第3話 怪獣殺しの敵と味方
五十嵐琢磨。
よく整った短髪が特徴的な、いかにもスポーツ系の陽キャだ。
実際サッカー部のエースで、女子の人気も高い。
彼は僕の机に座りながら、友達と一緒にスマホを見ていた。
「こう、戦車とか使わずに怪獣を倒す感じ? これがいいんだよなぁ。早く特生対に入りてぇよ」
「五十嵐、もしかして卒業したら特生対に入る系?」
「入る系。そんでさぁ、怪獣の額に銃向けて『悪いな、お前ら怪獣の居場所なんかねぇんだわ』って言いながらドンって撃ちたい。絶対スカッとするね」
「分かるわー! 五十嵐なら絶対になれるって!」
スマホの動画には、特生対隊員と怪獣の戦闘が映し出されていた。
戦闘中はマスコミすら寄せ付けないほどの封鎖を仕掛けるので、こういう動画があまり出回らない。
報道ヘリも僕が生まれる前に怪獣によって破壊……つまり乗っていた人達も殺されたという事もあったので、怪獣が出現した場合はヘリを出さないという暗黙の了解が出来たらしい。
つまりこれは特生対自身が出した公式の動画というやつだ。
ちなみに特生対は五十嵐君の言う通り、戦車や戦闘機を使わない。
倒せもなくもないが、怪獣の持つ耐久性によってかなり時間がかかってしまい、被害が広がってしまうからだ。
ではどうしているかというと、動画を見れば一目瞭然。
『第二班は奴の後方に回れ!!』
確かコードネームは『ミノタウロス』だったか。
牛のような角を生やした怪獣へと、特生対防衛班が向かっている。
数十人の彼らが手にしているのは、アサルトライフルやバズーカ砲といった手持ちの火器。
そのどれもがSF的な近未来デザインをしているのが共通点だ。
まずライフルを持った隊員がミノタウロスへと発射。
銃口から青白いエネルギーが放たれ、怪獣の体表を抉っていく。
続けて後ろに回った隊員達が、持っているバズーカ砲を一斉発射。
これまた青白いエネルギー弾が飛び交い、ミノタウロスの頭部を撃ち抜いた。
――ガアアアアアアア!!?
『
ミノタウロスの頭部は跡形もなくなり、地面に伏した。
このように、特生対は怪獣を短時間で倒す事が出来る。
それを実現させているのが、火器から放たれる青白いエネルギーだ。
あれが何なのかというと……、
「……ん? なんだ大都かよ。影薄すぎて気がつかなかったわ」
五十嵐君がやっと僕に気付いた。
周りもこちらを見てくるが、「ああ、こんな奴いたなぁ」と言いたげな目をしている。
「そこ、僕の席なんだ。出来れば……」
「あー、まだ時間あるからいいっしょ。ちょっと今、動画に夢中でさぁ」
カースト上位なので、こうして自分より下の人を雑に扱う。
いつも通りの姿。五十嵐君らしいというべきか。
仕方ないので、窓に腰かけて『地の底』を読もう。
自衛隊と地底怪獣の対決を題材にした特撮小説で、これがなかなかに面白いときた。
今ちょうど怪獣が初めて出現するシーンに突入している。
怪獣なんて存在しないというリアルな設定なので、自衛隊も政府もあたふたしている。
そこがまた見ていて楽しいというか。
「でさぁ、昨日サラマンダーを倒したって話聞いた時、特生対様様だなぁって感じたんだよ。ああいうのヒーローって言うんだろうなぁ」
「だろうな。五十嵐も入れば絶対にモテるっしょ」
「ハハッ! そりゃあ言い過ぎ!」
小説を読んでいる最中、そういう話が耳に入ってくる。
悪く言うと盗み聞きになってしまうか。
それにちゃんと僕ではなく、特生対が倒したという事になっているようだ。
うん、これでいいんだこれで。
あまり目立ちたくはないし。
「なぁ、大都」
「ん?」
本を読んでいる最中、五十嵐君が声をかけてきた。
「俺さぁ、高校卒業したら特生対に入ろうって思ってんだよ。で、怪獣を華麗に倒す。カッコイイだろ?」
「うん、それはいいかもね」
「そう言ってくれると思ったよ。それでさ、お前特生対に入ろうとか考えてる?」
こうして質問しているという事は、ずばり
あえて僕はその質問に乗ってみた。
「そんな予定はないよ。僕そういうの向いていないし」
「だよなー。特生対は俺みたいなスポーツマンみたいな奴が入隊しないと! お前みたいな陰キャ眼鏡みたいな奴には無理だろうさ!」
「言えてる! 絶対無理無理!」
陰キャ。
よく五十嵐君のような陽キャが、相手を見下す為に言う用語。
クラスの輪に入れず大人しく縮こまる生徒の事で、まさに僕に相応しい名称だ。
彼らはあえてさっきの質問をして、「俺はお前より上だ」と暗に伝えているのだ。
うん、いつも通り。変わっていない。
「無理だよね。きっと」
「きっとじゃない、絶対だ。お前だったら怪獣に会った瞬間、ビビッて動けねえんじゃね?」
「むしろそのまま怪獣に踏み潰されたりして」
「ウケるー」
傍から見たらいじめか何かに見えるかも。
ただ僕のような奴を助けようとする人はあまりいない。男子生徒も女子生徒もこの光景に気付いていないか、あるいは気付かない振りをしていた。
いくら同じクラスでも他人を助けようだなんて普通考えないので、ある意味では当然だろう。
「……っとそろそろ時間か。早く戻ろうぜ」
五十嵐君グループが時計を見て、早々に離れていった。
やっとこれで『地の底』に集中できるな。
今面白くなっているし。
僕は担任の先生が来るまで、小説を読み進めることにした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
放課後。
僕は教科書をカバンに入れて、すぐに帰路につこうとした。
先に絵麻が帰っていたら可哀そうだ。あるいは友達の家にいるかもしれないが。
立ち上がろうとした矢先、スマホから着信音が鳴った。
《未央奈さん:学校お疲れ様。報酬とかの話もしたいから、私の家に寄ってきて》
ラインには簡潔なメッセージが表示されている。
未央奈さんからだ。
やっぱり彼女から連絡が来たみたい。
報酬『とか』という文面からして他にもありそう。
僕は《分かりました》と軽く返事してから、絵麻にも《ごめん。未央奈さんの家に行ってくる》と伝えた。
《絵麻:大丈夫だよ。今、友達の家にいるから。なるべく早く帰ってきてね》
健気なメッセージ……早く用事済ませて帰らないとな。
未央奈さんの家は近くの駅を使わないといけない。
当然僕と絵麻のマンションからやや離れているので、そこがやや歯がゆい気分だ。
電車に乗って数分。僕は目的のマンションへとたどり着いた。
四階のある部屋のインターホンを鳴らせば、「はーい」と若い女性の声がしてくる。
――ガチャッ。
「一樹君、待ってたわ」
「すいません、遅くなりました」
「そんな気を遣わなくてもいいのに。さぁ、中に入って」
黒髪ロングがお似合いで、スタイルの良いうら若き美女。
彼女の名は
僕の……まぁ家族のような人だ。
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