第4話 怪獣殺しと新入り
「…………」
「ん? どうしたの一樹君?」
「いえ、今日も綺麗だなって思いまして」
「フフッ、急に何よ。でもありがと」
未央奈さんがギュウっと急に抱き付いてきた。
ただ僕の方が少し背が高いので、胸に飛び込んできたというのが正しい。
レディーススーツでも柔らかい感触が伝わってくるし、女性特有のいい香りもする。
……正直何回やられても慣れないんだよね。
「えっと……そろそろ中に入らないと」
「ああ、ごめんね。いつも通りゆっくりしてて」
「お邪魔します」
実は綺麗と言ったのは方便で、「この人は相変わらずだな」と思ってたりしていた。
相変わらずというのはもちろん良い意味で。
居間に入った後、勧められたソファーに座る僕。
しばらくして部屋に行っていた未央奈さんが、紙の資料を持ってきた。
「これ、サラマンダーの解剖結果。どうもあの怪獣の鱗、あらゆる火器を跳ね返す強力な反射性を持っているそうよ」
渡された資料にはサラマンダーのデータが記されていた。
まだ掃討してから1日も経っていないにも関わらず、このデータ量。
さすが特生対、いい仕事をしている。
「そんなとんでもない鱗があるんだな……」
「さらに鱗の隙間から火器のエネルギーを吸収する特性がある。その吸収したエネルギーは栄養素として取り込んだり、武器として転用したりする。それが口からの火炎放射の由来よ」
「もはや生物とは思えないですね」
「そういった生物の常識を超えているからこその怪獣よ。このサラマンダーを倒すには核を使うか、あるいは奴より強大な怪獣を使うか……いずれにしてもそれを瞬殺させたあなたの力はとんでもないわ」
「まぁ」
僕は軽く受け流した。
とんでもないとか言われてもあまり興味がわかない。
「それといつものように報酬は口座に振り込んだわ。あとで確認してね」
「ありがとうございます。それと未央奈さん、なんか話があるんじゃないですか?」
「あら、やっぱり分かった? まぁ、そろそろ来る頃とは思うんだけど」
「来る?」
僕が怪訝に思った時、ブザーが鳴り出した。
未央奈さんが「はいはい」と言って居間を出る。そうしてすぐに戻ってきたのだが、
「紹介するわ、新しく特生対諜報班に配属する事になった
「雨宮です。よろしくお願いいたします」
未央奈さんの後ろにもう一人、僕とタメだろう女の子が付いてきていた。
ポニーテールにまとめた長い髪と豹のような目尻の鋭い瞳。
人を寄せ付けない雰囲気を纏っているかのようだ。
「大都一樹です。未央奈さん、何で未成年の彼女が……」
「『表』で活動する防衛班と違って、『裏』の諜報班は適性と実力さえあれば年齢は関係ない。それに彼女は雨宮
「宗一郎……確かリストにそんな名前が」
僕は諜報班の未央奈さん以外、特生対とはあまり関わりを持たない。
ただこうやって未央奈さんに渡される資料に、殉職者リストが混じっている事もある。
その中に『雨宮総一郎』という名前があったのを見た。
確か地下に眠っていた怪獣を捜査していたら、目覚めた怪獣に踏み潰されたとか。
「雨宮さんは私の上司でもあってね……しかも彼、自分が死ぬ事を予期して娘さんに諜報班のイロハを教えたそうなのよ。まぁ、今のところ彼女はバイトって名目なんだけど」
「そうなんですか。それと彼女をここに連れてきたというのは、やっぱりそういう事ですか?」
「ええ、そういう事。飛鳥ちゃん、改めて紹介するけど、彼が特生対お抱えの≪怪獣殺し≫よ」
≪怪獣殺し≫。何故か僕は特生対からそう呼ばれている。
≪怪獣殺し≫の正体を知っているのは、未央奈さんをはじめ極少数。
その中に雨宮さんが仲間入りするという訳か。
「若い男とは聞いていましたが、まさか同年代とは思いもよりませんでした……」
雨宮さんは冷静な表情の中に、明らかな驚愕を浮かばせていた。
「だからなんですね……≪怪獣殺し≫が世間に公表されないのは」
「まぁ、そういう事になるのかな。それと確かめたい事があるけど」
「はい? ……ッ!」
返事した雨宮さんがピクリと一瞬震えた。
それはそうだ。何せ僕が睨みを利かせているのだから。
「君が僕の事をバラさないっていう証拠はある? それだけはハッキリしてほしいけど」
「…………」
「それに関しては問題ないわ。私と同じく耳に発信機をつけてあるし、情報をバラしたらすぐに分かるわ」
確かに未央奈さんと同じく、右耳にイヤリングが光っていた。
これは特生対諜報班全員がつけているもので、さらに超小型マイクも内蔵されている。
やっている事や言っている事が本部に筒抜けという事だ。
他人の力があれば外せなくもないが、その場合は2つの場合が想定される。
何かとんでもない目に遭ったのか、その人が特生対を裏切ったのか。
もし後者だったとしたら……皆までは言うまい。
「まぁ、一樹君が実は対怪獣の切り札でしたーなんて誰も信じないでしょうけどね。とにかく飛鳥ちゃんは私の上司の娘さん……無下に扱う訳にはいかないし、私が責任もって管理するわ。だから彼女の事は任せて」
そう胸張って言い切る未央奈さん。
雨宮さんはともかくとして、未央奈さんは本気で信じられる人だ。
彼女が言うのなら問題はないだろう。
「分かりました……じゃあ僕は帰るので。絵麻が家に帰っていたら大変だ」
「確かにこんな時間になっちゃったね。絵麻ちゃんにはよろしくって伝えておいて」
「ええ、お邪魔しました」
僕はソファーから立ち上がって居間を出た。
これでやっと絵麻の所に帰れる。
もちろん未央奈さんといる時間が無駄って訳じゃないけど。
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