揺らめく

 瞳を結晶化させる技術が確立されて以来、その集落には夜な夜な狩人が集う。集落に住む人々の特異な二色の瞳は、見る者すべてを魅了する。殺害されては眼球を取り出され、人形に埋め込んで高値で取引される。以来、集落に平穏はなくなった。彼らは両目の色が同じ部族に追われる身となり、街を転々としながら、細々と暮らしている。

 そんな集落に、一人、両目とも同じ色の男の子が生まれた。集落の人々は、自分たちを陥れる集団の兆しを示す男の子を忌み嫌い、迫害した。自分たちが襲われていることの憂さ晴らしをするように、怒りや苦しみをすべてその男の子にぶつけた。男の子はほかに居場所がなかったので、どんなに蔑まれようと、彼らについていくしかなかった。それがますます彼らの嗜虐性を逆なでし、男の子の体の傷跡は増えるばかりだった。

 両目とも異なる色の人々は、男の子を追放しようとはしなかった。ストレスのはけ口としての有用性というのも一つ理由としてあったが、最も大きな理由は、彼の持つ帰巣本能を恐れたためだ。彼を追放することによって、転々とする集落の場所を狩人たちに突き止められることを恐れた。少年期の帰巣本能は、軽視できない。万が一にも魔の手が及ぶおそれがあるとなれば、集落の人々も男の子を軽んじることはできなかった。恐れがあるのならば殺してしまえと唱える者もいた。ただ、迫害される者としての立場が、唯一歯止めをかけた。どっちつかずの対応が、男の子の立場を宙ぶらりんにしていた。

 男の子自身も、自分自身の立ち位置、特にその価値を理解していなかった。ただ彼は自身が迫害されることの理不尽を感じておらず、当然のものと受け止めていた。

 だから狩人が、この男の子の存在に目をつけるのも時間の問題だった。

 価値とは、狩人にとっての利用価値だ。集落の人々に近づくために、この少年ほどうまい餌はない。年の端もいかぬ少年は、彼は何も知らなかった。自分が迫害される理由。それは仕方ない。ただ、自身を迫害している人々が、他人から迫害されることについても、彼は違和感を覚えることができなかった。迫害されることが当然のものとしみついて育った彼の体は、また自身を迫害する者たちが迫害されることも、当然のものと理解した。

 少年を篭絡するのは容易だった。狩人たちは隙をついて少年に接触し、集落内部の様子を探った。少年は、自身と同じ目の色をした狩人たちに歓喜した。

 集落は一晩と持たなかった。少年が亡くした集落に対して抱く感情はなかった。未練も、解放された感覚も何もなかった。ただ当然のことが当然として起きたもの。

 焼け落ちる家々や死にゆく人々を見ても、彼はそう考えることしかできなかった。

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