絶望する者3

 避難所につき、僕は隅のほうに座り込む。僕を引っ張ってきてくれた大人がご飯を持ってきてくれるが食べる気になれなかった。放っておいてほしかった。

 最初は、無理やりにでも渡そうとしてきたが、僕が食事に手を付けようとしないのを見て察したのか、大人はその場を離れていった。

 独りだ・・・・独りぼっちだ。なんで独りなのだろうか。鈴蘭が本当ならいたはずなのに。いや、本当ならば僕はここにはいない。家に埋もれて死んでいたのだから。僕が死んで、鈴

 蘭が生きていたはずなのだから。

 それなのに、どうしてこんなところで独り座り込んでいるのだろうか。考えれば考えるだけ鈴蘭のことを考えてしまう。負のスパイラルに飲み込まれてしまう。

 だから僕は・・・・考えることを止めた。そうすることで僕は心が壊れるのを自分で防いだ。


 考えることをやめてからどれくらいたっただろうか。視界に映る範囲には時計がない。

 携帯は見たくない。何かの拍子に鈴蘭との思い出が見えそうだったから。

 考えるのをやめて、僕が壊れるのを防いだはずなのに、ふとした拍子に鈴蘭のことを思い出してしまう。どうやったって頭の中から離れてくれない。

(僕が殺してしまった。僕のせいで鈴蘭は死んだ。僕は人殺しだ)

 声を出して暴れまわりたかった。いや、いっそのこと殺してほしかった。そうすれば僕はこんなに苦しまなくてもいいのではないだろうか、そう思えて仕方がなかった。

 窓から外を眺めれば、太陽の光が見えない。代わりに月明かりが真っ暗な夜に輝いていた。燃え広がっていた炎は見えない。僕らの街を燃やし尽くしたのだろうか。

 微量な月明かりの光では街の様子を伺うことはできなかった。

 街を襲っていた魔族の気配もない。討伐されたか、街の中にいた人たちを食い尽くしてどこかへ去っていったのか。誰かの悲鳴も、魔族の叫び声も聞こえない静かな夜だった。

 避難所でも誰かのすすり泣く声しか聞こえない。家族を失ったのか、恋人を亡くしたのか、だれか大切な人が、大切な場所がなくなったのだろうか。

 ここにいたら僕も涙しか出てこないから、危険が残っていることを承知の上で外に出た。

 いっそのこと残っている魔族が僕を殺してくれたら、どれだけ楽なことだろうか。

 避難所から僕らの街のほうへと自然に足が動いた。今日、街に魔族が現れたのだから、まだ魔族が残っている一縷の望みだけを頼りに避難所から街までは何キロも歩くことにした。

 しかし住宅街から離れた場所避難所を作ることは当然の考えなんだろうが、今の僕にとってそれは嬉しくない配慮だ。

「くそ。なんでこんな遠くに作ってあるんだよ。戻るのが大変じゃないか」

 僕は今ものすごく空腹で喉がからからだ。朝ごはんを食べる暇もなく、避難所でも水さえ飲んでない。そのうえ履いていたサンダルはどこかに行ってしまった。

 サンダルを探す気力もなく外に出たから裸足で足が痛い。

 何キロもアスファルトの上を裸足で歩いているから足の裏を擦りむいてめちゃくちゃ痛い。

「はぁ、もう疲れた。少し休憩してからまた歩こう。いや、ここで座り込んでいたら魔族が襲ってこないかな」

 そうして僕は道のど真ん中に座り込む。体育すわりで。足を腕で包んで、額を膝にぶつけるようにしてうずくまる。

(あぁ、鈴蘭・・・・なんで僕なんかを助けたんだ。僕のことなんか放っておけばいいのに。自分だけ助かればよかったのに。それじゃ、鈴蘭も僕のことで悩んでしまうのか。あいつは優しいからな。それならいっそのこと一緒に死んでしまいたかった。あぁ、生きているのがこんなにつらいだなんて・・・・)

 思考はどんどん暗くなっていく。一人でいると鈴蘭のことを考えこんで、気分もどんどん落ち込んでいく。

 鈴蘭のことを考えていると、目の奥が段々熱くなってきて涙があふれそうだった。声を上げて泣きじゃくりたかった。そんな時だ、遠くで足音と何かを引きずる音が聞こえる。

 今が夜でよかった、と僕は思った。昼間だったら人の足音や会話、車の走行音などで、聞き逃してしまうくらいに小さな音だったから。

 こんな時間に、こんな場所で、あんなことがあった場所でする足音に人間はいないだろう。

 誰もこんなところに近づこうとしない。それならこの足音はきっと魔族のものだ。引きずっているのものは人間の死体だろうか。食料を持ち帰るところなのだろう。

(ちょうどよかった。僕もその食料の中に入れてもらおう。そうすればこのうるさい思考も止まる。鈴蘭のもとに、やっと行ける)

 僕の擦りむいて血だらけの足に鞭を打って、出せる全開、我慢できる限界の速度で足音を追いかけた。

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