出会う少女は3

 僕が席に着くと、隣には今朝電車の中で助けた女子高生が座っていた。

「朝からいいことして、試験会場で喧嘩をして・・忙しいね」

 彼女はくすくすとおしとやかに笑っていた。笑い方までもが鈴蘭によく似ている。ここまで似ていると、彼女が生きていて、記憶が無くなっているだけなんじゃないかと錯覚してしまう。

 けれど胸の名札を見るに違う。それもそうだろう。そんな奇跡がそうあるわけないのだ。

「・・・・別に僕から仕掛けたわけじゃない・・・・それよりも、やっぱり今日の試験を受けに来ていたんだな。確証はなかったけどそんな気はしていたよ」

「私も驚いたよ。私と同じ類の人が同じ日に試験を受けに来るなんて。親御さんに反対されなかったの?」

「反対されるも何も親は死んだんだ。魔族に襲われて・・・・この学校を受けようとしたのは自分の意思だよ」

「あ・・・・なんかごめんなさい。そうだよね。ここにはそういう人も来ているはずなのに家族の話を持ち出すなんて・・・・」

「いや、別に気にしなくていいよ。別に親の弔いが理由のすべてなわけじゃないから。それより同じ類の人って言ったよな。ということはやっぱり君も?」

「そう、私も同じ。そうだ! 後でゆっくり話もしたいし、実技試験を私と組んでくれないかな?」

 この学園の編入試験には学科と実技試験の二つがある。

 学科は一般学生と同じもの。仕事柄が、ほかの人たちと違う魔族狩りだけれど、本来レスキューと同じように扱われるために、一般常識としてほかの学生と同じ学力が試される。ただこの学科試験は合格条件の約三割の役割しかない。

 この編入試験の合格条件は、七割を満たせばいいがゆえに極端な話、学科試験が零点だったとしても、実技試験で満点さえとってしまえば合格することは可能なのだ。それぐらいこの学園では実技というものが重要視されている。

 それも当然だろう。一般常識があり、勉強ができればいいことはあるのだろうけれど、結局動けなければ、魔族を狩れなければ、この仕事は成り立たない。

 その重要視されている実技試験。

 毎年内容は少しずつ違っているらしいが、毎年同じこともある。

 それは二人ペアで必ず行われること。

 仲間意識のある人間か、他人を信じられる人間であるか、それを分かったうえで連携が取れる人間であるか。

 それが取れない人間はたとえ優れているとしても、魔族狩りになる資格がないという。それがこの編入試験の方針だ。

 単独行動や仲間に対する配慮が足りない人間は、問答無用で試験から退場、なんてことも過去にはあったらしい。

 魔族を一人で狩ることのほうが少なく、必ず多人数で狩りに向かうことが多くなるために、自己中心的な人間がいては魔族が狩れないと考えられるのもわかることだ。

「そうだな。僕も君に聞きたいことはある。どうしてま・・・・いや何でもない」

 彼女は僕と同じ類の人だと言った。

 電車であったときから感じていた、魔族の匂い。

 若干匂いが薄い気がするけれど、彼女も人に紛れて生きている。いい魔族か、悪い魔族科は置いておいて。

 僕はどうして魔族がこうして人間とともに暮らしているのか、と聞こうとしたがやめた。

『いいですか。くれぐれも人前で魔族であることはばらしてはいけませんよ。ことによってはその場で処刑なんてこともありますから。簡単に口に出さないことをお勧めします。壁に耳あり、障子に目ありということわざもあるくらいですから』 

 というリアンからの助言を思い出したから。

 僕が言葉を途中でやめたのを彼女は不思議がっていたが、試験官が学科試験の髪を配り、注意事項などを話始めたから、彼女は視線をテスト用紙に向けて集中した。

 僕も学科試験に集中する。

 学科試験の内容は、高校を卒業していない人間も、社会人の人間もいることから高校入学試験と同じ範囲である中学生の総括で統一してある。

 こういう時、もう少し高校の勉強をしていればと後悔する。高校の勉強をしていれば中学の問題に応用できることもあるだろうに。こんなことになるなんて当時の僕は考えていなかったからしょうがないと言えばしょうがない。

 とはいえ、一度高校受験で勉強しているから覚えていることのほうが多い。この三日間で忘れている部分も、詰め込めるだけ詰め込んだから、七割くらいは解けるだろう。

 合格ラインから考えれば約二割は取得できるくらい。それくらいとれれば上々だ。残り五割を実技でとればいいだけ。

 一枚の試験用紙に五教科詰め込まれ、それを百点満点で採点されるからこの学科試験にどれだけ力が注がれていないかがわかる。

 内容も思ったよりも常識的なものばかりで、高校入学ができていれば簡単に解けるものばかりだった。

 三十分ほどで解答用紙を埋め終わり、そのまま確認作業に入る。

 ちょうど一から最後まで確認し終えたところで、試験終了の合図が出された。

 これなら八十点くらいなら取れるかもしれない。当初の予定よりも簡単でほっとした。

 答案用紙が集められ、筆記用具を片付ければ隣の彼女が話しかけてきた。

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