リアンの過去1
「私にとってあいつは仇です。あいつは私たちのすべてを壊していった。あいつさえいなければ私たちはまだ・・・・」
「そういえばまだその辺のことを聞いてなかった。リアンはどうして魔族を滅ぼしたいんだ?自分だって魔族だろ」
思い返せばそのことについて何も聞いていなかった。
リアンのことを手伝うのであれば、リアンがどうしてそこまで魔族を滅ぼしたいと思うのかを知っておく必要がある。
リアンの行動理由もわからずに一緒にいるのは、地雷を踏みかねない。協力関係になるのであれば、相手のことは知っておく必要があるだろう。
「そういえば話していませんでしたね。まぁ話もほとんど終わりましたし、話してもいいですが別に面白くもないですが、それでも聞きますか?」
僕は首を縦に振る。リアンの憎悪に燃えるあの目を見れば、面白くない話であることは容易に想像ができる。
だからこの話題を振ったときには、聞く覚悟はできている。
「私たちの種族が滅んだのは、全部あいつのせいなのです。あいつが私たち吸血鬼のことを脅威だと捉えて、他の種族をそそのかしました。自分勝手な理由です。自分が死にたくないから脅威になる種を絶やす」
リアンの目には涙が浮かんでいる。過去のことを思い出して泣いているのか。それとも憎しみからくるものなのか僕にはわからないけれど。
「あの日のことを忘れはしません。
いつものように男衆が狩りから返ってきて、私たち女衆でその日の食事をして、男衆に食事を与えようとしているときです。私たちはほかの魔族や人間に囲まれ、一斉に襲い掛かられました。どれだけの魔族がいるのかわからないくらいには無数にいて、どこから現れたのかもわからないまま私たちはパニック状態になり、ただ襲われるままになったのです。
しかも狙われているのが明らかに私たち女衆と何もできない子供たちで、自分の命を捨ててでも突貫を仕掛けてきたのです。あちこちから聞こえる悲鳴や、阿鼻叫喚。怒声に、叫び声が耳を裂いて状況をつかむこともできませんでした。男衆も戦っていましたが狩りから帰ったばかりで、魔力が枯渇している状態でした。空腹で魔力も枯渇している。そんな状態では太刀打ちすることもできず、ただ自分の身を守ることで精一杯だったのです。
そんな中、私だけが逃がしてもらえました。仲間の吸血鬼が自分の命を捨ててでも私の逃げ道を作ってくれたのです。まぁ、しょうがないですね。私が死ぬわけにはいきませんでしたから。だって私は吸血鬼の女王。私が死ぬことは、すなわち種の絶滅につながるのですから」
僕は目をぱちくりとさせる。今、さらっとすごいことを言ったよな。
リアンが吸血鬼の女王・・・・僕は疑問しか浮かばなくて、話をうまく理解できなかった。
「鈍いですね。ですから、私が世界で生まれた二人目の吸血鬼なのです。吸血鬼が誕生した話をしたときに話したでしょう。私が最初に生まれた吸血鬼の最初の眷属なのです。つまり私とその恋人が原初の吸血鬼ということです」
話し方や態度から、女王という風格が感じられなかった。
僕に対しても下手に出ていたから、まさかそんな高い位に立っているとは思ってもみなかった。
これからは敬語を使うべきだろうか。
「あ、私が女王だからって敬わなくていいですよ。所詮没落した種族のことですから。変わらず接してください」
「そうか。なら普通にしゃべる」
「そうしてください」
リアンは次の言葉を出すまで、少し間を開けた。僕のためにあけた時間という感じではなく、リアンが昔を懐かしむためにあけた時間のように僕は感じた。
僕の横からすすり泣く声が聞こえてくる。それを驚きもしないし、凝視したりもしない。
昔を思い出して泣いている。自分の種族が襲われて、仲間が自分のことを必死になって逃がしてくれた。自分はどんな思いで逃げたのか。
きっと逃げる後ろからも悲鳴とか、叫び声とか、聞きたくもない声がたくさん聞こえてきたのだろう。
仲間が必死になって戦っている中で自分だけ逃げる。どんな顔をすればいいのか、僕だったらわからないと思う。
けれどリアンは自分が死ぬことだけは許されないことを理解して、自分の心を鬼にして仲間から背を向けたのだろう。
どれだけ辛かっただろうか。それから一人で生きてきて、他の種族からは見捨てられ、孤独に耐えて生きてきた。それを思い出しては泣かずにはいられないだろう。
それを思えば、涙が流れることに驚くことはない。でもそれで何かできるほど、何か言ってあげられるほど僕はすごい奴じゃない。さっきみたいに「すごいね」って褒めることはできても、「大丈夫だよ」って慰められるほど僕はリアンのことを知らない。
何も知らないただの餓鬼に何がわかるのだろうか。そんな無責任な言葉をかけるくらいなら
リアンが落ち着くまでゆっくり待つくらいしか僕にはできない。
リアンにとってそれもありがたかったのか、自分の気持ちを整理してまた話始めた。
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