正体を知る2

「君の言いたいことはわかった。とりあえず僕が君を罵倒することはないし、君の前から消える気もない。リアンの手伝いというのも、僕にできることならしてあげたいと思っている」

 僕が答えるとリアンは、ぱぁっと涙を晴らして、僕に飛びついた。

「本当ですか‼ ありがとうございます‼」

 さっきまで泣いていたのが嘘のように、特徴的な八重歯が見えるほど満開の笑みで僕に笑いかける。  

「・・・・もしかして、嘘泣きか?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 そっぽを向いている。返事をしないということは、肯定ととってもいいのだろうか。

「もしかして全部作り話か? だったら僕は・・・・」

 そっぽを向いていた顔をこちらに向けて、リアンは首を横にぶんぶんと振った。

「それは嘘ではありません。全部本当にあったことで、それは信じてほしいです。本当にあなたに同調してほしくて、私の話を聞いてほしくて・・・・私も必死なんです。私に使える手段は全部使います。それで私の目的が達成できるのであれば」

「ふぅん、まぁいいや。本当かどうかなんて、さして重要じゃない。重要なのは君の言う手伝ってほしいということの内容だ」

「そうでした、手伝ってもらえるということに舞い上がってしまいました」

 立ち上がっていたリアンは一度向かいに座りなおし、ふぅ、と一息ついた後にその内容を話し出した。彼女の口から飛び出した言葉はあまりにも衝撃的で、かつ無謀なものだった。

「私がイザヤに手伝ってほしいことは・・・・・・この世から魔族をすべて消し去ってほしいのです」 

「・・・・・・は?」

「ですから、ようは魔族を絶滅させてほしいのです」

「そこがわからなかったわけじゃない。意味は分かる。ただ何を言ってるのかがわからないだけで・・・・えっと、本気で言っているのか?」

「本気です。本気で魔族を絶滅させたいと願っているのです」

「・・・・聞きたいことは山ほどあるが、一つずつ聞いていこうか。魔族を絶滅させる。これはあまりにも無茶だ。この世にどれだけの数の魔族がいると思っている。それこそかつて君たち吸血鬼がいた時代にも絶滅しなかったんだ。吸血鬼がどれだけ殺していたかは知らないが、それを僕たち二人でやるとなると不可能だ」

 彼女は首を横にぶんぶんと振る。不可能だという僕の意見を否定しているのか。

「イザヤの口ぶりから察するに、あなたはいろいろと知らないことが多すぎると思うのです」

 いいですか? と、人差し指を立てて、

「まず一つ。この世にどれだけの数の魔族がいるのかという質問。これは簡単です。十分絶滅させられる程度の数、です」

「いやいや、魔族がいるのはこの周辺だけなわけじゃないぞ。日本中・・・・いや、世界中に存在しているんだ。僕とリアンだけでどうにかなる問題じゃない」

「ですから、そこが知らない部分だというのです。まず、魔族は世界中に存在していません。日本以外の魔族は、ほとんど狩りつくされました。魔族が残っているのはここ日本と、他少数の国に少し残っているくらいです。

 しかもその少数というのも本当にわずかです。人口が少なく、そこから劇的に増える見込みがない国に少し存在している程度です。これだけ大量の魔族がいるのは日本くらいなのです。

 理由はいくつかありますが、大きな理由として一つ、日本が魔族にとって狩りやすすぎる格好の的であることです」

 リアンの言っていることに矛盾があることに気づいた。 

「どういうことだ? 日本も今、人口が減りつつある。魔族にとっての食料が減ってきていることは問題じゃないのか。それこそもっと人口が多い国なんて山ほどある」

「確かにそうですね。日本も人口減少の道をたどっている。魔族にとっての食料が減りつつあるのは事実ですね」

 それじゃあどうして。と言おうと思ったのをリアンに遮られた。

「けれどそこは問題ではないのです。

 日本人は魔族を殺すのに長けてなさすぎる。外国人が魔族を殺すのが好きとか、そういうことを言っているのではないですが、日本が異常なのです。魔族を殺す知識を知らなすぎる。

 実際問題、イザヤも魔族を狩ったことがないと言っていましたよね? 日本人で魔族を狩れる数があまりにも少数すぎるのです。他の国では子供にも最低限の武器の扱いと、魔族との戦闘訓練が行われています。魔族狩りの育成にかける力が違いすぎるのです。どれも、自分の種を絶やさぬため。防衛の方法を知っておくため。

 だから魔族にとってこんなにも安心して生きられて、食料も確保できる場所はほかにないのです。人口密度が高いのもそれに拍車をかけています。あの高すぎる密度の中で、一人くらいさらってもばれませんから。それもあってもともと外国にいた魔族が日本に移動してきているというのも事実。世界中の魔族が、日本に集まってきているといっても過言ではないのです」

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