正体を知る6
「・・・・・・イザヤの身体に起きていることは正常であり、異常です。
まず戦闘能力が大場に上がる。これは吸血鬼になったのですから当然です。けれどまだ力を使いこなせてはいないですよ。ゴブリン程度の身体でしたらその形を保ってはいませんから。
ここまでは正常なのです。けれどお腹が空くことはあり得ません。眷属になった時点で、吸血鬼としての特性は引き継がれますから、空腹を感じることはできにくくなると思うのですが・・・・これは、あくまで推測ですが、憶測でしかないのですが、これはイザヤが悪いわけではなく、私が悪いのかと。
私があまりにも不完全な状態だったので、うまく身体に順応させることができなかったのかと。眷属を作るという行為には莫大なエネルギーを使うのですが、そのための栄養があまりにも足りない状態だったので、イザヤの身体にも影響が出たのかと。
今まで眷属を作るときは、ここまで私が完全でない状態ということがありませんでしたので、この状態が治るのかどうかそれもわかりません。時間が解決するのかもしれませんけど、治らないかもしれません。それは私にもわかりません。今まで事例がありませんので」
「そうなのか。まぁ僕にとってはそうなのかしか言えないし、食事自体嫌いじゃないから僕にとっては悪いことではないことだとポジティブに取っておこう。戦えないほうがずっと怖かったからな。それに飢え死になんてもっとごめんだ」
食事を楽しめないのは普通につらいからな。そこはよかった点だろう。
それに彼女は自分が悪いと言っているが、それも仕方のないことだろう。
食事にありつけなかったのはリアンが悪いのではなく、時代が悪かったとしか言えない。
むしろ今まで生きてくる中で、よく耐えたほうだろう。
女性型の吸血鬼は食に貪欲。リアンもその例にもれず食事には貪欲なのだろう。今まで空腹に耐えながら一人で必死に生きてきた。死に物狂いという言葉は、彼女のためにあるのではないかと思える。
今日のあの食事の様子を見ていれば、どれだけ大変だったのかが容易に想像できた。
だから僕は、リアンのことをどうにかして褒めたかった。
立ち上がり彼女の隣まで歩く。
僕が隣に来たことを疑問に思ったのか、リアンは頭にクエスチョンマークを浮かべているような顔をしている。
そして僕はリアンの頭をなでた。鈴蘭も褒めてほしいときは、よく頭を撫でてほしいと、ねだってきていた。だから誰かを褒める方法はこれで正しいと思っていた。
「な、なな、なんですか、急に」
「よく一人で頑張ったなって。僕は人の褒め方がよくわからないから、幼馴染はこうしてあげたら喜んだんだ。だからリアンが今まで頑張ってきたことへの、僕なりの報酬みたいのものかな。リアンはすごいな。リアンはすごいよ。すごい」
彼女のつやつやの髪をなぞるように撫でれば、すごく気持ちよさそうにしているが、すぐに顔を真っ赤にしてうつむいた。
「も、もう、大丈夫です。リアンが私のことをすごいと思ってくれているのはよく伝わりました。ありがとうございます。とても嬉しいですから、は、話の続きをしてもいいでしょうか」
そうかといって、僕が彼女の髪をなでるのを止めれば、リアンは深く深呼吸をして、頬の火照りを覚まそうと、自分の手でぺちぺちと叩いている。その仕草がすごくかわいかった。
実をいえばリアンの髪がすごくさらさらしていて触り心地がよかったから、もっと触っていたかったのだが、リアンが話の続きをするというなら、僕も真剣に聞かなくてはいけないと思った。
僕が元の席に戻ろうとしたとき、袖を引っ張られる感覚があった。
何かと思って振り返れば、リアンが僕の袖を握っている。
「べ、別に隣で聞いていればいいじゃないですか。わざわざ戻る必要もないですし」
「そうか」
何か反論しても、リアンは僕の袖を離してはくれなさそうだったから、それで時間を割くのはもったいなかった。だからそのまま彼女の隣に座る。
いままで女性と接する機会なんて鈴蘭くらいだったのに、さっきリアンの髪をさらっと撫でられたのは、羞恥という感情が薄れてきているからなのだろうか。
そう考えると僕が吸血鬼化している、と言われたのが一番肌で実感できる。
それに、彼女も褒められたの事態が久々だったのかもしれない。それで嬉しかったのなら、僕も彼女のことを褒めた甲斐があるというものだ。
僕がそんなことを考えていると、リアンが咳払いをして話の続きを話始めた。
「まだ吸血鬼について聞きたいことがあると思うのですが、先に話を本題に戻します。最後に一気に質問を聞きますので。どこまで話しましたか・・・・あぁ、そうだ。五年の間に始祖を倒すことができなかったら、なぜどうすることもできないのかという話でした。まぁ単純な話なんですけどね・・・・逃げられるからです」
「え、それだけか?」
「そうです。それだけです。数を増やした魔族は、再び世界中に散るでしょうね。日本にいてももうエサはない。そこに住んでいるのは魔族だけですから、自分の領地の争いをするだけで種にとって何の意味もないですから。
始祖にとってもそうです。日本で生きている意味がない。もし今の機会を逃せば、始祖と世界を舞台に鬼ごっこをすることになります。二度と捕まえることのできない鬼ごっこを。捕まえるのに何百年も、何千年もかかります。吸血鬼なので生きることはできますが、そんなことしたいですか?」
「それは・・・・ごめんだな」
世界中を飛んで回れるのなら楽しいかもしれないが、きっとそんな楽しむ暇もないのだろうな。
毎日魔族と戦って、毎日血を流す生活。そんなことが何百年だなんて耐えられる気がしない。
「私は構いませんよ。世界中を駆け回ってでもあいつを倒せるのでしたら。あいつのことは憎くてしょうがないので」
リアンが唇を強く噛む。手を強く握りしめる。目に宿るのは憎しみ、怒り、そんな負の感情だ。今までそんな表情を見せなかっただけに驚いた。
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