災厄との邂逅4

 試験会場に戻れば、僕の持っている刀に周りがざわめいていた。試験生徒も、試験官も近くを通り過ぎている在校生も。

 理由は単純明快だろう。僕の持っている刀が禁忌の魔具だからだ。けれどそのざわめきに時間を取られるわけにはいかない。今は試験に集中しなければ。

 電光掲示板を確認すれば、一応数に変わりがあった。

 魔族の総数こそ変わりはなかったが、避難民ロボットの避難完了している数がいまだなお増え続けている。

 現在、避難完了数が全体の半分くらい完了しているところだった。

「魔族が狩られていないのは好機だ。現状魔族を倒せるのは僕たちだけ。これだけ独り占めできれば合格に大きく近づけるな」

「そうだな。それじゃあここからはそれぞれのペアとだ。お互い頑張ろうぜ」

 そう言って翼と真耶のペアは走り去っていった。

「それじゃあ私たちも行こうか。真耶たちに総取りされたらたまったもんじゃないしね」

「あぁ。そうだな」

 今の潤華は屋上での態度とは全く違う。恐らく外向けの顔ということだろう。

 潤華の態度の急変。

 明るかったと思ったら急に暗くなる。さっきの潤華の反応が急に変わったのもあまりにも不自然だった。魔族狩りになりたいと志願するものは、僕も含め皆何か含むところを持っているのだろうか。

 けれどそれを考えるのは後回しにした。それを知りたいならば、まずは合格しなければ話にならない。なればこそ今はその余計の思考をどこかにやるべきだ。

 そう思って僕は頬を一度たたいて気合を入れなおし、試験会場エリアαの門をくぐった。

 外からも見えていたが中はまるで本物の市街地のようだ。ここに誰かが暮らしていると言われても疑問が浮かばないほどに。

 そして至る所に血だまりがあった。恐らく入ってすぐに魔族に襲われた試験生徒のものだろう。と、同時に魔族の死体が数個転がっている。

 見れば翼のペアが今なお狩りをしている最中だ。

 真耶の体躯では普通は振り回せないであろう大鎌をいとも簡単に振り回し、魔族とのリーチ差を生かして戦い、翼も魔族との距離をとりながら、弓で魔族の頭を確実に射貫いている。

 背後からの襲撃をいとも簡単に跳躍して回避して、そのまま頭上から狙撃。一撃で魔族の命を刈り取っていた。

「遅いぞイザヤ。ここらの魔族は俺たちが狩り尽くした。俺たちはこのまま直進させてもらうぜ。後を追ってきても魔族は一匹たりとも残らないから、ほかの道に進むことをお勧めするよ」

「そういうことだからじゃあね。もたもたしてると私たちが全部狩り尽くしちゃうんから」

 言われなくたってそうするつもりだ。

 今の戦闘を見るに、ここにいる魔族では翼達にかないっこない。彼らが通った道には魔族が残らない、というのはきっとはったりでも何でもない。

「よし、僕らも行こう。翼たちが向かったのは市街地。それなら僕らはこのまま右に曲がって住宅街に入るぞ」

「そうだね。それじゃあ行こうか」

 僕らは彼らの行く道とは別の、住宅街の方面へと走り出した。


 ───試験官室───

「今回もまた合格者が少なそうですね。魔具の存在に気づいたペアは二組。昨年よりもはるかに少ない。未だ魔具に気づかず、避難民を誘導しながら逃げ回る組が十五組。今回の試験生徒はハズレですかね」

 モニターによって試験会場が映し出された部屋で、十人ほどの教師と思しき人間が円形の会議机を囲んで座り、現在の様子を見ていた。

 試験を監視し、試験の合否をつける学園の首脳陣。学園長を筆頭に各分野の長の教師九名、その中に学生服を着た生徒が一人。

 完全に一人だけ浮いてしまっているが、そんなことは気にも留めずにその生徒が発言をした。

「けれど魔具の存在に気が付いた二組。この四人は相当面白そうですね」

 後ろにいる付添人としてきている生徒に、翼と真耶のデータを映し出させる。

「杉浦翼と杉浦真耶。このペアは魔族を狩り慣れている。さらにペアを組んで長いのでしょう。各個人の魔具の扱いもさることながら、特筆すべきは二人の連携です。杉浦妹が前衛として多くの魔族の注目を浴びて狙撃手の杉浦兄への視線を減らし、彼も的確なサポートによって彼女の狩りの手助けをしている。狙いも確実に頭に直撃させています。杉浦妹の方もあの体系でよくあの大きな鎌を振り回せている。二人とも本試験の首席候補ですね。そしてもう一組」

 後ろの生徒がイザヤと潤華のデータを映し出す。

「桐谷潤華。学科試験を首席で突破。その答案全てが模範解答と呼ぶに等しいほどの完璧な答え。そして桐谷家の一人娘。武器の扱いも相当なものだ。さすがは桐谷家のものというべきでしょう・・・・ですが、注目すべきはもう一人の方です。

 新堰イザヤ。学科試験は特筆すべき点はなかったものの、真っ先に魔具の存在に気づき、ペアである桐谷の失態をカバー。武器庫から戻ってくれば、その手に持つのは禁忌の魔具〈ルナリア〉。

 あれに選ばれたというだけでもかなりの注目株なのに、魔族の狩り方が異質です。武器の扱いには慣れていないのか刀の振り方は初心者そのものだが、魔族の気配をいち早く察知している。さらに彼が出している殺気? のようなものが魔族を完全におびえさせています。まるで魔族間の弱肉強食に干渉しているような。

 それに魔族の攻撃を武器で受け止めず、素手で受け止めている。こんな芸当は普通の人間はできません。恐らくはこの世界については素人同然でしょう。けれど彼は何か秘めている。何かを隠している。〈ルナリア〉に選ばれたこと、彼の戦闘方法、すべてが異質でかなりの注目株。本試験のダークホースでしょう」

 彼の発言に教師陣も頷いている。

「どちらにしろ禁忌の魔具に選ばれた人間である以上、放っておくことは難しいだろう。あれに選ばれてしまっては、彼自身の意思ではあの魔具を離せない。素人にあの魔具を外に持ち出されてはかなり都合が悪い。彼の動向には十分注意するべきだろうな。まぁ、それでもあの動きでは魔具の扱いは素人同然。やはり注目すべき試験生は、あの三人だろう。」

 教師の発言に納得しながらも、彼は少し引っ掛かりを覚えていた。

(見るべき点はそこじゃないだろ、老いぼれ爺ども。禁忌の魔具に選ばれたことも特筆すべきだろうが、もっと注目すべきは彼の放つオーラと、その戦闘能力だ。

 どれをとっても人間のなせる業じゃない。魔族を睨むだけで怯えさせるなんて聞いたこともないし、魔族の攻撃を素手で止めるなんてもってのほかだ。禁忌の魔具に振り回されるということもない。本当に彼は人間なのか? それとも・・・・・・いや考えすぎか。上位種の半魔が生まれる確率なんて相当低いからな・・・・ふふ、これは面白い奴が入ってきそうだ)

 ほかの教師とは一人違う点でイザヤを睨んでいる生徒が一人いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る