計画1
自分の脅威になるから排除する。自分が怖いからという自己中心的な理由だけで、たった一つの種族に対して皆でいじめようと呼びかけた。
それは他の種族を攻撃する理由にはならないと僕は思ってしまう。
たとえ自分が生きるためだとするならば、もっとほかに方法があったはずだ。
そいつはやり方を間違えた。みんなで寄ってたかって吸血鬼をいじめて、滅ぼして、たった一人の少女にすべてを背負わせて。
それに吸血鬼を他の種族と一緒に滅ぼす。これ自体最大の悪手だ。
それによってこの先、僕たちに強く根付いてしまう。吸血鬼が全員から嫌われる最大の敵だという考えが。
何も知らない僕たちみたいな第三者が聞けば、誰だってそう考えるだろう。
何も知らないくせに。吸血鬼だってただ生きていただけだというのに。
魔族の始祖も、人間も、魔族も、そして何も知らずに呑気に生きてきた自分に対しても恨み、怒らなければ気が済まなかった。反吐が出るほどのうのうと生きていた自分が嫌になった。
今日僕は、リアンの気持ちに少し共感できたから拒まなかっただけだが、何も知らなければ僕は簡単に彼女を拒んでしまっていただろう。
吸血鬼のことを何も知らないただの第三者がだ。ただ生きてきたものを悪者にしてしまう。
何も知らなければ、僕も結局いじめの加害者だったのだから。
「僕はさ、今自分が嫌いになってしょうがないよ。きっかけがなかったらリアンのことを知りもしないのに、嫌悪してしまいそうだった。何も知らないのに知った気になって、自分もいじめの加害者になるところだったから。本当はリアンは悲しまなくてよかったのに。だからリアンのことを助けになりたい。リアンとの約束に今は全力を尽くしたい。そう思うよ。」
「イザヤ・・・・ありがとうございます。そう言ってくれる人がまだいてくれるだけで、とてもうれしいです」
こんななんでもない言葉に、彼女は酷く喜び、感動している。
ただの少女がなんでこんな言葉を言わなければいけないのだろうか。本当ならちゃんと幸せに生きていられたはずなのに。
僕が怒り、後悔したところでリアンの悲しみが和らぐわけじゃないが、せめて僕だけでも彼女の背負っているものを少しくらいはわかってあげたい。分かち合ってあげたい。そう思うことは間違いなのだろうか。
「イザヤ、無理に気負わないでくださいね。無理をしてあなたの命までなくなってしまうなんてことになるのは嫌ですから。無茶はしないでください。私はあなたにとって、結局は他人なのです。干渉しすぎない程度に私のことを気遣ってくれるくらいがちょうどいいですから」
「・・・・そうか。そうだな」
わかったことにしておこう。
リアンの言う通り、そう考えるほうが僕も周りが見えなくならなくて済む。リアンのことは友達くらいに考えておいたほうが楽なのかもしれない。
「さぁ、ここまで私があなたを吸血鬼にした理由も、私のやりたいことも、その理由も話してきたわけですがほかに質問はありますか?」
少し考えたが、すぐに出てくる質問は特にはなかったので僕は首を横に振った。
「そうですか。では次にどうやって始祖のことを倒すかです。と言っても特に今は策がだせないですね。魔族の始祖。ここからはガイアと呼びましょうか。他の魔族からそういう風な個体名で呼ばれているので。ガイアを見つけ出そうにも、どこにいるのかがわからないんですよね。ざっくり日本に生息しているという情報はあるのですが、それ以外にはどうにも情報が出てこなくて」
「それじゃあどうするんだ? 闇雲に日本中を探すことになると、それこそタイムオーバーで終了だ。生息している地域くらいは特定したいものだけど」
「そうです! 私たちに足りないものは情報、そして戦力です。闇雲にガイアのことを探したところで見つからずゲームセット。仮に見つけられたとしても今の私たちでは瞬殺されてしまいます。吸血鬼の力はすぐにふるえるような強力なものではないですから。ほら、ここに書いてあります・・・・あ、そうでした。読めないんでした」
リアンは机に置きっぱなしにしていた魔族に関する本を指さして読み始める。
「吸血鬼の特殊能力、模倣。魔族の核である魔石を食すことで、その個体が保有する特殊能力である〈オリジン〉を模倣することができるんです。その力は他の種族を食しても消えることはなくどんどん蓄積されていきます。
けれど蓄積できるのは十種類まで。それ以降は古い能力から順に消えていきます。それに私たちが模倣する能力で使う魔力は、通常個体で使う魔力量の二倍ほどといわれています。個体によって保有できる魔力量や、魔力効率は変わってしまうので単純に比較はできないのですが。
つまり私たちにとって、食事はただの食事ではないのです。自分たちの力を強くしていくためであり、大切な魔力供給でもあるのです。なので戦闘後の食事前に襲われるのが一番怖く、恐れていることなのです」
「なるほど・・・・蓄積できる種類は十種類まで。ならば使えそうな能力を上書きで消されないように、食べる順番を考えなくてはいけないのか」
「いいところに気が付きましたね。けれどそこは大丈夫です」
リアンは自分の胸に手を置き、少しドヤ顔をする。
それには嫌味なんてないように感じて、ただただかわいらしいという感想しか出てこなかった。
「なぜか私たち女性型の吸血鬼は、蓄積する能力に上限がないのです。私たちが戦闘に向かない一つの理由です。能力を多く保有しているせいでそこに魔力を割いているのです。能力をため込み、男性型に分け与える。だから、男性は食べる順番を気にしなくてもいいのです。さっき話したでしょう。『男衆に食事を与えようとした』って。男衆も普通に食事を食べることはできますが、能力がどんどん上書きされていって不便でしょうがないので私たちが食べ物を管理しているのです」
彼女の言い方に少し違和感を覚えた。
「吸血鬼の能力と食事の関連性はわかる。女の吸血鬼が食事を管理しているのもわかった。けれど能力を分け与える? 食事を与える? なんだかその言い方だと男の吸血鬼の口に食事を突っ込んでいるかのように聞こえるんだが。まさかだよな」
僕の言葉に、リアンは頭にクエスチョンマークを浮かべた。
「ん? 直接口の中に流すんですよ? 何かおかしいことを言っていますか。何なら今やりますか? さっきまでは私の中は魔力が枯渇していて保持する力もなく、すっからかんでしたが、今はイザヤがとってきてくれた獲物のおかげで少しお腹も膨れていますし、ゴブリン能力がありますので試してみてもいいですよ」
そう言ってリアンは僕に近づいてきた。
ゴブリンの能力を分け与えるにしても、さっきリアンが全部食べてしまったから、今ここにはゴブリンの姿なんてどこにもない。
まさか、消化し終わったものを口から出して、それを食べさせるとかそんなことされるのか⁉ 何の罰ゲームだよ‼
そう思ってリアンのことを凝視すると、なんか口をもごもごとしている。
え、まさかだよね・・・・
「イザヤ、口を開けてください」
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