第2話 怪獣殺しの日常
――ピピピピピピ……。
スマホのアラームが鳴り出したので、すぐにそれを止めた。
画面を見れば朝の7時。
昨日家に帰ったのが2時ほどなので、寝た時間はおおよそ5時間。
こりゃあまた心配されそうだな……。
急いで立ち上がろうとした時、扉からコンコンと音が鳴った。
「兄さん、起きてる? 朝だよ」
「ああうん。今行く」
ベッドから出た後、僕はすぐに扉を開けた。
そこにいたのは、初々しそうなボブカットと右目の泣きぼくろが特徴の女の子。
名前は
「兄さん、昨日の服のまま寝ちゃったの? 駄目だよ、ちゃんと寝間着にしないと」
セーラー服の上にエプロンをつけた絵麻が、僕を見た途端に眉を八の字にする。
「ああ、ごめん。仕事が終わった後にすぐ寝ちゃったから」
「もう、かなり遅くまで起きてたんだから気を付けないと。朝ごはん出来たから一緒に食べよ」
「うん」
ふくれっ面しながらも一緒に食べようって言ってくれる辺り、本当によく出来た妹だよ。
「どうしたの、笑っちゃって」
「いやごめん。何でもない」
「フフッ、変な兄さん」
どうも顔に出ちゃったみたいだ。
変顔だったらちょっと嫌だな……。
反省しながらも僕は部屋を出る。
迎えてくれたのは、僕達にはやや広い居間と大きいテーブル。そこには絵麻が作ってくれた朝食が並べられていた。
ここは東京のとあるマンションの一室。僕と妹の絵麻
今日の朝食はアジの開きとお米、わかめの味噌汁。朝にはもってこいだ。
「いただきます」
僕はアジの開きを食べた。
塩加減がほどよくて、身も口の中でほぐれる。
うん、やっぱり妹の料理は美味い。
「今日もいけるな」
「本当?」
「ああ。これからも毎日食べたいくらいだよ」
「もう……兄さん……」
絵麻の耳が真っ赤だ。少しからかいすぎたかな。
わかめの味噌汁も啜ろうとした時、つけっぱなしにしていたテレビから声がしてくる。
ちょうどニュースが報じられているようだ。
『練馬区を中心に破壊活動を行った後、本日午前1時をもって掃討された「サラマンダー」ですが、今もなお怪獣解体業者と特生対科学班の協力のもと解体が続いております。現場には怪獣を一目見ようと、多くの市民が集まっており……』
画面には、ビル街とスマホで撮影する野次馬の姿が映っていた。
彼らの中心には、首を落とされたサラマンダーの死骸が倒れ込んでいる。
野次馬が怪獣に近付かないよう、火器を持った人達が常に囲んでいた。
怪獣。
古来から世界中で出現している、あらゆる生態系に属さない巨大特異生物。
『地震 雷 火事 怪獣』という言葉がある通り、僕達にとっては見慣れた存在であると同時に『生きた災害』とも呼べる存在だ。
そうした怪獣を倒すのが、自衛隊から派生した防衛組織『特生対』の仕事。
名称は『
『いやぁ。今回も特生対のご活躍で、被害が最小限に済みましたねぇ』
『全くです。日本は怪獣災害の多い「怪獣大国」ですが、こうして我々が生活できているのも特生対のおかげです』
キャスター達が和気あいあいとコメントしていた。
確かに日本は世界と比べて、怪獣の出現頻度が多い。
1ヶ月に2~3体は出ているか。
あとは国土が狭いせいで、必然的に人口密集地に現れやすいという事もある。
アメリカとかなら人のいない土地に怪獣が現れた場合、街に向かう心配がなければ放置されるという話もある。
「特生対のおかげ……か……」
絵麻が小さく独り言ちていた。
見てみれば実に不満そうな表情だ。一体どこら辺でそう思ったのかな。
「大丈夫、絵麻?」
「あっ、ごめん。何でもないよ」
「そう。でもあんまり思い詰めないで」
皿を流し台に持っていく際、絵麻の頭をポンと叩いた。
「もう……兄さん……」
なだめようとしたつもりだったけど、少し臭かったかな……。
僕は「ごめんごめん」と言いつつも食器を洗っていった。
「(びっくりしたよ……兄さん大胆なんだから……)」
ただ絵麻が小さく呟いた気がした。
多分気のせいかも。
朝食の後、僕は汗を流すべくシャワーを浴びた。
それから自室に戻って制服に着替え、伊達眼鏡をかける。
伊達なので視力が悪い訳じゃない。
あえて言うなら……ファッションのようなものだ。
「じゃあ先に出るから。絵麻も気を付けて行くんだよ」
「あっ、待って兄さん。これ」
玄関先に行くと、絵麻が布で包んだ弁当箱を持ってきてくれた。
忘れるところだった。我ながら不注意だ。
「ありがとう。……あっ、もしかしたら未央奈さんから家に来てって連絡くるかもしれないから、帰り遅くなるかも」
「うん、分かった。気を付けてね」
軽く微笑む絵麻。
これだよこれ。妹の笑顔で1日が始まるというものだ。
「じゃあ行ってきます」
扉を開けると、頭上から暖かい日光が照らしてくれる。
もう5月になったから、気温も寒くも暑くもないちょうどいい感じ。
そこから自分が属する高校へと向かっていった。15分ほどで行ける距離なので、主に移動手段は徒歩だ。
一応、気分次第では自転車も使う事もあるかな。
道を歩くたびに、生徒の数が徐々に増える。
さらに前方に母校の『
昇降口からクラスの1年C組に着くと、大勢の生徒達が談笑している。
なお僕を見る者はいない。
僕はあたかも透明人間のように生徒達の中を通ったところ、
「なぁ、見ろよこれ! やっぱり特生対隊員カッコイイよなぁ!」
窓際の自分の机が、数人の男子生徒に占拠されていた。
席に座っているのはカースト上位の陽キャ、
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