災厄との邂逅2
それもそうだ。彼らは魔族狩りになるために来た強さに自慢のある・・・・ただの人間だ。生身の人間だ。何の装備もなしに魔族に近づけば、当然殺される。
「イザヤ・・・・どういうこと?」
「おそらく狭き門を与えることで受験者の焦りを募らせ、そこですぐに試験を開始させる。そうすれば全員ポイント欲しさに飛び出していく。けれどそれはきっと悪手だ。ここで問われるのは、『情報』だ。このエリアにはどのくらい市民がいるのか。どんな魔族がいるのか。そして、自分たちの戦力についてだ。それを見失って合格欲しさに飛び出した人達は、ああなる」
僕が指をさす方向に潤華が首を向ける。そこにいたのは。
腕をもがれ、足が噛まれて無くなり、目が抉られ、生きているのか死んでいるのかわからない状況の多数の受験者だ。
「なんかイザヤなら気が付きそうな気はしていたんだが、君に目をつけていて正解だったようだな」
試験官は僕ら四人に向けて笑いかけ、
「よく気が付いたな。名は・・新堰か。よし、なら君には最初に気が付いた記念に好きな魔具を選ばせてあげよう。君も彼がペアでよかったな。あのまま飛び込めば君たちもあぁなっていた。君たちのペアも、彼らの後に好きな魔具を選ぶといい」
そして僕らはもう一人の試験官に連れられて、武器庫へと案内された。
僕らの後ろでは非情な宣告をされていた。
「なお、ペアを失った受験者も即失格だ。ペアが死んだ場合、もう帰っていいぞ」
その非情な言葉に、必死に自分のペアを起こそうと揺らしたり、叩いたり、それはもう必死になっていたが、あの中に生きている人間は何人いるのだろうか。
「けれどあそこまでやる必要性なんてないのにな。試験で人の命を落とさせるなんて」
僕の言葉に、翼が答えた。
「それは違う。彼らはこの編入試験に挑むときに、命の保証ができないことを了承しているんだ。それに試験官の説明に本物の魔族だから平気で襲ってくる、って説明があっただろ。だったらその恐ろしさを軽視した彼らが悪い。判断力が足りなかった彼らが悪い。それだけだろう。この仕事の大変さを軽視した自分たちを恨むべきだと俺は思う。イザヤが朝の喧嘩の時に言っていただろう。魔族は俺たちの言葉なんて聞いてくれないって。それをちゃんと理解していない人間は、遅かれ早かれああなるんだ。それがちょっと早かったってだけだ」
それもそうかと納得ができる。実際、僕も魔族の恐ろしさを知っている。
簡単に僕らの住処を灰にできることも、僕らの命を簡単に消し飛ばせることも、魔族に会って、魔族になって実感した。
僕らが試験官についていっている時、潤華が僕らについてきていないことに気が付いた。周りを見渡せば、さっき僕らがいたところから一歩も動かず、彼らのことを眺めている。
その凄惨さに恐れてしまったのかと心配して、僕は潤華を呼びに行った。
けれどそこにいたのは、その光景に恐怖した姿ではなく、その光景に羨望の眼差しを向ける彼女がいた。
「いいなぁ」
ぼそっと呟いたその言葉に、僕は恐怖を覚える。
何を羨んでいるのか。何がよかったのかが僕にはさっぱりわからない。
それにまただ。潤華の目に光が灯っていない。暗く冷たい匂いがする。どうしようもなく寂しく、悲しい匂いだ。
「ん? あぁごめんね。あの人たちとも一緒に合格したかったなって、悲しんでただけだよ。彼らの分まで頑張らなくっちゃ」
僕の横を笑顔で通り過ぎていく潤華。僕もその後ろをついていくが、簡単にそんな嘘がつけてしまう潤華をこれから信用できるのかが不安で仕方がなかった。
「ここが武器庫です。この中にある魔具はどれも強力なものなので取り扱いには注意してください。それでは」
そう言って試験官はその場を去っていった。
この三日間で軽く勉強はしていたが、本物の魔具というものを見るのは初めてだった。
魔具というのは、魔石を武器に埋め込みその武器に魔力を込めた武器のことだ。この武器を使うことで人間は初めて魔力というものを行使することができる。もちろん普通の武器としても振るうことができる。
その一撃のどれもが普通の武器より鋭く、重たい。ゆえに魔具のほとんどが取り扱い危険度がAランク異常とされている超危険物なのだ。
そんな危険物をこんな易々と貸し出すなんて・・・・
「ほらイザヤが一番に選んでいいって言われているんだ。一番最初にどうぞ」
「あ、あぁ。と言われても僕は魔具に全然詳しくないんだけど。どれがいいかなんて・・・・」
『・・・・・・見つけた・・・・』
武器庫の中を物色していると、どこからともなく頭の中に話しかけられた。
『・・・・を・・・・選んで・・・・を・・・・・・見て』
何となく声のするほうを向くと、とある一つの太刀が目に映った。
それだけが僕にはなんだか異質で、禍々しい何かを発しているようで、僕はその太刀に吸い込まれるように近づいていった。
「イザヤ、そっちにある武器は危ないですよ。初心者が到底扱えるものではないです‼」
摩耶が僕に何か注意をしているようだが、僕の意識は完全にその刀に向いていて、届いた声は右耳から左耳に抜けていき、僕はその刀を手に取った。
鞘も柄も漆黒に塗られていて、ほかに何の色もうつさない。その禍々しい柄を握り鞘から刃を抜いた。
切っ先まで少し黒みがかった赤に染まったその刀身はまるで、幾人もの血が塗り固められているかのようだった。その色がまたこの刀の禍々しさを際立てている。
(綺麗だ・・・・・・)
僕のこの太刀に対する感想はそれしか出てこなかった。
心の底から出てくる言葉はそれだけ。
語彙力がないというのもあるだろうが、無粋な誉め言葉はこの太刀に逆に失礼と思わせる。本当に美しいものは質素な感想しか出てこないのだろうか・・・・
「うん。僕はこれにしようかな・・・・ん? みんなどうした」
僕が振り返るとほかの三人が、口を開けて唖然としている。
「なんだその顔は・・・・僕を笑わせようとしているのなら違う日にしてくれないか。今日は真剣に試験を受けに来ているんだ」
「いや・・・・・・お前・・・・その刀のこと何も知らずに持ったのか?」
「ん? 知らずにって僕はこの世界に入って本当に日が浅いんだ。魔具のことだってそこまで詳しいわけじゃない。人間が魔族を狩るための道具で、他の武器と逸脱した力を持つってことくらいしか」
「それならもっと緊張感をもって魔具を選んでよ。あぁ、ひやひやした」
摩耶が額から出ている冷や汗をぬぐう。刀を持っただけで何でそこまで言われなければいけないのか。大体こんな簡単に貸し出すからには、誰でも扱えるような魔具ばかりなのだろう?
「イザヤ・・・・その武器はね、禁忌の魔具と呼ばれるほど貴重で恐ろしい魔具なんだよ。何でもその柄を持っただけで持ち主の命を刈り取るとか、その刀に宿る意志によって精神を支配されて気が付いたときには自分の周りは血の海になるとか。いろいろ言い伝えがあるんだよ」
潤華が恐る恐る教えてくれる。
その話を聞いて怖くなって僕は太刀を離そうとしたが、その柄が僕を離さないのか、僕の手が柄を離さないようにしているのか、どれだけ捨てようとしても手から離れなかった。
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