旅立ちの準備3

「それに関しては、イザヤがどうにかなるわけじゃなくて私の問題かな。私たち女性型の吸血鬼が感受性が豊かなのは話したと思うんだけど、感覚がリンクしているとそれが私たちに流れやすくて、感情のコントロールができなくなるから、感情が暴走しやすいの。だからイザヤには申し訳ないけど、少し感情をセーブしてもらったほうが助かる。それに・・・・イザヤが何をしててもそれがわかるから、私に見られて恥ずかしいことは控えたほうがいいというか、控えてもらったほうが嬉しいというか・・・・私の欲求を刺激しないためにもね・・・・」

 最後のほうは少しずつ声が小さくなっていったけど、言いたいことはわかった。

 よし、これからリアンが影にいるときは注意して行動しよう。心にそう誓った。

「それともう一つ、さっき感情をあらわにしすぎると人間じゃない部分が隠せなくなるって言っていたが、それは吸血鬼の部分が現れるということか? 具体的にはどんなことが起きるのかを知っておきたい」

「男性型の吸血鬼は感情をあらわにすることがあまりなかったから正確じゃないけれど、私たちだと喜びや快楽、悲しみや、嫉妬。特に怒りの感情をあらわにしすぎると、髪の毛の色が変わったり、目の色が変わったり、目つきが変わったり、ほかにも牙が生えたりもするね。一番激しかった時は翼が出たりとかかな? あと、吸血鬼は人間に比べて少し感情をコントロールしにくいから、思ったことを口に出しやすくなるから、そういう点でも感情をセーブすることをお勧めするよ。人間として生きにくくなるからね」

 なるほど。だからあの時言いたくもないことを口走ってしまったのか。

 これから人間に紛れることを考えれば、感情をセーブして生活できるようにしないと、これからの動きに直結するだろうし、気を付けなければ。怒りやすい人や、感情の起伏が激しい人とは極力関わり合いたくない人が大多数だと思うから。

 それに姿が変化することも気を付けなければ。

 人間は異質な存在を嫌う傾向があるように思う。

 自分と違う存在は受け入れられないから。

 だったら僕はその受け入れられないものの典型ということだ。これに関しては何か対策を考えなくては。

「ちなみにイザヤがあの大人に怒っていた時には、髪の色が白色になって、目が赤色になっていました。怯えていたのは、イザヤの言葉というよりその姿の変化に恐怖したって感じ」

「あぁ、だからか」

 確かにそういわれれば周りの先生のあの反応も納得できる。

 普通の人間だと思っていた人間が、目の前でいきなり姿が変われば、誰だって恐怖するだろう。声を上げられなかっただけましというものだろうな・・・・いや、まじで・・・・

 もしあんなところで誰かが声を上げていたら、編入試験どころではないだろうから。

「まぁ、あの人たちになんて思われようとこの際どうでもいいんだけど、感情のコントロールはこれから重要な課題だな。はぁ、やることが多いな」

 そう言って僕は書類作成に戻る。ある程度は完成してきているからもう少しで終わるし、それが終われば食事にしよう。

 と、思ったけれどふと考えた。僕の食料はそこらへんで買ってくればいいだろうがリアンの分はどうするべきか。

 僕がリアンのほうを見ると、感情を読み取れなかったのか疑問符を浮かべながらこちらを見ていた。

「どうしたの? ほかに何か聞きたいことでも?」

「いや、今日の食事をどうしようと思ってさ。僕の分はどうにでもなるけれどリアンの分をどうしようかと思ってな」

「それはイザヤが調達してきてよ。男の子なんだから。まぁ私じゃろくなものが狩ってこれないんだけど」

 まぁそうなるよな。身体を慣らす必要があるというのも課題だったからちょうどいいや、と書類をさっと終わらせて玄関のほうに向かう。

「じゃあ少し出てくるよ。何がとれるのかわからないけれど」

「吸血鬼の身体が少しなじんでいるはずだから、魔族の匂いを感じ取れるはず。いいものが取れるのを期待しているよ。ちなみに魔族は保存がきかないから、最小限で大丈夫だよ。多く手に入りそうなら、魔石にしてお金にしてしまったほうがいいかも」

 そうなのか。魔族は保存がきかないなんて聞いたこともない。

 それもそうか。僕らが見たことがあるのは魔石の状態だし、魔石を身体から取り除かれると灰になってしまうからな。どれくらいその身体がもつかなんて僕ら人間が知る由もないか。

 そう考えると僕ら、いや僕はもう違うのか。人間は結構残酷なことをしている。必要なのは魔石だけで、その身体は灰になって霧散していっても知らん顔。血の一滴も残さず食べる吸血鬼のほうがまだましというものだ。

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