馬鹿と緊急事態
王国歴七二十年。ルビンス商会の商会長と第一夫人との間に徳望の赤ちゃんが生まれた。
「男の子だ。よくやったなリリス」
「ありがとう。ルイス」
二人はとても幸せそうだった。
それから十一年。赤ん坊は大きくなり十才になっていた。
「ユリスおはよう」
「おはようございます。母さん」
ユリスは食堂へと向かう通路で母親とばったりと出くわし、挨拶をかわしていた。母親は美人というよりはおっとりとした可愛い感じの人だ。
「あら、誰かと思えばごくつぶしの無能親子じゃない」
そういいながら現れたのは第二夫人のリルである。
「誰かと思えば不良在庫豚じゃないか。今日も餌を貰いにきたのか」
「誰が不良在庫豚よ!! ユリス!」
「え? 鏡見たことがないの? その太い体は豚そのものでしょ」
「ユリス。本当のことを言っては失礼よ」
「そうですか? 夫婦の邪魔をする不良在庫には、これぐらい言わないと伝わりませんよ」
ライルの言う通り第二夫人は伯爵家で性格が悪すぎて不良在庫化していた。それを伯爵が取引のあったユリスの父親に押し付けたのだ。
「跡を継ぐのは私の息子よ! そんな口聞いていいのかしら?」
「はぁ。バカですね。まだ跡継ぎは決めていないと、父さんは言っていたじゃないですか」
「後を継ぐのは長男て決まっているのよ!!」
「貴族ではそうでも、うちは商家です。能力と人格がものを言うのですよ。そんなこともわからないんですか?」
ユリスは口が悪く人格に問題があるように思えるが、口が悪くなるのは敵対しているものだけなので人格に問題はないのだ
「ふん」
口ではユリスに勝てないので、第二夫人は早々に食堂へと向かっていった。ユリス親子も食堂へ向かい、食べ終えると父親が重要な話があると切り出した
「今日辺境伯様からどんな手段を使ってでも、一週間以内に王都に薬の材料を届けろと命令された」
それを聞いた家族は皆、絶句していた。
「父さん。ここから王都まで馬車で一か月はかかるのです。そんなの無理じゃないですか!」
「ユリスの言うとおりだ。だが、どこかの馬鹿が起こした問題のとりなしを頼んだ手前、無茶な命令だとしても断れん!」
父親はそう言うと長男を睨みつけた。その目は貴様のせいだぞと語っていた。それを見た長男は顔を青くしていた。
ユリスはこのままでは馬鹿のせいで商会が没落してしまうと考えていた。東部のまとめ役である辺境伯の不興をかってしまったら、信用はがた落ち。商売ができなくなることは間違いないからだ
「このままでは、我が商会は終わりだ! 何かいい手段がないか皆考えてくれ。報酬は奮発する」
「「わかりました」」
「では、いい考えが浮かんだら報告に来てくれ。では解散!」
ユリスは急いで自室に戻ると、自分のお小遣いを確認するため食堂にいた執事のセバスを呼び出した
「セバス、俺の貯金はいくらある?」
「金貨三枚でございます」
「わかった。ありがとう」
これでユリスのやることが決まった。情報マーケットで金貨三枚で買える高速移動手段の設計情報を見つけることだ。
「情報マーケット」
ユリスがつぶやくと、目の前に検索画面が出てきた。ユリスが何度も検索するが量が多く、そう都合よく見つからず、時間だけが過ぎていった。
「あった! これだ!」
「どうされたのですか? 坊ちゃま」
近くで不思議そうにユリスを見ていたセバスが話しかけてきた。
「期日に間に合う高速移動手段を見つけたんだよ!」
「なんですと! どうやって?」
ユリスはスキルのことを説明した
「坊ちゃま! 普通はスキルの儀を行わなければスキルは使えません!このことは、授業でお教えしたはずです。なのになぜそんな重要なことを黙ってたんですか!」
「なんとなく?」
「はぁ。このことについては事態が落ち着き次第、ご両親と一緒に聞かせていただきますからね」
「そんな!」
ユリスを恐怖が襲っていた。きちんと相談、報告しなかったため、母親が聞いたらお説教間違いなしだからだ。
「はぁ。仕方ない。だがまずは、父さんに提案に行こう」
とりあえず今は目の前のことに集中し後回しにするようだ。
ドアをノックして入ると、父親が側近と協議していた。
「どうした? ユリス」
「王都まで一週間いないに移動できる手段の提案に来ました」
「なんだと! そんな手段があるのか!」
父親は驚くと共に半信半疑といったかんじの表情を浮かべていた
「はい。ゴーレムという人工の馬に馬車を引かせます。ゴーレムのスペック説明をもとに計算した所、充分可能でした」
「何!! 人工の馬だと! そんなもの作れるわけないだろ!」
父親はぬか喜びさせられたと思い激怒していた。
「いえ、作れます! 僕のスキルとドワーフの親方の協力があれば」
ユリスはすぐにスキルの説明をした
「ユリスの言い分はわかった。だが、なぜスキルが使えることを報告しなかった?」
父親は笑顔なのになぜかユリスは逃げ出したかった
「いや。なんとなくです。テヘペロ」
「テヘペロじゃない! 報告の重要性は授業で教えたよな? 罰としてお小遣いなしだ」
「な、ひどいよ。父さん! そんなこと言うなら隠し持っているエロ画の隠し場所、母さんに暴露するからね」
「な、なんだと!! ユリスなぜそれを知っている!」
「秘密です」
「なに!」
二人は睨み合い花火をちらしていた。
「お二人共今すぐやめなさい。さもないと奥様にお伝えしますよ!」
ここでセバスが諌めてきた
「わかった。ここは一時休戦としよう」
「いいでしょう。父さん」
二人はすぐに休戦した。それだけ恐れていたのだ。
「それで資金はいくら必要だ?」
「自分で出すからいいよ」
「なぜだ?」
「商会のお金を使うと商会に所有権が発生して、ハイエナどもに奪われかねないからさ」
「なるほどな。確かにそのほうがいいか。ではユリスに商会の命運を委ねることにする。頼むぞ」
「うん。任せてよ! 父さん」
ハイエナとは、長男を跡継ぎにしようとしている派閥のことである
部屋を出るとセバスに馬車を操縦してもらい、工房へと向かった。
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