正体を知る2-1
目を開けてぼやける視界に映ったのは、白い天井、白い布団。
寝起きの僕でもさっきとは全然違う場所にいることくらいわかった。安心感漂う、心地よいベッドの上であることがすぐにわかった。
「あ、起きた・・・・先生、イザヤが起きました」
「あら、そう。ならよかったわ。じゃあ私は少しこの場を離れるから、三人でその子のこと見てあげてね」
目を擦ってぼやけた視界を晴らしていけば、白衣を着た大人を見送る三人の光景が見えてきた。
「イザヤ、わかるか。お前急に倒れたんだぞ。覚えてるか?」
そんなような記憶も、無きにしも非ずといった感覚だ。急に意識が途切れたことくらいの記憶はある。
「先生が言うには極度の緊張と、恐怖から急激に解放されたことによる疲労だろうって。それでも、あの男に何かされたんじゃないかって心配だったんだから」
「そうだったのか。心配かけて悪かったな。もう大丈夫だ」
僕の大丈夫という言葉に三人は安堵したようで、ほっと胸をなでおろした。
「イザヤが大丈夫そうなら俺たちはもう帰るぞ。一応通達として、例外なことが起きたせいで即時試験が中止されて、それまでのスコアで試験結果が通達されるそうだ。結果は三日後、各自の携帯に連絡が入るそうだ。伝言するよう言われたからな、ちゃんと伝えたぞ。それじゃあ俺たちはここらで」
「それじゃあ二人とも、今度は編入式で」
二人は自分のカバンを肩にかけて、二人並んで部屋を出ていった。
「まったく・・・・まだ合格してないっての・・・・ん? 潤華は帰らないのか?」
潤華だけがその場に残り、椅子に腰かけているが、何か言いたげだった。
「その・・・・改めてちゃんとお礼を言いたかったから。助けてくれてありがとう」
声色や表情は無に感じるけれど、今のお礼は心の底からの謝辞だったように感じられて、助けてよかったと再度思えた。
「いや、いいんだ。潤華こそなんともなかったか?」
「うん。私は大丈夫。その・・・・恥ずかしい思いもしたけどそれくらいだから」
潤華がスカートの裾をぎゅっと掴んだことで察した。
(あの時のせいで下着は使い物にならないよな。え、そしたら潤華は今、下着をつけて・・・・)
変な雑念が頭をよぎった。その雑念を払うために自分自身で頬を思いきり殴った。
歯と頬に激痛が走り、雑念を強制的に脳の外に追いやる。
「え、な、なに。急にどうしたの」
「気にしないでくれ。それより、礼を言うだけなら本当に大丈夫だぞ?」
「もちろんそれもあるけど、試験の最中に言ったよね。試験が終わったら聞きたいことがあるって。忘れた?」
そういえば、そんなことを言っていたような気がした。
正直ガイアが急に姿を現したことは、それまでのことなんて忘れるくらいに、強烈な出来事だった。
「その顔だと忘れてたみたいだね。まぁいいけど・・それくらい強烈な出来事が起きたってことは私も自覚してるから。まぁ、私の言葉はあの男のことより鮮明に残らないことだってわかるよ。私が逆の立場でもそうなる自信はあるから」
「いや、決して潤華の言葉が鮮明じゃなかった、って言いたいわけじゃないんだよ。潤華が僕と話がしたいって言ってくれたことは、すごく嬉しかったから」
「そう、別にそこまで気にしてないからいいよ。それより場所が悪いから変えよう。イザヤも着替えたいだろうし。更衣室で話さない? あそこならほかの人に聞かれる心配がないから」
「あ、あぁそうだな。それじゃあ移動しようか」
潤華が僕に話したいことの内容なんて、半魔のことについてくらいだろう。
それはこんな公の場所で話すことではないし、どこで、誰に聞かれているかもわからない以上簡単に話すこともできない。
その点、僕らは試験上だけでもペアだったから同じ更衣室に入ることは怪しまれないし、あそこは秘密話をするにはもってこいの環境だった。潤華の判断にも納得がいった。
だから僕はかけられていた布団をはぐり、ベットから降りて靴を履き、そのまま部屋を出た。
潤華も僕の後に続くように部屋を出たところで、不意に後ろから声がかけられた。
「ここ、一応医療室兼保健室だから、入出記録は書かなくてはいけないよ」
急に後ろから声がかけられたことに僕らは驚き、パッと後ろを振り向くと、そこにいたのはこの学園の制服と思われる服を身にまとった男子生徒が立っていた。
暗めの茶髪で、男子から見てみれば長髪と言って遜色ない長さをした髪は、片目を隠して、後ろ髪をゴムで縛っている。
僕より少し高めの身長をしているけれど、体重は僕より低いだろう。一目でわかるくらいの細身をしている。
端正な顔立ちをしたその人は、真っ黒な目が隠れているせいなのか、何だか不思議な雰囲気を感じさせる人だった。
「ほら、ここ。どんな生徒が出入りしたかを記入しておかないと、いつ出ていったのかわからないからね。この学園は、一応命の危険が伴う場所だから、勝手にいなくなったりすると捜索隊を出さなくてはいけない事態に陥るんだ。そういう面倒ごとに巻き込まれたくないだろ」
「はぁ・・・・ありがとうございます」
僕はその記録を見れば入室したときの記録は書かれていた。男の人のような文字だったからきっと翼が書いてくれたのだろう。
試験の伝達事項はしてくれたのに、入出の仕方を教えてくれなかった。
不親切だなぁと思いながら、記録表に自分の名前を書いた。
「親切にありがとうございます。僕たち今日編入試験を受けに来ていて、ここの学園のことをよく知らなかったもので」
「あぁ知っているよ。新堰イザヤ君に、桐谷潤華さん。今日の試験、お疲れだったね。僕も君たちの活躍を見ていたよ。いや災難だったね」
名前を呼ぶときにしっかりとそれぞれ指をさされたから、本当に僕らのことを知っているようだったし、試験のことも知っていた。あんな大ごとになったから知っているのかもしれないけれど、こんなに早く情報が出回るとも思えない。
(ん? そういえばこんな人は試験会場にいたっけ。試験官を手伝っている生徒は何名かいたけれど、この人は見かけなかったような・・・・)
潤華のほうを見て、知っているか? と表情で訴えかけたけれど彼女も首を横に振った。知らない、見ていないということだろう。
けれど、僕らの名前を知っているということは試験の関係者であることは間違いないと思う。
「失礼。自己紹介が遅れたね。僕は
刀堂先輩は僕たちに両手を差し出してきた。なんとも不敵な笑みで、不思議な人という印象から不気味な人という印象が強くなりそうだ。
僕がその手を恐る恐る握り返すと、相手も握り返してきて軽く手を上下に振ってきた。
潤華も逆の手を握ると、同じように手を上下に振った。
ちなみに潤華も僕と二人きりだった時と違って、満面の笑みだ。違いがありすぎる。
不気味な人に、人によって接し方が大きく変わる人・・・・怖い。
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