第5話 雨宮飛鳥 視点

「……という訳で、飛鳥ちゃんは一樹君へのミーティングとメンタルチェックお願いね。後者はあんまり意味がないと思うんだけど」


 私、雨宮飛鳥は上司の神木さんとオリエンテーションを行っていた。


 私に課せられた仕事は2つ。

 まず大都さんの近くに付いて、上から課せられた作戦を伝える仕事。次にメンタルチェックを行う仕事。

 もし彼に何か不調があれば、すぐに神木さんに連絡するようにとの事。


 それにしても、こういうオリエンテーションは本部でやるはずだ。

 いくら神木さんの夜勤が終わったからといって、あまりにも緩すぎではないだろうか。


「何か質問はある?」


「いえ、ないです」


「そう。とにかくまだ私の仕事を手伝うには早いから、そういった事をしながら慣れていきなさい。くれぐれもマスコミや配信者には注意するのよ」


「了解しました」


 私はオリエンテーションの資料をカバンの中へとしまった。


 しかし……まさか≪怪獣殺し≫が実在していたとは。


 一応、亡くなった父からは聞かされていたが、私としては眉唾物でしかなかった。

 

 基本、特生対が怪獣を倒しているが、それでも倒しきれない強大な個体も存在する。

 その強大な怪獣が現れた場合、秘密裏に掃討するのが最強と言われる≪怪獣殺し≫の仕事。


 武器を使わずに怪獣を倒すなんて、アニメかなんかとしか思えない。


 でも諜報班が収めたサラマンダー戦の動画を見せられた時、父の話は本当だったと実感せざるを得なかった。


「神木さん、質問はないと言いましたが申し訳ありません。一体何故、大都一樹にあんな力があるのですか?」


 ダメ元で聞いてみた。

 ただそれがいけなかったのか、神木さんの目が鋭くなった。


「ペーペーのあなたがそれを知ってどうするの?」


「…………」


「ってのは冗談。あなたの仕事の評価が上がり次第、随時教えていく事にするから。ちゃんとこなしてね」


「え、ええ……」


 まるで猛獣に睨まれたような感触だった……。

 最初、神木さんに会った時にはヤケに穏やかだなと思っていたが、なるほど諜報班を務めるだけある。


「あとね、出来れば一樹君には普通に接してくれると嬉しいかも」


「普通に……何故です?」


「彼は特別扱いされるのが大の嫌いなのよ。だからああやって地味な伊達眼鏡をしている訳。といっても本人は気付いているのか気付いていないのかオーラが漏れる事もあるけど」


「はぁ……」


 言われてみれば大都さん、一見すれば目立たない外見だし、教室の端で本を読んでいるイメージがありそうだ。


 オーラについては分からなくもない。

 さっき睨まれた時に感じたもの……あれがそうに違いない。


「あと何か聞きたい事がある?」


 そう言われて首を振る私。


「じゃあここから私の番。冗談抜きで言うんだけど……いい?」


 そう言われて、私は「はい」と返事した。

 ――その瞬間、またもや神木さんの眼光が鋭くなった。


「あなたも知っての通り、日本は怪獣大国と言われるほど怪獣の出現頻度が高い。それでもこうして平和に暮らせているのは、ひとえに一樹君の活躍があってこそ。ハッキリ言って一樹君に離反でもされたら、日本の経済が成り立たなくなるかもしれない。

 もし彼に何かあったら……私達はクビを切られるだけでは済まされない。それだけ覚えていなさい」


「……了解……しました……」


 生まれてから初めて、『圧』というのを感じてしまった。


 まさに失敗を許さないという気迫。

 私は壊れたロボットみたいに、首をぎこちなく振るしかなかった。


 そうすると神木さんの目つきが変わって、いつもの穏やかな微笑みへと変わる。


「まぁ、ボチボチ頑張ってね。あなたの活躍には期待しているから」


「……ありがとうございます。それでは失礼します」


「ええ。私はそろそろ寝るから。ほんと夜勤の仕事は疲れるわぁ」


 あくびをしながら奥の部屋へと消える神木さん。

 居間に残された私は、ただただ外へと出るしかなかった。扉を閉めた途端にどっと疲れが出てくる。


「失敗したら……神木さんに殺されるかもな……」


 なんて冗談を口にするくらい、プレッシャーが酷かった。



 ―――――――――――――――――――――――――――――――――



 雨宮飛鳥さんはサブヒロインというより読者側の人間で、「いかに一樹が凄いか」を描写するような役割になっております。

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