願い2
「あ・・・・どうも、初めまして。イザヤと一緒に住んでおりますリアン・グレイラです。その、先ほどはありがとうございます。お見苦しい部屋を見せてしまい」
リアンは僕の隣に座って丁寧にあいさつをしているが、頬が少し紅潮しているあたり本当に恥ずかしかったのだろう。
人見知りするという風には見えないし。何百年も人間と関わってきているのだから、ある程度の処世術は身についているだろうし、今更知らない人に挨拶するくらいどうと言うことはないのに。
「えっと、あ、はい。あ、私も初めまして。桐谷潤華と言います」
潤華は逆に堅苦しい。僕と初対面だった時はもっとフランクだったというのに。
やはり人間の影から出てきた女性という印象が強すぎて、驚きを隠せないのだろうか。無理もない話だな。
「驚くのも無理はないけれど潤華が見たとおりだ。そして彼女が君に合わせたいと言った人で、僕が自分自身を魔族という所以だ」
そして僕は潤華にリアンとの馴れ初めから、今に至るまでの話をした。
自暴自棄になった僕が彼女に出会って、死のうとしたけれどできなかったこと。
彼女があの伝説の吸血鬼で、僕はその眷属になったこと。
現在の日本の魔族の状況と、このまま放っておけば確実に日本から人間がいなくなるということ。
そしてリアンは同胞の敵討ちをするために眷属を探し求め、魔族という存在を消すために僕を星鳳学園に入れようとしたこと。
吸血鬼がどういう存在で、どのように生まれ、そして絶滅しそうに至ったのかを。
一度にありとあらゆる多くの情報を潤華に流した。そして案の定、彼女の思考は混濁した。
「ちょ、ちょっと待って。一気に話しすぎ。一回整理する時間を頂戴・・・・えーっと、まずリアンさんは紛れもない魔族で、しかも吸血鬼。それでその眷属にイザヤが選ばれて、イザヤも彼女の復讐を手伝うことにしたと。それにこのまま放っておけば日本人は全員食べられると・・・・・・正直、にわかには信じがたいよね」
「そう思うかもしれないけれど全部真実だ。今日の試験で見たあいつ。あいつが僕らの最終目標であり、討伐すべき相手だ。あいつが倒れれば魔族全種が崩壊する」
「でも、それは結果論だよね。結果論として本当に魔族の始祖っていう存在がいた。それが今日確認できたから、彼女の話が真実になったっていう順序でしょ。
何も知らなかったときのイザヤに、彼女が嘘をつくことだってできたはずだし、ほいほいと彼女の言葉を信じるのはどうかと思うけれど。
それにまだ嘘か真実か、確定したわけではないでしょ。魔族の始祖がいたという真実はあったけれど、繁殖期とかいうものや、ほかの話だってまだ真実だと確定したわけじゃない。イザヤはどうして彼女の話を、いや彼女のことを信じようと思ったの?」
僕が彼女を信じようと思った理由か・・・・改めて考えてみてもなんだろうと悩んでしまう。
けれど彼女の顔を見て、リアンが僕に対して笑いかけてくれてすぐにその理由が分かった。
「多分リアンの話が本当だったかどうかなんて、その時の僕にはどうでもよかったんだよ。ただ僕は、彼女のことを救いたかったんだ。
苦しまなくてよかったはずの少女が、今こうやって苦しんでいる。その状況をどうにかしてあげたかったんだな。端的に言えば彼女の話に、彼女という存在に惹かれたからだ。
潤華から言わせれば、結果的にうまくいっていると言いたいのかもしれないけれど、あの時の僕的には、希望的目標ができるだけでよかったのかもしれない。もちろんそれを後悔はしていないし、リアンが今も嘘をついているならそれでもいい。僕はその嘘に付き合ってあげるだけだから。そう、決めたから」
僕がリアンの頭に手をポンと乗せると、彼女ははにかんだように笑い、僕の手を両手で包み込んだ。
ひとしきり僕の手を楽しんだ後、リアンは真剣な表情になおり、
「桐谷さん。今日ここにあなたを呼んだ理由はイザヤのことを知るには私という存在が必要不可欠だから。そういう理由ですが、もう一つあるんです」
潤華はリアンの言うもう一つの理由を怪しんでいた。
潤華の中では、彼女はまだ怪しさの残るただの魔族だ。いつ裏切るかもわからない彼女のことを怪しむのも無理はない。
けれどリアンがとった行動に、驚きを隠せないようだった。
リアンは彼女に対して深々と頭を下げた。土下座、とまではいかなくても、座ったまま机に手を置いて頭をかなり低い位置まで下げた。
「え、ちょ、ちょっと。なんであなたが頭を下げるんですか」
「大事なお願いをするからです。私のやりたいことを成し遂げるため、同胞の無念を晴らすために、あなたにどうしても私のことを信じてほしい。あなたの助力が必要になるから。こんなことで怪しさが消えるとは思わないけれど、それでも私ができることは、誠心誠意お願いすることしかできないんです。これからお願いすることは、あなたの身を危険に晒すことにもなるから」
これから潤華のことを僕たちは巻き込もうとしている。それすなわち、魔族との全面戦争に彼女を巻き込むということだ。
だから巻き込む側は、巻き込まれる側から少なからず信用されなければいけない。信じて任せてくれなくては、僕たちの目標は達成できない。
信用できない相手に命を預けることなんて到底無理なことだ。
そしてリアンが必死にその信用を、信頼を彼女から勝ち取ろうと頭を下げているのだ。
もともとは僕のミスが招いた事態に対して、この人が真っ先に頭を下げたのだ。
それならば僕も頭を下げるべきだろう。リアンの眷属として、主人に続くべきだ。
僕はソファから立ち上がり、潤華の側まで歩き、そのまま頭を床にこすりつけるように頭を下げた。
「潤華。僕からもお願いだ。俺たちにはお前の助力が必要なんだ。だから、頼む」
「はぁ・・・・まずは、そのお願いというものを聞いてからじゃないと話が進みません。正直、潤華さんのことも完全に信用できたわけじゃないですけれど、誠実さは伝わったので。
大体そこまでしてくれなくても、私はイザヤに命を救われた恩があるので、多少無茶なお願いなら聞きますよ」
頭を上げたリアンはぱぁっと顔を明るくさせて、「ありがとう」と潤華に何度も礼を言って、彼女の手を握り、ぶんぶんと上下に振っていた。
潤華もその天真爛漫な笑顔を見て彼女に対して少し気を許せたのか、笑顔がこぼれていた。
「こほん、そのお願いというのはですね、潤華さんにイザヤを庇う役割をしてほしいのです」
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