を見ると、出歩いている人はほとんどいない。

「怪獣出現の際には、例え遠くても外出は控えるように」という政府の要望もある為、それに従っているのだ。

 ちょろちょろ見る外回りっぽいサラリーマンは仕方ない。それが仕事なのだから。


「お帰り兄さん! お仕事お疲れ様ー」


 マンションの部屋に着いた瞬間、妹の絵麻が出迎えてくれた。


「怪我とか大丈夫? 服とか汚れたとかある?」


「大丈夫だよ。絵麻も家でちゃんと待ってた?」


「うん、未央奈さんがいたから寂しくなかったよ」


 他の女性に対して警戒心が強い絵麻だが、未央奈さんだけは非常に慕っている。

 絵麻にとって未央奈さんは親でもありお姉さんでもあるからだ。


「未央奈さん、時間は大丈夫?」


「そうねぇ。本当なら本部に戻らないといけないけど、30分程度なら大丈夫かも」


「なら一緒にご飯どう? もう出来上がっているから」


「本当? じゃあお言葉に甘えようかしら」


 未央奈さんとごはん食べるの久しぶりだなぁ。

 

 食卓に並んだ僕達に、絵麻が大盛りの肉じゃがを用意してくれた。

 「ちょっと作りすぎちゃった」というのが絵麻のコメント。


 僕と未央奈さんがそれらを食べて、絵麻が女の子らしくなったとかなんとかで軽く談笑したりした。

 そうからかっていると絵麻が恥ずかしがる。そこがまた可愛いんだよ。


「ふぅ、美味しかったぁ。……あっ、吸っていい?」


「いいですよ」


 ご飯を食べた後、僕達は食卓からソファーに移動して緑茶を飲んでいた。


 僕が換気を入れると、未央奈さんがポケットから取り出したタバコを吸い出す。

 匂いについては僕はともかく、絵麻は慣れていないので若干距離を離していた。


「ほんと、絵麻ちゃんの料理は最高だわ。毎日食べたいくらい」

 

「未央奈さんが料理教えてくれたからだよ。料理できなかった私に付き添ってくれて……頭が上がらないよ」


「フフッ、良い事言うじゃないの。可愛いわね、絵麻ちゃんは」


「そんな、私は……あっ……」


 タバコを携帯吸い殻に入れた後、絵麻に近付く未央奈さん。

 太ももを触っているみたいだ。


「未央奈さん……ちょっと……んん……」


「まぁ、この間触った時よりも大きくなってない? また一緒にブラ買わないとね」


「に、兄さんが見てるよ……恥ずかしい……あっ、あっ……」


 しまいには、未央奈さんが後ろから絵麻を抱く形になった。

 胸など色んなところを触れられて、よがり声を出す絵麻。


「兄さん……見ないで……」


「……ほら未央奈さん、そろそろやめにしましょう」


「えー、いいところだったのに……」


 口で言っても止めない未央奈さんなので、僕が彼女達を引き離した。


 絵麻はだいぶやられたのか、荒い息を立てていた。


「もう、未央奈さん……」


「ごめんごめん、絵麻ちゃんがあまりにも可愛かったからさ。はぁ……絵麻ちゃんを妹にしたい。そんで身の回りの世話をしたい」


「絶対に世話だけじゃ済まさないと思いますけど」


 あえて僕は突っ込んでおく。


 まぁこの通り、未央奈さんは女の子に(性的な意味での)興味があるのだ。

 雨宮さんも美人だから、いつの日か食べられるかも。


「それにしても未央奈さん」


「ん、何?」


「富山支部への協力はこれで初めてだったんですけど、やっぱ疎まれたりするんですかね。今さらですけど」


 何せこれ、手柄の横取りになる訳だし、まるでハイエナのような感じだ。

 事情を知っている東京本部はいいとして、富山支部の防衛班があまり良い顔しないのかも。


「まぁ、そういう事になるかもしんないけど、そんな深く考えなくてもいいんじゃないかしら?」


「えっ」


「だって、あなたが倒しているのは特生対でも対処できない大怪獣だけだし、普通の怪獣は防衛班がやっているしね。トータルでは防衛班の方が頑張っている。だからその辺気にしなくてもいいと思うの」


 そういう考えもあるのか。

 確かにどっちが怪獣を倒しているかと言えば、そりゃあ防衛班の方が勝る。


「こう言ってはなんだけど、別に一樹君が頑張っていない訳じゃないのよ? ちょっと言い方がアレだったけど」


「いえ、大丈夫ですよ。何かちょっとスッキリしました」


「そっか。でも本当はもっと誇ってもいいんだけどね。認めない人もいるかもしれないけど、あなたは日本を守っている功労者なんだから」


「大げさですよ。日本を守っているというよりも……」


 僕の視線が絵麻の方に向いた。

 ピクリと絵麻が反応すると、「あ~」と未央奈さんが納得する。

 

「本当に相変わらずね、あなたらしい」


「そうですかね?」


「そうよ。さて、そんな熱々兄妹の邪魔にならないよう、そろそろお暇しようかな。もしケツァルコアトルの解剖結果とか出たらすぐ持ってくるから。絵麻ちゃん、今日もごちそうさまね」


「うん、また時間が来たら来てね」


 僕達に見送られながら、未央奈さんが家を出て行った。

 久々に一緒の食事は楽しかったな。やっぱり食事は多くいた方がいい。


「兄さん」


「ん?」


 緑茶を含んでいた僕に、そっと絵麻が寄り添う。

 潤んだ瞳で僕を見上げたりもした。


「どんな事あっても……私、兄さんの味方だからね」


「……ありがとう、絵麻。僕もずっと絵麻の味方だよ」


 こんなにも妹が愛おしいと思うなんて。


 僕は絵麻の肩にそっと腕を回した。

 絵麻の頬が赤くなったのは気のせいだっただろうか。

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