災厄との邂逅

 準備室から試験官に案内されて、僕たちが案内されたのは、郊外に見立てた訓練場。軽く見ただけでも、狭い住宅街数個分くらいあるのではないかと思う広さだ。

 ビルや大きな工場のようなもの、マンションといった建物のほかに、公園といった施設まである。

 広い大通りもあれば、路地裏のような狭い通路。何度も曲がりくねった道まで。道路には無人だが自動車に自転車。歩行者に見立てているのであろうロボットもあり、本当に人が住んでいると言われても疑わないような作りだ。

 そこに試験官から試験の内容が伝えられた。

「それでは試験の内容を伝える。

 君たちにはこれからこのエリアαに全員入ってもらう。その中で自分のペアとともに、多くの点数を稼いでもらう。ポイントを稼ぐ方法は二つ。救助と撃破。

 救助は見てわかる通り、この中には一般人に見立てたロボットが多くある。外だけでなくビルの中にもたくさんいる。このロボットたちを入場口まで連れてくることでポイントを稼いでもらう。ロボットたちは基本的には言うことを聞いてくれるが、中には魔族の襲撃によりパニックになっているものもある。より多く、より効率よく市民を安全な場所まで非難させることも、魔族狩りの大切な仕事の一つだ。

 そしてもう一つは撃破。このエリアのいたるところに、本物の魔族がいる。どれも初心者でも狩れるような下位の魔族だが、油断はするなよ。本物の魔族であるが故に、平気で我々を襲ってくる。魔族狩りの本来の仕事、魔族を狩る体験をしてもらう。

 市民全員の避難。もしくはエリア内にいるすべての魔族の撃破。このどちらかが達成された時点で試験は終了だ。なお残り総数は入り口の電光掲示板に映し出されるから確認するように。 

 ペアの獲得したポイントを合算し、上位十ペアを合格として、その中から筆記試験との兼ね合いを見て合否が通達される。以上、他に質問のあるものは?」

 試験官の説明に、受験者たちのざわめきが上がった。

 それもそうだろう。もともと通達されている推定合格者はおよそ五十人。なのに十ペアしか合格しないとなると、この試験で合格できるのはたったの二十人だけだ。

 他の部屋で試験を受けていた人を合算して、優に四百人を超える受験者の中から、たったの二十人しか選ばれない。聞かされていた倍率より遥かに狭き門だ。

「その反応もわかるが、毎年こういう風にしている。想定よりも狭き門にすることで全員の本性が知れるのだ。皆、是が非でも合格するために必死になる。そうすれば何をポイント源とするのか、ペアとの協調性、その他諸々が見えてくる。その行いが功績となって合格、なんてこともあり得るから十ペアに入れなくても安心してもいい。まぁ、それで合格できるのはせいぜい一人~二人だがな・・・・質問はないな。それでは、試験開始‼」

 入場口が開け放たれて、全員が一斉に走り出した。

 潤華も走り出そうとしていたが、僕はそれを止めた。

「イザヤどうしたの? 私たちも行かないとポイント全部取られちゃうよ」

「まぁ待て潤華。この試験おかしいと思わないか?」

「そうだね、俺もそう思っていたところだ」

 いきなり誰かに話しかけられたと思ったら、後ろに立っていたのは翼と真耶のペアだ。

「やぁ、さっきぶりだね」

 余裕な顔をして、にこにこと笑っている翼と、僕の言葉を不思議に思っていたのか、潤華が溜まらず質問してくる。

「何がおかしいって言うの? 試験官の説明に難しいところなんてなかったと思うけれど」

 潤華のその質問に、僕は試験官の前まで行き、

「試験官。さっき質問できなかったから質問をいいか」

 というと「いいぞ」と快く受け入れてくれた。

「魔族を狩るのに・・・・僕らは素手で戦うのか?」

 試験官がにやりと笑う。

 僕がこの質問を投げた瞬間、試験会場からたくさんの断末魔が響いた。

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