第33話 それでも行くか?

 「おばあさん」

 顔を上げてテューレ婆さんに言う。

 「わたし、その魔女に会いに行って来ます」

 「やめておくことだ」

 テューレ婆さんの答えはすばやく、そっけなかった。

 「大釜おおがまの御殿に行って帰って来た鍵の乙女はこれまでに一人もおらぬ」

 「はあ……」

 ふと考えつく。

 「じゃあ、鍵の乙女じゃなくて、ここの住人だったら、魔女に会っても平気なんですか?」

 「何を言う!」

 テューレ婆さんは吐き捨てるように言った。

 「魔女がわたしたちに会ってくれるものかね。御殿に入れてくれさえせん。御殿に何か伝えるときは、御殿の外で同じことを三回言えば伝わる、というけれど、それさえ届いているかどうか」

 「では、鍵の乙女ならば入れてくれる?」

 「入れてくれるのか、乙女のほうが勝手に入るのかどうかは知らぬがな。ともかく入れるのは確かだ」

 「じゃあ、やっぱりわたしが行きます」

 アンはもう一度言った。

 「だって、ほかの人が入れないところにわたしは入れて、ほかの人が会えない魔女にわたしは会えるかも知れないんだから」

 「会ってどうする?」

 「あの青い光を何とかしてくれるように頼みます」

 「きいてくれるもんか!」

 「わからないですよ」

 アンは理屈っぽくねばった。

 「だって、魔女にもし声が届いていないのなら、みんながあの青い光で困っている、ってことも伝わってないかも知れません。わたしはそれを伝えられるかも知れない。だから」

 テューレ婆さんは、下からアンをじっとにらみつけた。

 アンもそのテューレ婆さんを見る。

 しばらくたがいに目をらさない。

 フローラがきょろきょろとその両方を見ているのがわかった。

 テューレ婆さんが先に唇を閉じたまま息をついた。

 「もういちど言う。帰って来られなくなるぞ」

 もう、いま、アンは帰れなくなっているのだ。

 あのウィンターローズ荘に。

 だったら、フローラの家から帰れなくても、その御殿というところから帰れなくても、何も違いはない。

 だから

「はい」

と答える。

 「御殿に入った鍵の乙女がいるという話はきいた。だが、それが帰ってきたという話はきいたことがない」

 「はい」

 「それでも行くか?」

 「はい」

 アンは、言って、軽く目を閉じた。

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