旅立ちの準備2

 そこから役所に行くと、今回の魔族襲撃の支援本部ができていたからそこに行き、親を失った人の手続きやら、いろんな書類を書いた。

 そして同じ役所内にある専門の部署。『魔族対策部』に向かう。

 全国のどの役所でも、ここに行けば魔族の情報をギルドに流す中継役をしてくれたり、魔族によって住む場所がなくなった人などの支援を受けたりすることができる。

 そして魔族狩りの育成校への編入試験の手続きも。もちろん、星鳳学園への手続きもしていた。

 地方に住んでいる人では手続きを出すのが大変だったり、働きながら将来魔族狩りを目指す人間が多くいたりするからだ。

 その中には誰かを魔族によって大切な何かをなくし、復讐をする、仇を討つために魔族狩り目指す人間も少なからずいるのだとか。

 僕もそれを理由にした。実際家族も、大切な幼馴染も、住む場所も何もかもを魔族に奪われて魔族を恨む気持ちがある。

 役所では編入を止めることもされず、ただ命の危険があることに注意するよう言われて編入試験を受ける手続きは簡単に済んだ。

 編入試験は三日後。

 ずいぶんと急だけれど、やるしかない。まずは小手調べとして、どのような雰囲気で行われるのか、何をするのかを見定めるべきだ。

 時間はあまり多く残っていない。できることはどんなことでもするべきだ。

 しかし、まずは小手調べとしていくにしても自分のできることは尽くすつもりだ。三日後までに少しでもこの身体を慣らすことに専念しよう。それが僕にできる唯一のことだ。

 役所からの帰り道、ふと空を見上げると、日が暮れだしたからリアンがそろそろ起きるころだろう。そんなことを考えていた。

 不思議な感覚だった。たった一日でこんなにも自体が急変するなんて思ってもいなかった。この目まぐるしさに、まだ追いつけていない感覚はあるけれど、死にたいと思っていたあの絶望した僕よりは幾分もましな気持ちだ。

 それもこれもリアンが僕を吸血鬼にしてくれて、リアンとの約束を通して僕に生きる理由を与えてくれたからだ。

 そのリアンに報いるためにも僕も必死にならなくてはいけない。帰ったら、リアンに吸血鬼の戦い方をもっと聞こう。

 そう思って、僕は急いで帰宅した。

 

 しばらく書類作成や、編入試験に必要なものの確認をしていると影からリアンが起きてきた。

「おはようイザヤ。これから頑張ろうね」

「ん? あぁ、どうしたんだ急に?」

「ううん。気にしないで、私の中で吹っ切れただけだから。これから私はイザヤのことを信じることに決めたの」 

「そうか。よくわからんが、それはよかった。なら僕もそれに応えられるように頑張るさ」

 リアンの僕に対する話し方も敬語が混じっていないし、打ち解けようとしている態度から、少しでも関係を親密にしようと、信じようと努力している節が見られた。

 彼女の顔や声にもなんだかやる気があふれているように感じる。寝ている間に何かあったのだろうか。わからないけれどそういうことなんだろうな。それならいいことだ。

 正直憶測でしかないけれど、昨日のリアンからは恐怖を多く感じられた。わからないでもないことだ。僕が彼女を拒否することだって十分にある選択肢なのだから。

 それがぬぐい切れたのかはわからないが、他人の僕が感じ取れないくらいには心の整理がついたということだろう。

 リアンは僕の隣に来て、寄り添うように座った。

「どうしたんだ? なんだか、近いような・・・・」

 僕は恥ずかしさから少し目を背けたけれど、目の端に映るリアンは笑顔が咲いていて、不意にドキドキしてしまう。

「今日イザヤが大人の人に怒っていたことがあったでしょ。なんだか私との約束を本気に考えていてくれているんだって思ったら嬉しくって・・・・あ、でも今日みたいに簡単に感情は表に出さないほうがいいよ。人間と違って、吸血鬼は感情に左右されやすいし、魔族の部分が出やすいから」

 リアンから出た言葉は、後で僕が聞こうとしていたことだった。

 今日あったことを区切りのいいところまでしたところで、質問しようと思っていたのだが・・・・

「確かに今日学校に行ったときに担任に少し感情的になってしまったな。その時に少し不思議に思ったことがあって、それを後で相談しようと思っていたんだけれど、何で知っているんだ?」

「私がイザヤの影に入っている間は、イザヤと私リンクしているの。何をしているのか、何を思ったのか、何を感じたのかは、私に筒抜けになっているから気を付けたほうがいいよ。私が寝ていてもそれはわかるからね」

「確かにリアンとリンクしているという感覚はあったな。寝息が四六時中聞こえてきて、たまにリアンのすすり泣く声が聞こえたりして心配した」

「今日の夢は確かに少し悲しかったけど、それ以上に私にとって大切な夢だったよ・・・・それより寝息が聞かれてるなんてなんか嫌だな。少し対策を考えようかな・・・・」

「別にいいだろ。可愛かったし。それよりもだ、そのことでいろいろ聞きたいことがあるんだが・・・・」

 資料から目を離し、リアンのほうに顔を向けると、リアンは顔を真っ赤にして頬に手を当てていた。

「か、かわいいとかそんな簡単に言わないでよ。恥ずかしいから。やっぱり何か対策考えよう・・・・それより何? 聞きたいことって」

 その反応がとてもかわいく、そしてやっぱり人間から変化した感情ある魔族なんだと実感させられた。

 かわいらしいリアンをもう少しいじってみたかったけど、それはまた今度にして、今は疑問解消を優先することにした。

「今の話の流れの中で二つ。まず僕と感覚がリンクしていることでリアンは気を付けたほうがいいって言ったけどそれはなんでなんだ? 別にリンクしているだけなら構わないと思うが」

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