高校生活はそんなに憧れるものではない

野見乃美濃

0-1 幼馴染にはご注意を

 都心タワーマンションの最上階。ここが俺の家だ。窓から見える夜景と共に高級ワインを飲む。実に素晴らしい。


 え? 羨ましいだって? そうだろう、そうだろう。羨ましいだろう。まあ、チミたちも可能性は低いけど、頑張れば俺に追いつけるかもしれないから頑張りたまえ。


 さてと、くだらない話はこのぐらいにしておこう。俺は今から、寝室で待っている美しき彼女と楽しい楽しい夜の遊戯をしなければならない。モテる男って言うのも辛いものだ。


「お待たせ、マイエンジェル」


 部屋に入るとモデルのような抜群のスタイルを持つ彼女がバスローブ姿でベッドに腰掛けている。


「遅かったじゃない。どれだけ私の事を待たせるの? 風邪をひいたらあなたのせいよ」


「ごめんよ。でも安心して、今から君を温めてあげるから」


「もう。エッチな人ね」


 暴れそうな自分を理性で押さえこむ。あまり急ぎすぎるとせっかちな男だと思われてしまうからね。


「じゃあ早速、始めようか」


「今夜は楽しみましょ」


 そう言って俺が彼女の胸に手を当たると、彼女はそれに応じるように柔らかい唇を俺の唇に重ね……。


「起きろー。はよ起きろー。朝ごはんの時間だぞー」


 誰かの声と共に眩しい光が俺の目を突き刺す。はっきりとしない意識の中、薄く目を開けると目の前に大きなおっぱいが現れた。

 俺は躊躇なく、それに手を当て、2、3回フミフミする。


「あぁ。マイエンジェル。まだ始まったばかりだぞ。本番はこれか……。グハァっ」


 俺の腹に硬い何が突き刺さる。


「死ね変態!」


 激痛で完全に目が覚めた俺の中に、嫌な予感が走った。聞き慣れた声、何よりこの容赦のない鉄拳はあいつしかいない。

 恐る恐る顔を挙げると顔を真っ赤にし、両手で胸を隠す幼馴染で普通科1年の赤宮香苗あかみやかなえがいた。


「あ、おはようございますぅ」


 恐怖のあまり俺の口からはか細い声が漏れる。


 ちなみに、俺と香苗は現在同棲中。と言っても、2人で暮らしている訳ではない。高校近くの学生寮に、俺と香苗とあと2人、そして管理の先生を加えた計5人で暮らしている。


 学生寮と言っても、そこまで広くなく、設備は古いし見た目も廃墟。近くに学生向けのマンションがあるので、親元から離れて暮らす人たちは基本そっちに流れる。なので、ここで暮らしている生徒は俺たち4人だけだ。


「貴様、遺言はそれでいいか?」


「いえ、もう少し生きたいです」


「お前、生きる権利があると?」


「いえ、何もないです」


 そもそも、俺と香苗が同棲している理由は、お互い学校から実家まで遠いのもあるが、親達が『あんた達、一緒に寮で暮らしなさい。その方が家賃も安いし、何かあったときは助け合えるし』と。ほぼ強制的に香苗と暮らすことが決定した。


「お前、私だから殴って許してやるけど、他の人なら普通に捕まるからな」


「はい、分かっております」


「まあいいわ。今回は殴ってスッキリしたから許してあげる。今から朝ごはんだからさっさと着替えて降りてきなさいよ」


 そう言うと香苗は部屋から出て行った。


 香苗は美少女である。女優として活動できるほどに整った顔と、丁寧に手入れされてることがわかる美しい黒色のロングヘアは男たちを魅了する。身長も高く、スポーツも勉強も一流と言える彼女は、女子からも絶大な人気を集めている。

 そして何より素晴らしいのは、おっぱいの大きさだ。めちゃくちゃ大きい。はち切れんばかりに大きい。高校生って、こんなに成長するっけ? と思うぐらいである。

 あの感触を朝から体験できたのは不幸中の幸いだ。


 そんな事を考えながら着替えていると、体が正直に反応する。男と言うのは本当に単純な生き物だ。


「まずいまずい、さっきのこと思い出したら体が反応したなんて、香苗が知ったら次は本気で殺される」


 ん? なぜか後ろからオーラを感じる。

 振り向くと、そこには鬼のような顔をした香苗の姿があった。


……あ、ま、まずい。


「伝言があって戻ってきたら、全く反省していないようじゃない?」


「まて、これは誤解だ。男の身体に起こる生理現象なんだよ。だからごめん。マジで許してくださ……グハァっ」


 本日二度目の鉄拳が腹に突き刺さり、俺はその場に倒れ込む。


「リビングの時計壊れてるから気をつけてね」


「ふ、ふぁい」


 腹を抱え込んで倒れ込むパンイチの俺を、ゴミを見る目で睨んだ香苗は、リビングへと降りて行った。














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高校生活はそんなに憧れるものではない 野見乃美濃 @Wakayama0739

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