出会う少女は1

 山奥の住宅街から一時間に一本ずつしか出ていない電車に揺られ約一時間、そして市街地から出ている新幹線に乗って東京へと向かう。

 人生初めての新幹線に正直驚いた。住宅街から市街地まで一時間もかかるというのに、それの倍ほどの時間で何県もまたいで移動できるのだから、本当に文明の進歩というものはすごい。

 新幹線から降りてまた驚いた。その人の多さに。

(僕の住んでいた住宅街の人の数よりはるかに多いな。さすがは都会だ)

 人の波をかぎ分けて改札を出て、星鳳学園前の駅がある電車が通っているホームを探し歩き回り、道に迷い、挙句は何度もうろうろしていたから警備員につかまり、事情を説明すると快く案内してもらえて何とか電車に乗り込むことができた。

(高校生にもなって案内されるなんて・・・・ちゃんと地図や行き方を調べておくんだった)

 正直すごく恥ずかしかった。通りすがりの人たちがこちらを見て微笑ましく見ていく。

 田舎から出てきたのがバレバレで、電車に乗っても乗り方が間違っていないかとか、行き先を間違えていないかとかいろいろ考えてしまいすこしそわそわしてしまう。

 電車の中も多くの人でごった返していた。サラリーマンや学生、どこか遊びに行くのかおしゃれをして友達と仲良く話をしている学生たち。

 この中で僕以外そわそわしている人間なんていないと思えるほどにみんな馴染んでいて、僕がここにいるのが場違いなんじゃないかと思ってしまう。

 駅のホームにつくたびにたくさんの人の入れ替えがあって、その波に押しつぶされてしまいそうになる。

(テレビで見たものと同じ光景だ。しっかり捕まっていないとこの中に飲み込まれてしまうな)

 ポールを必死につかんで、波に流されないように抗っているとその中に流されそうになっている女子高生を見つけた。

「あ、あのすみません。つ、次で降りるので・・・・」

 何とか人の波に抗ってドアのほうに近づこうとしているが、聞こえないのか、聞こえていたとしても知らんふりをしているのか、いやどきたくてもその人も流されないように抗ってどうすることもできないのか。

 僕は狭い中でも手を伸ばしてその子の手を取る。そして思い切り引っ張った。

 急にその人が動いたことで、ほかの人にぶつかり若干睨まれたが仕方がない。

 急に自分の身体が引っ張られたことで驚いたのか、女子校生はぽかんと口を開けていたが、すぐに助けてもらったことに気づき、

「あ、ありがとうございます。助かりました」

「いや、いいよ。それよりこのポールをつかんで・・・・」

 彼女がこちらに来たことで気づいたことがあった。それに僕は驚いた。二重の意味で。

 彼女の容姿が・・・・幼馴染の鈴蘭によく似ていたから。

 正直顔なんか見ずに引っ張ったからその時は気づかなかったが、端正な顔立ちに白い肌、目を引く金色の髪、僕の姿がぱっちりと映る黒い瞳、前髪の一部を編み込んでいるところや、僕の首辺りまでしかない身長差までそっくりだった。

 頭にはニット帽被っていたことは違ったけれど、服装までも一緒だったらそれこそ本人と間違えていただろう。

 そして、もう一つは彼女から漂った匂いだ。

(これは、もしかして・・・・)

 どういうことかわからず、再度確認のためにそちらを見ると、彼女もこちらを見て驚いている。

 いや、どちらかというと青ざめている。

 そこでタイミングがいいのか、悪いのか、目的地となる星鳳学園の最寄りの駅に到着する。

(ん? この子さっき次で降りるって言っていたよな。ということは彼女も星鳳学園に・・・・)

 彼女には聞きたいことがあった。だから声をかけようとしたけれど、ドアが開いた瞬間彼女は逃げるように走り去っていった。

 追いかけようとしたけれど、彼女はホームを出てすぐの女子トイレに逃げ込んでしまい、それ以上追うことができなかった。

(くそ‼ あんなところに逃げ込まれたらどうしようもないじゃないか)

 こんなところで時間をつぶすわけにもいかないし、彼女と目的地が一緒である証拠がない。

 もし違って遅刻、そのまま試験を受けられませんなんて洒落にならない。それにずっと女子トイレの前で立ち往生していては、今度こそ警備員につかまる。そのまま警察行きだ。

 だから僕は仕方なく一人で星鳳学園までの道を歩いた。

 

(びっくりしたぁ・・・・まさか私と同じ人がいたなんて)

 私は勢いよく女子トイレに入り込み一息つく。さすがにここまでは追ってこられないだろう。追ってこられても困るけれど。

 私と同じってことは、あの人も自分のことを隠して生活しているのかな? それなら分かり合える部分があるかも。

 私のことわかってくれるのかな? それともほかの人と同じなのかな。

 まぁ私がすることは変わらない。ただみんなに受け入れられる人間でいるだけ。

 私はみんなから見て優等生でいること。みんなの理想で、憧れられる人間でなくてはいけないんだ・・・・そうしなければ私は受け入れられない。

 そう。みんな私の本当なんて知らなくていい。私のことなんて知らなくてもいい・・・・私が、私である必要性なんてどこにもない。私に臨まれているのは、誰からも認められる優等生であること。それだけだ。 

 だから、あの人とこの先関わることがあったとしても、私は私自身という人間を表に出すことはない。きっと受け入れられないから。

 私は一呼吸ついてから、外を見回してあの人がいないことを確認して星鳳学園への道のりを歩き始めた。

 学園までの道のりには、同じ編入試験を受けるであろう生徒がたくさん来ていた。みんなそれぞれ違う制服を着ていたが、この道を通るのは星鳳学園に行く人間しかいない。

(第一印象。私という人間が怪しまれないように、優等生を演じ切る。そのための第一印象が大事)

 だから私は面白くもないけれど、笑顔を顔に張り付けて、学園に向かうであろう生徒たちに挨拶をして回る。

 元気で、陽気で、明るい女の子を演じるんだ。

「こんにちは。あなた達も星鳳学園に行くの? 見かけない制服だったから私と同じなのかなって思ったから。私の名前は桐谷潤華きりやるか。同じ編入試験を受ける仲間として一緒に頑張ろうね」

 私は、桐谷潤華という人間を隠して生きる。そんな人間は殺してしまっていいんだ・・・・そして私はこの学校で・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

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