第19話 街の子、海辺の子、鍵の乙女
「街の子かぁ」
後ろのほうの男の子が言う。アンがことばを挟んだ。
「ここって街じゃないの?」
「ああ」
前に立ってる男の子が言う。
「このへんは海辺でさ。ぼくらも街にはたまに行くけど」
「でも会ったことないよね」
大きいほうの女の子がフローラに言う。フローラは、うん、と頷いた。
ここは街ではなくて海辺だと、と言ったって、そんなに離れているだろうか?
さっきからどれくらい歩いただろう?
時計は持っていない。「年」はもちろん「日」も気にしないここの人たちのあいだで「時間」がどれぐらい意味があるのかよくわからない。ともかく三十分も歩いていない。距離で言うとフローラの家から一マイルも来ていないだろう。半マイルもなかったかも知れない。
でも、考えてみれば、お屋敷のいちばん外の門からベリーズベリーの駅まで一マイルくらいだ。それで、駅の近くの女の子にどれだけアンの知り合いがいるかということを考えると。
まあ、そんなものかな、とも思う。
「で、なんでそんなところの子がこんなところまで来たの?」
「その前にさ」
後ろのほうの男の子がアンを見上げて言う。
「お姉ちゃん、なんでそんな服着てるのさ? 町のほうじゃみんなそんな服着てるのか?」
「あ、いや」
アンがどう答えていいか迷う。フローラがすかさず
「姉ちゃんは鍵の乙女なんだ。さっきさ、街の四つ辻のところに出てきてさ」
「出てきて」って、幽霊じゃないんだから、と思う。でも、ここの人たちにしたら、似たようなものかも知れない。
まだちゃんと鍵を握っているかを確かめたら、ちゃんと握っていたので、それを子どもたちに見せる。
子どもたちは、アンが背をかがめて顔の前にかざす鍵を見て、互いに顔を見合わせて、また鍵を見て、を繰り返す。
「鍵の乙女なんて、はじめてだよなぁ」
「そうそう。めったに会えないんじゃないの?」
などと言う。「めったに会えない」とは言うけれど、それほど珍しがってもくれない。
そのほうが気が楽だ。
それより、アンが安心したのは、ここにはフローラの家の昔の「悪い行い」のことが伝わっていないかも知れないということだった。
でもまだわからない。子どもは知らなくても、大人はきっちり覚えているかも知れない。
「で、その鍵の乙女のお姉ちゃんが、海辺に何しに来たの?」
大きいほうの女の子がきく。
「いや、あの」
きいても知らないだろうな、とは思ったが、きくだけきいてみる。
「このあたりで麦を粉にしてるところを探してるんだけど」
「ああ、それなら」
男の子二人が顔を見合わせる。
「案内してやるよ。ついて来なよ」
なんだか「街」と勝手が違う。アンは、うん、と
「ありがとう」
と言った。
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