第9話 灰色の空(2)

 『第1中隊各機、撃てっ』


 轟く鋭い射撃音。

 編隊を組む爆撃機のうち何機かが、機首をもたげて高度を落としていく。

 

 『各個にて射撃せよ。目の前にいる敵だけに集中しろ』


 対爆戦闘は的が大きいとはいえ訓練が足りておらず機動戦闘はできていなかった。

 それゆえに一か所に留まって撃つことを余儀なくされ追いすがって撃つこともできず撃墜数は多くない。

 撃ち漏らした敵爆撃機がかなり多く、第1中隊の仕事は増えるばかりだ。

 だが30㎜弾を放つ対戦車ライフルは、爆撃機に対しても有効だ。

 エンジンに当たればエンジンカウリングを貫きその動きを止めさせコックピットに当たればパイロットは高確率で絶命する。

 翼部も当たり所が悪ければ、骨子を折られて翼がげる。

 どこに当たってもそれなりの損傷を与えるのがこの30mm弾だ。


 「敵の機銃弾は7・92㎜だ。当たっても関節ジョイント部分でなければ、効果はない。怯むな」


 爆撃機よりも高高度に位置する俺らに対し、爆撃機の機銃が撃ちあげてくるがこのヴァンダーファルケの装甲は7.92㎜で貫通できるほど薄くはない。

 パイロットにとって致命打になりうるのは関節部分と頭部に被弾することくらいだ。

 関節部分は動きをよくするために非装甲となっていて命中すれば体を打ち抜かれてしまう。

 だがそんなピンポイントに敵が命中させることはまず難しい。

 仮に命中してしまったパイロットがいたとしたらそれは不運としか言わざるを得ない。


 『敵の第一梯団のうち16機を撃墜いたしましたわ』


 第1中隊の撃墜数は、他中隊に比べると多い。


 『アナリーゼ中尉、この短期間でよく機動戦闘ができるようになったな』

 『少佐のご指導と、シュタウヘン少将のおかげですわ』


 撃墜数が多いのは、エルンハルトと中尉で引き撃ちを行い、敵が自分の下を通過するまでの時間を長くしているためであった。


 『第2梯団、来ます!!』

 『各員、可能であれば損傷機を優先して叩け』


 第2梯団の敵機には、黒煙を上げている機体がちらほら見受けられた。

 照準を合わせて引鉄を引く。

 芸もなく真っすぐに突っ込むだけの敵に対してはその作業だけで十分だった。

 第2中隊の攻撃によって既に数を半減していた第2梯団は、第1中隊の攻撃によってことごとく撃墜した。

 エルンハルトの眼下には、いくつかの落下傘が漂っている。

 

 『第3梯団、接近!!』


 第3梯団は、第2中隊の攻撃も受けておりその数は5機ほどだった。

 そして第4梯団に至っては、第1中隊のもとまで来なかった。


 『目視できる全敵機の撃滅を確認しました』


 アナリーゼの明るい声が、ヘッドセットに響いた。

 

 『了解。各員、戦闘は終わったが気を緩めるな。帰投する』

 『了解』


 戦闘団としての初勝利に気を良くしたのかパイロットたちが各々めいめいに歌を歌い出した。

 それは、決して上手なものではなかったが気分を高揚させた。


 『少佐殿!! うちの部隊にも軍歌を書いてもらいましょうよ!!』


 そんなことを言うパイロットもいる。


 『悪くないが、今後の活躍次第だろうな』


 戦場とはいえ、これくらい賑やかなひと時があってもいい気がした。

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