第11話 フローラの不景気な顔

 「おねえちゃん?」

 フローラが驚いたような顔でアンを見上げていた。

 「少しぐらいなら変えられるかも知れない」

 アンはフローラを見返す。

 「ただ、それをやろうとすると、フローラもつらい思いをするかも知れない。それでもいい?」

 フローラは眉をひそめた。

 「いやだよ、そんなの」

 アンはすかさず言った。

 「でも、変えてほしいんでしょ?」

 そうすると、黙って、うんと頷く。アンはひと息おいて言った。

 「まさか、自分は何もしないで、わたしが何か変えてくれるのを待ってるとか、そんなこと言わないよね?」

 フローラは困ったように黙る。

 お姉ちゃんなら……。

 ……こういうとき、どうするだろう?

 「だって、あなたがついてきてくれないと、いま何がどうなってるかわからないじゃない?」

 理屈っぽいのは苦手だけど、ここは理屈を突き詰めるしかないとアンは思う。

 アンはお姉ちゃんより理屈っぽさに弱い。でも、フローラは自分よりもっと理屈っぽさに弱いんじゃないか、とアンは思った。

 「いま何がどうなってるかわからなければ、その何を変えればいいかもかわらないじゃない? わたしが何かを勝手に変えたりしたら、それでもっとひどいことになるかも知れないよ」

 「たとえば?」

 たとえば、か。アンは考える。

 「そうね、たとえば、この家に住めなくなっちゃうとか」

 「えーっ?」

 フローラは驚く。

 「そんなのひどいよ。わたしたち、ずーっと昔からここに住んでるんだよ? それがどうして住めなくなるのさ!」

 ほんと、どうして住めなくなるのだろう、とアンは思う。

 明日になったら、アン自身が住んでいる家を追い出されるのだ。「ずーっと昔から」住んできた家なのに。

 もっとも、アンがここに来ていて、アンにウィンターローズ荘の「明日」というのが来るのかどうか、よくわからないけれど。

 ただ、「鍵の乙女」としてここに来て、ここで何かしないとあそこには帰れないんだろうな、ということは感じ始めていた。

 で、どう答えればいいだろう?

 「いや、変わるってそういうことだから。よく変わるかも知れないけれど、悪く変わるかも知れないってことだから」

 つまり、アンがここからウィンターローズ荘に帰れない、というように変わることもあるかも知れない。

 「いやだよ、悪く変わるなんて」

 「だったら、よく変えてほしいんでしょ?」

 「うん」

 「じゃあ、何がフローラにとってひどいことで、何がフローラにとっていいことか、わたしのそばについてて言ってくれないことには、何を変えたらよく変えたことになるのか、わからないじゃない?」

 これで言い返されたらどうしよう。

 言い返しかたはある。

 「そんなこと、ねえちゃんが考えてくれよ」

と言い返せる。

 そう言われたらどうしよう?

 「あんた何考えてんのよばかにすんじゃないわよ!」

とメアリーお姉ちゃんのように早口で言い返せば、少しはすっきりするだろうか?

 でも。

 「わかったよ」

 不満そうに、フローラは言った。

 「じゃあ、行こう」

 フローラはアンの顔を見上げた。

 ほんと、不景気な顔だな、と思って、アンはフローラを見返す。

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