計画3
僕が最初意見に同意したときは、顔をぱぁっと明るくしたが、欠陥があるといった時には顔を曇らせていた。自分の調べたことに欠陥があることに納得していないのか。少し不機嫌になっている。
もしかしたら僕が否定したことが悔しかったのか。そんなところを見るとリアンは、負けず嫌いな性格なのかもしれない。
「欠陥ですか。どこに欠陥があったのか教えてください」
「そもそも、『魔族狩り』は誰にでもなれるものじゃない。あれはそれ専用の学校を卒業して、且つ優秀な人材をギルド側が募集して集まってるんだ。普通の学生と同じで就活をするんだよ」
リアンは、「就活?」と疑問に思っていたが、少し説明すればわかってくれた。
リアンが吸血鬼になったころには、就職するという概念がなかった時代なのだろうか。
「それに、全国で情報は共有されているとしても、集まる『人』は違う。関東や関西のような都会には魔族も集まりやすいから、学校で優秀な成績を収めた人が集まり、それ以外の場所には、それ以外の人材が集まるんだ。だから仮に僕が魔族狩りになる学校を卒業できたとしても、配属されるギルドによっては、ガイアを倒せるような人材が集まるとは言い難いな」
僕の話を聞いてリアンはしょんぼりとしてしまった。
「そうですか。誰にでもなれるものじゃないんですね。てっきり力さえあればいいのかと」
まぁ、何も知らなければ普通はそう考えるよな。
僕も魔族狩りを志したことがないし、ネットや人づての情報だから正しいかはわからない。
けれどいくら力があっても、魔族を狩ることは命の危険性がある。自分も、巻き込まれた人たちも。知識のない魔族狩りだと、状況を悪化させるだけだからそこは適切な処置だろう。
最近は魔族狩りも自分の身をかけてお金を稼ぐ投資のような考え方をする人も多くいるが、本来はレスキューなんかと同じ立ち位置の仕事だ。誰でもなれなくて当然だ。
けれど、リアンを助けるといった手前専用の学校があるからとか、優秀になれないからとかで無下にしていい約束ではないと思う。
それに、ここで僕が投げだしたらリアンはまた一人になる。いや、もしかしたら自ら命を絶ってしまうかもしれない。
僕のせいで彼女の命が消えてしまうのは、それはどうやったって悔いが残ってしまう。それだけは嫌だ。
「そうしょげないでくれ。僕もやれるだけのことはやってみるよ。まず学校に入学できるかわからないけれど、リアンと約束したもんな。一応、どの時期からでも編入はできるみたいだし、まずはやってみなければ始まらないか!」
努めて明るく言うと、リアンもしょんぼりしていた表情をやめて、
「そうです。何事もやってみないと分からないものです。最終的な目標に比べたら軽いものですから」
ガッツポーズをして、リアンは自分に気合を入れているが、君は入学しないだろ。
頑張るのは僕だ・・・・まぁ、一緒に頑張るために応援されているみたいで悪い気はしないけれど。
「それならまずは編入する学校を決めて、今の学校からの編入手続きで書類を書いたりしなければいけないから、少し時間が必要かな」
僕は立ち上がり、背伸びをした。そして自分の頬を強めにたたいた。
バチン、という甲高い音が鳴って自分の頬に痛みが走り、なんだか自分に渇が入った気がした。
「な、なんですか。いきなり」
「いや、少し気合を入れようと思ってな。ただいじけることしかできなかった自分じゃリアンのことを手助けなんてできない。今までの僕じゃ何もできないままだから、ここから変わろうと思ってね。さてと、それじゃあ準備を始めますかね」
「なんのですか?」というリアンに対して、僕は窓のほうを指さした。
窓からは少しずつ光が差し込み始めている。話しているうちに夜が更け、また新しい一日が始まろうとしていた。
少し窓に近寄って太陽を眺める。
ここから変わるんだ。
壊されて、絶望して、死にたくなって、もう人生なんてやめたくて仕方なかった。
それでも救われたこの命を、生きる意味を作ってくれた彼女のために使う。一生懸命に。
そして何より復讐するんだ。
僕のなにもかもを奪った。彼女のなにもかもを奪った。魔族という僕らの敵に。
二度と鈴蘭や、リアンのような悲しい思いをする人を出さないために。
「よし‼ まずは今通っている学校に退学届を出すのと、編入届を出して、試験に向けてこの身体を慣らしていくか。な、リアン」
後ろを振り向くと、そこにはリアンの姿がなかった。
まるで今までのことが夢だったかのように、そこにあったのはもぬけの殻の部屋。
「え・・・・リアン?」
『心配しなくてもいますよ。あなたの影の中に』
頭の中に彼女の声が流れ込んできた。外を見ればわかることだ。
朝日。太陽が昇っている。吸血鬼なのだから当然と言えば当然か。
なぜか僕は太陽を見てもなんともないが、ここら辺ももしかしたら完全な吸血鬼になり切れていないことが関係しているのかもな。
このまま外に出ていいのか、リアンに聞こうと思ったけれど、
『日中はここで過ごさせてください。日に当たれば即アウトですから。それに夜行性なので少しずつ眠た・・く・・・・』
そこでリアンの声は途切れた。代わりにすー、すー、と寝息が聞こえてくる。
眠りについた彼女を無理やり起こしてあれこれ聞くのは不躾だと思ってやめた。
自分の影の中に誰かが住んでいるなんて、なんか変な感覚だ。
というか、リアンが寝ている間僕は彼女の寝息を常に聞き続けなければいけないのか・・・・こっちまで眠くなる。
まぁ、ここで僕まで寝るわけにもいかないし、やることもいっぱいある。善は急げとよく言われるしな。
僕は家のドアを開けて、僕が通う学校を辞めるために歩き出した。
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