アンドロイドとその生涯

 やりたくないことをリストアップした紙は、すでに端から端まで埋まっている。これらすべて、どれだけ今まで僕の時間を奪っていたかと考えると恐ろしくなる。決断は早いほどその利益を長く享受できるものだ。僕はもう、一刻も早く購入したアンドロイドを動かしたくて仕方なかった。

 最近の技術の発展は目覚ましく、コマンドさえ入力しておけば、大抵のことはアンドロイドが代わりにやってくれる。アンドロイドは人型で、僕の行いのほとんどすべてを代替しうる。それこそ、労働すらも対象に取る。人間はもはや、自分のやりたいこと、好きなことだけをやって生きていけるようになった。

 母が新しい技術には懐疑的な立場だったので、大学でも少し浮いた立場になってしまった。そんな日々も今日で終わりだ。僕もアンドロイドデビューを果たし、やりたいこと、ゲームやボウリングに興じるだけでよい人生に生まれ変わるのだ。

 初期設定がややこしかったが、そこはデジタルネイティブの見せどころ。四苦八苦しながらも、説明書の厄介になることなく、設定を終えることができた。まずは課題をやらせた。代わりにバイトに行かせた。アンドロイドの普及率が高くなってからは、仕事にアンドロイドが出ることも珍しくない。僕もバイト仲間が時折アンドロイドに仕事をやらせているのをうらやましく思っていた。バイトの時間に家で悠々と過ごせるのは不思議な気持ちだ。こそばゆいような、背徳的であるよな。しかしこの状態にもすぐに慣れるのだろう。何もしていないと人間がだめになるので、たまにはバイト仲間と示し合わせて同じ日に出勤することとしよう。無駄に消えていた時間を有意義に、自分の人生のためだけに使えるようになるのだ。心は晴れやかだった。

 それ以来、面倒と感じることが増えた。ちょっとした作業であっても、アンドロイドに代わりにやらせてしまえばよいと思うようになった。ゲームのログインボーナス、周回要素。すべてアンドロイドに自動化させて、僕はたまに画面を見るだけだ。漫画のページをめくるのも面倒になった。バイトも、次第にほとんど行かなくなっていた。

 家で泥のように眠って過ごした。将来を考える時期が近づいても、自分で何かを考えることをしたくなかった。もはや自分自身の考えなど何も信頼できず、その結果、未来に責任を負いたくなかった。

 決断と責任もアンドロイドにゆだねる。僕がすべきことは、何もなくなってしまった。こうなった責任は、誰に求めればいいだろうか。このすまし顔のアンドロイドを壊せば、責任を取らせることができるだろうか。彼に深く依存してしまった今、それすらも煩わしい。

 沈んでいく感覚をごまかすように甘いものをかきこんだ。食べ過ぎで気持ち悪くなって、自身の行いを悔いる。やはり自分では、何もすべきでないのだ。

 食べることも面倒くさい。生きることも面倒くさい。

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