出会う少女は6

 潤華のことを追いかけるように僕も部屋を出る。けれどそこにいたのは先ほどの冷たい彼女ではなく、綺麗な笑顔を張り付けた潤華だ。

「桐谷さんこんな廊下でどうしたの? 部屋に入らないの?」

 確かあの人は・・・・潤華と試験会場に一緒に来ていた女子だ。その後ろには一緒にいたであろう男子。

 綺麗な碧眼に、淡い水色の髪をピンクのシュシュを使って後ろで縛っている。横から流れている触覚はこれでもかとまかれていた。なんとも特徴的な容姿をしている女性。

 後ろにいる男子も、女子学生に負けず劣らずな特徴的な容姿をしている。

 赤と黄色のオッドアイに、暗めのピンクを基調とし、ところどころに白のアッシュを入れた

 特徴的な髪型だけれど、それでも漂わせる清楚な見た目がとても眩しかった。

(都会の人たちはこんなに特徴的な容姿をしているのか・・・・)

 特徴的な髪や目もそうだが、整った目鼻立ち、身長さえも男女ともに理想的とされるような、すらりとした体形に僕は不覚にも見惚れてしまった。

「あ・・・・いやぁ、やっぱり試験になると緊張しちゃって。イザヤは全然緊張していないみたいだったから、私の緊張が伝播したら悪いかなって思って。今から外の空気を吸いに行こうと思ってたの」

「そうだったんだ。てっきり桐谷さんのペアの人に追い出されたのかと思ったよ。ほら、桐谷さんのペアの人って、朝に喧嘩していた人でしょ。桐谷さんがあの人に無理矢理ペアにされたんじゃないかって、心配だったんだよ」

「イザヤはそんな人じゃないよ。すごくいい人なんだから。今日も朝、電車で動けなくなってる私のことを助けてくれて、ペアになったのも朝のこともあったし、お礼が言いたかったのと、イザヤのことを知ろうと思って私から誘ったんだよ」

「えぇ、朝助けてくれた人とばったり同じ試験会場で再開するなんて運命だね。これは恋に発展する予感⁉」

 女子は潤華の脇腹を肘で小突いてからかっている。

 潤華の方も、「そんなんじゃないよぉ」と笑っていた。

 あれは本当に笑っているのだろうか。ただ笑顔を張り付けているだけにしか僕には見えない。

 自分の本当の気持ちを周りに悟らせないために。じゃあ、潤華の本当の気持ちとは。何を隠しているのだろうか。何を思っているのだろうか。

「ほら真耶。俺たちも準備があるから行くぞ。それに・・・・ほら、待ってる」

 一緒にいた男が、僕に気づき潤華のことを追いかけてきているように映ったのか、退散するように促した。まぁ実際潤華のことを追いかけたわけだけど、違う理由だ。

「あ、ごめんねぇ。私たちはもう行くね・・・・・・・・君、ちゃんと潤華のこと支えてあげなきゃダメだよ」

 女子が僕に近寄ってきて、耳元でそんなことを言い残していった。完全に勘違いしている。

「ちょっと待ってくれ・・・・この後、少し話せないか」

 潤華と話しているということは、少なからず潤華の知り合いなのだろうか、と思って僕はその二人に時間がもらえないか話しかける。

 そうすると男のほうが、

「俺たちの準備が終わった後、時間があったらでいいなら。あまりうまいこと相談に乗れるかはわからないけど」

「私もいいよ。なら、私たちの準備が終わったら連絡するよ。だから連絡先、交換しよ」

 そういって女子学生と男の二人が自分の携帯を取り出し、自分の連絡先を見せてきた。それを僕は自分の携帯に登録する。

 僕が登録し終えたのを確認して、二人は自分たちの準備に向かった。

「・・・・潤華。もう少し話がしたいからいいかな」

「ごめん。私はイザヤと話すことなんてない。イザヤは強いみたいだし、私の手助けなんていらないでしょ。お互いに適当にやろうよ。私、外の空気を吸ってくるから」

 そう言って潤華は歩きだしてしまった。

 追いかけても今の僕には何を話せばいいのかがわからない。なんて声をかけるのが正しいのかがわからない。

 あれは、相当暗い何かを抱えているんだろう。簡単に解決できない何かを。

(半魔・・・・と言っていたな。僕の知らない言葉。この世界に入ってきて日の浅い僕にはわからないな。これもあの二人から聞ければいいけれど)

 僕は準備室に戻って、二人からの連絡を待つことにした。

 

 連絡は案外早く入った。呼び出されたのは、更衣室からすぐの階段の踊り場。

「悪い遅くなった。時間を作ってくれてありがとう」

「いいよ、同じ試験に挑むよしみだ。それよりも驚いたよ。出会って間もない人と、そんなに打ち解けるなんてすごいな。試験でまさかのカップル誕生なんて聞いたことないよ。朝から喧嘩をしていた人には見えないな」

「本当にね。私、あれだけ見てたら完全に悪役にしか見えなかったんだから。あ、私は杉浦真耶。こっちは杉浦翼。私たちは同じ学校の同級生だったの。ちなみに高校二年生。よろしくね」

「・・・・だから僕と潤華はそんなんじゃない。本当に偶然電車で助けて、たまたま席が隣だったから話が弾んだってだけなんだよ。まったく・・・・とりあえず、僕は新堰イザヤ。高校一年生だ」

 僕が潤華との関係を否定したことを、二人はにやにやしながら聞いている。本当に違うのに

 このまま否定し続けてもらちが明かないと思って、僕はさっそく本題に入ろうと、話題を切り替えた。

「時間を作ってもらったのは潤華のことなんだ。見たところ二人と潤華は違う学校だったんだろ? 制服が違う。なのに朝、試験会場に話しながら入ってきていた。二人はもともと知り合いだったのか?」

「いやぁ、私たちも潤華とは初対面だったんだよ。急に後ろから満面の笑みで話しかけられてさ。あんなに清々しい笑顔で声をかけられたら、緊張も吹き飛んじゃったよ」

「確かにお前、電車降りたときからがちがちだったもんな。見ていて面白かったぞ」

 翼がくすくすと笑えば真耶がすかさず肩を殴った。

 思いきり叩いたのか、翼は近くの壁に打ち付けられ、『痛ってぇ・・・・』と文句を言いながら立ち上がる。

 殴られたことには何の文句も言っていないことから、真耶に殴られることは慣れているのだろうか。逆に翼の軽口も慣れているのだろうか。やり取りがいつも行われていたみたいに自然だった。

 それを見ていると、この二人のほうが恋人を見ているようでなんだか微笑ましい。

 二人のそんなやり取りを見ていたが、僕の聞きたいことはそんなことじゃない。

「そうか。二人とも初対面なのか。知り合いなら、あの笑い方のこととか知っているのかと思ったけど・・・・」

「笑い方? 桐谷さんの笑い方が何か変なの? あんなにかわいい笑顔なのに」

「いや、僕の勘違いなのかもしれないけれど、なんだか張り付けた笑顔みたいだなって。笑いたくて笑ってるんじゃなくて、笑う場面だから、笑顔を作らなければいけないから笑ってるように見えてな。僕も最初はそんな風には見えなかったんだけど、途中からそんな風に見えたらどうしても気になって」

「うぅん。俺にもそんな風には見えなかったけど。考えすぎだと思うけどな」

 二人には潤華の笑顔は、本当の笑顔のように見えたと言っている。やはり僕の考えすぎなのだろうか。だったらあの冷たく、暗い匂いは何だったのだろうか。

「まぁ、これは僕の勘違いならそれでいいんだ。本当はもう一つ聞きたいことがあって、二人は半魔って言葉を知ってるか? 僕、ハンターのことをよく知らなくて、この世界に入ろうと決めたのもほんの三日前だから実は何も知らないんだ」

 僕がそういうと二人にすごく驚かれた。と同時にすごく怪しまれた。

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