出会う少女は4
「どうだった? 私はまぁまぁだったかな」
「僕もぼちぼちだったよ。予定では七十点くらいとれればいいほうだと思っていたけど、これならもう少し取れそうだ」
「ふふ、一度は勉強した範囲なんだからもうちょっと頑張ろうよ。君、多分高校生くらいだよね?」
「高校一年生。数か月前に受験をしたばっかりだよ。でも周りの友達だって試験が終わったそのすぐ後には忘れていたんだから、こんなもの覚えている奴いないって」
「高校の基礎になるものばかりなんだから覚えておこうよ。そっか、高校一年生なんだ。なら私のほうが一つ年上だね・・・・あ、そういえば名前を言うのを忘れてた。これからペアになるんだから名前くらい知っていないとね。私は桐谷潤華。気軽に潤華って呼んで! 君は?」
「僕は新堰イザヤ。よろしく」
「新堰イザヤ君。なら、私はイザヤって呼ぼうかな。実技試験一緒に頑張ろうね。せっかく仲良くなれたんだし、一緒に合格目指そうね」
「あぁ、そうだな」
潤華はガッツポーズを作って気合を入れている。
こんな時にでも他人のことを気遣えるのか。緊張とかしないのだろうか。
僕が潤華を見てあっけにとられていれば、彼女がこちらを向いて不思議がる。
「ん? どうしたの? 私の顔をじっと見て。何か聞きたいことがあるなら聞いてくれていいんだよ。これからペアを組むんだし、何でも言えるわけじゃないけど応えられる範疇でなら応えるよ」
「いや、こんな時なのに他人を気遣えるなんてすごいなと思ってな。緊張とかしないのか?」
「えぇ、もちろんしてるよ。けどせっかくならみんなで合格したいじゃん。だからみんなのことも応援してる。これくらい普通だから、全然すごくなんかないよ」
「そんなものか? 僕は自分のことで精一杯だよ」
「ふふ、これが年上の貫禄ってやつだね。まぁ、元の学校でも学級役員とかやってたから、みんなのことを見るのが慣れてるのかも」
そんな風に潤華と話していて十分ほどたつと、試験官が会場に戻ってくる。
どうやら採点が終わったようだ。この量の回答を数分で終わらせてくるなんて、この学園の教師は脳に何か埋め込まれているのだろうか。
「この学園の編入試験の学科の採点って独自のシステムを持ってるみたいで、スキャナーに答案用紙を通すと、そこから文字を解読して、もともとフォルダの中に入っている回答例と比較して採点するんだって。だからここの教師の採点が早いんじゃないんだよ?」
なんで僕の考えていることがわかるんだ? まさか、潤華はエスパーか・・・・
僕は感情を読まれたことを頑張って隠して、平静を装って答えた。
「へ、へぇ、すごいな。ってなんでそんなこと知ってるんだ?」
「ん? それはここには何回か見学で見に来てるし、下調べはしてきたからね。他にもいろいろ面白そうなシステムのものがたくさんあったし、面白そうな行事もたくさんあったよ」
「そうなのか」
「むぅ。聞いておいて何さ、その興味ない返事は。もうちょっと興味持ってよ」
「いや十分すごいと思っているし、面白そうだなと思ってるさ。悪いな、あまり感情が表に出ないんだ」
表に出ない、というより出ないように訓練をした。だからそれに慣れてしまったからあまりいい感想が出てこなかった。
実際興味が少し湧いてきている。
この学園自体にはあまり興味はなかったし、ただの通過点くらいにしか考えていなかったが、この学園での生活も案外楽しそうだった。
そんな暇が少しでもあればいいな、と少し期待が膨らむ。
「本当かなぁ・・・・あ、呼ばれたから行ってくるよ」
潤華は席を立ち自分の答案用紙を取りに行った。五十音順だからちょっと待っていれば僕の名前も呼ばれる。
答案用紙を受け取って点数を確認すると、七十六点と何とも言えない微妙な点数だった。
(まぁ、当初の予定よりは取れているからいいのか)
席に戻ると、潤華が僕の答案用紙を覗き込んでくる。
「おい、一応個人情報だぞ。そんな簡単にのぞき込んでくるな」
正直こんな微妙な点数を見られるのが恥ずかしかったから隠したのだが、すでに点数を見られていた。
「いいじゃんそのくらい。それにしても七十六点か、目標には到達してたからよかったじゃない」
「それはそうだけど・・・・それより僕の点数を見たんだからそっちも見せるべきだろ」
僕は潤華の机の上で半分に折られているテストを貸して、と手を伸ばすと潤華は渋々そのテストを僕に渡してくれた。
そんな渋々渡すってことは、そんなに点数がよくなかったのだろうか。
僕は開いて驚愕した・・・・百点。
答案用紙と一緒に配られた回答例と見比べてもほぼ同じ。現代文に至ってはほぼ一言一句回答例と差異がなかった。
「・・・・すごいな。こんな完璧に回答できているなんて。もしかして潤華って優等生なのか?
元の学校でも学級役員をしていたって言ってたもんな」
「いや全然すごくないよ。今回は山感が当たっただけ。けど優等生に見られるなんて・・・・嬉しいな」
嬉しいな。と言って表情には笑顔を張り付けていたが、なんだか芯から笑っていないように見える。本当に笑っていないようだった。
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